JERAが二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロ(ゼロエミッション)実現に向けた取り組みを加速している。成長戦略では再生可能エネルギー発電出力を2035年度までに2000万キロワットとする新たな開発目標を定めた。個別の取り組みでは北海道で大規模な洋上風力発電を開始、愛知県の火力発電所でアンモニア燃料利用の実証実験にも成功した。奥田久栄社長は「多様な選択肢を用意し、世界各地でクリーンエネルギーを無理ない価格で安定的に使える社会をつくりたい」と力を込める。
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5兆円投資、柔軟に活用
当社は2050年にCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。日本は気候などによる季節間の需要変動が大きいので、火力で電力需給の変動を補っていく必要がある。50年度時点での火力発電については、水素やアンモニアを燃料としたゼロエミッション化を目指す。
24年4月に、再エネ開発戦略を担う英ロンドンの子会社、JERA Nexが本格的に業務を開始した。市場環
境を見極めながら質の高い案件への規律ある投資を判断する、司令塔の役割を果たす。これに併せて、再エネ開発目標を、新たに35年度までに全世界で2000万キロワットとすることも発表した。25年度までに500万キロワットとしていた従来目標は達成できる見込みがついた。
欧州で洋上風力を手掛けるベルギーのパークウィンドを買収し、JERA Nexを中心にグローバルな開発を、日本、米国、シンガポール、台湾などにある各地域の会社
はローカルな開発を担う。グローバル力とローカル力を組み合わせて再エネ開発を進め、世界トップレベルの再エネプレーヤーを目指す。本当の意味で再エネ開発を世界的に進められる体制を築いた。
5月には再エネ、水素・アンモニア、液化天然ガス(LNG)の3領域で、35年度までに5兆円を投資する成長戦略をまとめた。技術革新、エネルギー政策、市場環境の変化に柔軟に対応できるよう、投資額は各領域1兆〜2兆円と幅を持たせた。例えば、発電所の支持構造物を海上に浮かす浮体式洋上風力発電で技術革新があった場合、再エネ領域の投資のウエートを上げる。
「先駆的モデル」の手応え
2000万キロワットの再エネ開発では、洋上風力発電が最も多くの割合を占めると見ている。24年1月に北海道で石狩湾新港洋上風力発電所の運転を始めた。23年12月にはJパワー、東北電力、伊藤忠商事との企業連合で秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖の洋上風力発電事業者に選ばれている。
石狩湾新港は今後洋上風力発電所を設置していく先駆的なモデルケースになる。大規模な蓄電池とセットにしたことで、一時的に発電所からの供給が減っても蓄電池から電気を送ったり、作り過ぎた電気をためたりと需要変動に対応できている。
24年4〜6月には、碧南火力発電所(愛知県)で燃料の石炭を熱量比ベースで20%アンモニアに転換して燃やす実証実験に成功した。成果の一つが、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)の発生を、既存の石炭火力と同等以下に抑えられたことだ。欧州で問題視された、温室効果の強い一酸化二窒素(N2O)については、発生が確認されなかった。
もう一つが発電所の運転を止めずに、定期点検に併せた形でアンモニア燃焼用にバーナーを入れ替えられたことだ。今後国内外の他の発電所でアンモニア燃料への転換を進めるうえでのモデルをつくれた。
米国の火力発電所で進めている、体積比で天然ガスを最大40%水素に転換して燃やす商用運転も順調だ。国内のガス火力発電所で同30%まで水素燃料に転換する実証実験に向けた準備を進めている。
供給網、一気通貫で
アンモニア発電の課題は燃料の調達だ。発電出力100万キロワットの発電所で、20%の燃料をアンモニアに転換すると、アンモニアが年間50万トン要になる。当社が目指す35年時点での取扱量は水素も含めアンモニア換算で700万トンとなる。肥料向けが中心となっている既存市場から買える量ではない。世界中で供給網(サプライチェーン)づくりに製造、輸送、発電まで一気通貫で参画し、供給網全体を管理できるようにしたい。
直近では、韓国企業と水素、アンモニアのバリューチェーン構築に向けた合意書を締結した。アジア全体でアンモニアを使うプレーヤーを増やしたい。
海外のアンモニア製造大手などと、新設するアンモニアプラントに当社が参画する協議を進めている。アンモニアを運ぶ大型船も必要なので、日本郵船や商船三井と検討を進めている。
水素の供給網づくりでは水素を輸送する方法が他の燃料より難しい。例えば、アンモニアはマイナス33度で水素を運べるが、液体水素であればマイナス約250度で運ぶ必要がある。このため、大量のエネルギーを消費したり、輸送効率が悪かったりと越えるべきハードルが高い。他の発電方法で発生したCO2を回収して地中などに埋める「CCS」の方が経済性に優れるなら、それも選択肢の一つになる。
多様な選択肢を用意しているのは、どの技術も完璧ではないからだ。いろいろな問題を抱えながらも、今できることを積み重ねて、50年までにCO2の実質排出量ゼロに持っていきたい。
洋上風力発電、導入の動き進む
再生可能エネルギーの一つ、風力発電でも官民双方が導入に力を入れているのが洋上風力発電だ。陸上風力発電で指摘される、風車による発電所周辺への騒音や、普及に伴う適地の減少といった制約が比較的少ない特徴がある。国内では2022年に支持構造物を海底に埋め込む着床式の大規模商用運転が始まった。構造物を海上に浮かす浮体式の実証実験に向けた取り組みも進む。半面、世界水準で見ると導入は遅れている。
政府の「洋上風力産業ビジョン」では、洋上風力発電を「大量導入が可能であり、コスト低減による国民負担の低減効果や経済波及効果が大きい」と指摘。「再エネの中でも、特にその導入拡大が期待される電源」と位置づけ、導入目標を30年までに10ギガワット(1000万キロワット)、40年までに30〜45ギガワットとした。洋上風力発電の利用拡大を目指す再エネ海域利用法も制定し、促進区域で事業者を公募し実証実験を続けている。
導入は設置が容易な着床式が先行している。22年12月には秋田県の能代港で丸紅系の秋田洋上風力発電(秋田市)が国内初の大規模商業運転を開始。24年1月には北海道の石狩湾新港でJERAと同社子会社で再エネ開発のグリーンパワーインベストメント(東京・港)も運転を開始した。
着床式は遠浅の海岸向きだ。急深となっている海岸が多い日本では適地が少なく、浮体式の導入も欠かせない。政府は実証実験の事業者として、24年6月に愛知県田原市・豊橋市沖で中部電力系シーテック(名古屋市)やカナデビア(旧日立造船)などの企業連合を、秋田県南部沖で丸紅系の丸紅洋上風力開発(東京・千代田)、東北電力などの企業連合を選定した。
風力発電産業の国際的業界団体、世界風力会議によると、世界の洋上風力発電の導入量は23年時点で75.2ギガワットで、導入量に占める割合は中国が50%でトップ、英国(20%)、ドイツ(11%)が続く。日本は0.3%にとどまる。
日本の洋上風力発電導入の課題について、内閣府の再生可能エネルギータスクフォースのメンバーなどを務めた、公益財団法人アジア成長研究所の八田達夫理事長は「民間任せにされている設置時の環境アセスメントや漁業権交渉などの投資の障害は官主導で解決すべきだ」などと指摘している。
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キーワード アンモニア燃料
火力発電で、石炭などの化石燃料に代わる燃料として利用する。化石燃料と違い、燃焼時に直接二酸化炭素(CO2)を出さない。液化水素や水素をトルエンと化学反応させた液体、メチルシクロヘキサン(MCH)に比べ、海上輸送などで運びやすい利点もある。温暖化ガス排出量を実質ゼロにするゼロエミッション火力発電の方法として世界各国の電力会社が注目している。
アンモニアは現在化学肥料の原料などに用途がとどまり、火力発電の燃料として利用できる生産量が確保できていない。次世代の火力発電の方法となるうえでは、燃焼技術だけでなく世界的な供給網(サプライチェーン)の確立が課題になる。さらにゼロエミッション火力発電の燃料とするには水素などと同様、製造過程でも温暖化ガスを出さないことも求められる。
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