内閣府の生命倫理専門調査会は7日、万能細胞を使ってヒトの受精卵(胚)を再現する「胚モデル」の研究について、国への届け出など一定の規制が必要だとする報告書を大筋で了承した。不妊の研究に役立つ一方、研究の進展で本物の胚に近づく可能性があるため、ルールを明確にする。

胚モデルは胚を模した細胞の集合体で、体の様々な細胞に育つ能力があるiPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)を特殊な条件で培養して作る。

倫理面での制約が多い本物の胚を使わずに、ヒトが1つの受精卵から細胞分裂を繰り返していく発生初期の知見が得られると期待されている。不妊や流産の原因解明に役立つ。

現時点で胚モデルは胚の特徴の一部を示すにとどまる。ただ、研究は急速に進展しており、将来的には胚と同等の機能を有する胚モデルが作られる可能性がある。国内では、ヒトの受精卵や胚は「生命の萌芽(ほうが)」と位置付けて、研究が厳しく制限されているが、胚モデルそのものを対象としたルールはなかった。

調査会がまとめた報告書では、胚モデルは子宮に移植したとしても胎児になって「人として誕生し得る存在」ではないことから、胚と同じ規制は必要ないとした。一方、科学技術の進展に伴って将来、胚と同等の機能を持つ胚モデルが作られたり、不適切な研究に使われたりする可能性も考えられることから「一定の規制が必要」と指摘した。

明示した規制の内容は①研究の際は研究機関の倫理審査委員会による審査や国への届け出を必要とする②ヒトや動物の子宮への移植といった認められない研究を規定する③培養期間は必要最小限に設定して研究ごとに倫理審査委で確認する――などだ。

胚モデルの培養期間については、受精後14日以降の胚の研究を禁止している「14日ルール」の適用は不要とした。培養期間の上限も、長期にわたって胚モデルを培養することが技術的に困難なことから、現時点で設ける必要はないと判断した。

調査会は最終的な報告書を政府の総合科学技術・イノベーション会議(議長・石破茂首相)に提出する。内容を踏まえて文部科学省などの関係省庁が関連する研究指針の改正に向けた検討を始める。

胚モデルをどのように取り扱うべきかは国際的な課題となっている。背景には研究の進展にルール作りが追いついていない現状がある。

胚モデルの研究は、マウスのES細胞から胚モデルを作ることに成功した2017年の研究成果を皮切りに相次いで報告されている。23年には英国やイスラエルなど複数の研究チームが、受精後14日相当のヒト胚に似た胚モデルを作製したと一斉に発表するなど、研究は広がっている。

ただ、胚モデルを明確に対象とした法律や指針を整備している国はフランスのほか、法律の定義上、胚モデルを胚と同様に規制しているオーストラリアなどごく一部にとどまる。研究範囲が不明瞭だと不適切な研究を助長したり、かえって研究を萎縮させたりする可能性がある。

こうした状況を踏まえて、国際幹細胞学会は21年のガイドラインの改定で、新たに胚モデル研究に関する研究指針を盛り込んだ。胚モデルの培養は研究目的の達成に必要な最短期間にとどめたり、ヒトや動物の子宮に移植することを禁じたりしている。24年末の公表をめどに、胚モデルに関係するガイドラインのさらなる改定作業も行われているという。

研究者が主導して胚モデル研究に関する規定を提案する動きもある。英国では24年7月、発生生物学者や法学者、生命倫理学者らで構成される作業委員会が世界で初めて、胚モデルに特化した規定を公表した。

専門の監督委員会が研究目的などを審査し、承認された期間のみ培養を認めることなどを提案している。規定は英国内での利用を想定しているが、他国でも用いることを推奨している。

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