名古屋大学などの研究グループは燃料電池で水素イオンが行き来する「電解質膜」の新材料を開発した。効率向上が期待されるセ氏120度の高温環境に適応し、国際的な規制が進む有機フッ素化合物(PFAS)を含まないため環境に優しい。材料メーカーなどと連携し、燃料電池車(FCV)向けに2030年代前半の実用化を狙う。
現在市販のFCV搭載の燃料電池は70〜90度で動作する。発電効率を高めるために100度以上の高温動作に向けた研究開発が進む。課題となるのがフッ素系の材料でできた電解質膜だ。100度を超えると水素イオンを通すための水が蒸発し、伝導率が極端に下がる。水分子が少なくても水素イオンを通す電解質膜が要る。
研究グループは独自設計の炭化水素系膜を開発した。炭化水素の分子が鎖のように伸び、その側面に多数の「ホスホン酸」の分子が結合している。あるホスホン酸に水素イオンがくっつくと、枝が左右に動いて隣のホスホン酸に受け渡す。水分子が少なくてもバトンリレー方式に水素イオンを動かせる。
120度、湿度20%の環境で従来のフッ素系膜や炭化水素系膜と性能を比べると、それぞれ40倍、4倍に水素イオン伝導率が高くなった。
ただし実用化に向けては一層の改良が必要だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による技術開発ロードマップが掲げる35年の目標に比べると、現時点の伝導率は低い。研究を主導した野呂篤史講師は、「実験では湿度20%環境で計測した。同30%ならばもっと向上するだろう」と補足する。新材料も開発中という。
膜は高温時の耐久性が良好で、PFASを含まないため環境に優しい。コストもフッ素系膜と同等以下になる可能性があるという。
高輝度光科学研究センターとの共同研究で、米化学会が発行する学術誌「アプライド・ポリマー・マテリアルズ」に掲載された。
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