今のクルマは個性がないとお嘆きのアナタ、それは確かに間違ってはいない。だって、ほんの数十年前は“こんなクルマが?”と思う異端児がフツーに売られていたのだから。ここでは、その最たるモデルを5つ紹介したい。
文/FK、写真/日産、ホンダ、三菱、マツダ
■和製ハマーH1の異名を取ったクレイジーすぎるトヨタのメガクルーザー
陸上自衛隊の人員輸送用車両として開発された高機動車を民生仕様に仕立て、1996年1月に発売されたメガクルーザー。
高い不整地走破性能によって救難救助車、救急車、未開地域走破用などの特殊用途に使用された車両ではあるものの、民生用としてこのようなモデルが販売されていたこと自体、今となっては驚くばかりだ。
上記のような用途に使用されていたモデルだけあってサイズは全長5000×全幅2170×全高2105mm、ホイールベースも3390mmと巨大なメガクルーザーだが、逆位相式4WSの採用によって最小回転半径は5.6mという、これまた驚くべきスペックを誇っていた。
そんなメガクルーザーが搭載していたエンジンは4.1Lのインタークーラー付き直噴ディーゼルターボで39.0kgmの大トルクを1800回転で発生し、粘りのある走りを披露。
加えて、フルタイム4WD、2段センターデフロック付副変速機を備えたロックアップ付4段AT、前後ロック付トルセンLSD、大きなアプローチ&でパーチャーアングル、420mmという圧倒的な最低地上高がもたらす不整地走破性能や登坂性能も特筆すべきポイントだった。
いっぽう、室内は前席に2人、後席に4人が乗車できる6人乗りで、幅2050mmが確保されたラゲッジスペースも600㎏の最大積載量により大型救急器具などの積載も可能。また、リア中央席はシートバックの前倒し機能により荷物を取り出しやすくしたのに加え、シートバックを跨ぐことなくラゲッジスペースに移動できるような配慮もなされていた。
発売当時はもとより、現在でもほとんど目にすることがない“超”が付くほどの希少車であるがゆえに、現在の中古車市場ではタマ数が極少でかつ価格も2000万円に近いハイプライスで取り引きされている。
■日産パルサーGTI-Rは群雄割拠のWRCでもその名を轟かせた“悲運の名車”
年間生産台数が5000 台以上の量産車で争われるグループA規定による世界ラリー選手権(WRC)への参戦を織り込んで開発されたパルサーGTI-Rがデビューしたのは1990年8月。
当時のパルサーGTI-Rへの注目度と期待度はきわめて高かったが、そのメカニズムもまた期待を裏切らないワクワクするような内容であった。
まずはエンジン。大型タービン、大型インタークーラー、4連スロットルチャンバーなどを採用することによって大幅に性能を高めた、230psの最高出力と29.0㎏mの最大トルクを発生した直4の2Lターボエンジンを搭載。
駆動方式もブルーバードで高い評価を獲得していた4 輪駆動力最適制御のビスカス付きセンターデフ式フルタイム4WD(ATTESA)を採用して高い走破性も確保されていた。
それ以上に目を惹いたのが、迫力のあるエクステリアといっても過言ではないだろう。大型インタークーラーを収めた巨大なフードバルジと巨大なリアスポイラーがスゴみをきかせた個性的すぎるビジュアルは、世界ラリー選手権の参戦を目指したロードカー然たるものだった。
インテリアも油圧計・油温計・ブースト計の3連スポーツメーターをはじめ、フロントバケットシートに本革巻きのステアリング・シフトノブ・サイドブレーキレバーなど、スポーティムード満点だった。
そんなパルサーGTI-Rは発売開始から1年後の1991年からワークス体制で世界ラリー選手権にチャレンジ。1992年のスウェディッシュラリーでは最高位となる総合3位のリザルトを得たが、それ以降は熟成を待たずして1992年シーズンをもってWRCから完全撤退。
当時の日産の業績不振が重なったとはいえ、パルサーGTI-Rはわずか2年でWRCでの活躍の場が奪われた“悲運のモデル”。しかし、それゆえに、今なお記憶に残っている人が多いのかもしれない。
■異端児ながら日本自動車史に名を刻む3ローター搭載モデルのマツダユーノスコスモ
ロータリーエンジン第1号車として名を馳せるコスモスポーツの名を受け継いだ2代目コスモAPの登場から約15年後の1990年、“ロータリーエンジン”というだけでも唯一無二の存在であるのにもかからず、史上最高のロータリー車を目指すべく登場したのが通算4代目のユーノスコスモ。
その特徴は世界初搭載となった3ローター仕様の20B型ロータリーエンジンで、シーケンシャルツインターボとの組み合わせは280psの最高出力と41.0kgmの最大トルクを実現した。
そんな20B型ロータリーエンジンの圧倒的な動力性能に加え、ロータリーエンジンならではの回転の滑らかさはV型12気筒エンジンにも匹敵すると高く評価されたが、ロータリーエンジンの泣きどころである燃費性能とはトレードオフの関係があったのは言うに及ばず……。
10・15モードで6.4km/Lの極悪ともいえる燃費性能は“金食い虫”と揶揄されることも決して少なくはなかった。
このように3ローターエンジンばかりが注目されがちなユーノスコスモだったが、実は上質で豊かな気分になれるラグジュアリーな空間を目指したインテリアも特筆すべきポイントであった。
オーストリア製の最高級品を使用した本革シートや、フランス産の楡(にれ)材をミラノで仕立てた天然杢のウッドパネルなどは本物志向を目指したマツダのこだわりを感じずにはいられない。
さらに、世界初となるGPS搭載カーナビゲーションシステムやエアコン・オーディオがステアリングパッドで操作できるパームネットスイッチなども採用。
まさしく“先例のない高級パーソナルクーペ”として一時代を築いたが1996年に販売が終了し、29年間の歴史に幕を閉じた。
■ステーションワゴンの頂点を極めた三菱のランサーエボリューションワゴン
今や絶滅の危機に瀕しているステーションワゴンだが、1990年から2000年にかけてはRVブームの追い風もあって、各社がしのぎを削っていた時期もあった。その終焉を迎えつつあった2005年9月、三菱から衝撃的なモデルがデビューした。
それが、先進かつ独自のオールホイールコントロール技術を採用したランサーエボリューションIXの卓越した運動性能と、ランサーワゴンのラゲッジルーム周りのユーティリティを融合させた高性能4WDスポーツワゴンのランサーエボリューションワゴンだ。
シリーズ初のワゴンモデルとして登場したランサーエボリューションワゴン。
同年に発売されたランサーエボリューションIXをベースにランサーワゴンのボディサイドパネルやルーフパネルなどを結合した1台は、リア周りを重点的に補強した軽量かつ高剛性のワゴンボディに4G63型2Lインタークーラーターボエンジンと電子制御4WDシステムを搭載することで、ステーションワゴンとしては比類ない優れた運動性能を実現。
特に、上位グレードのGTは6 速MTとの組み合わせによって全域に渡って鋭いレスポンスとフラットかつワイドなトルク特性でステーションワゴンらしからぬ走りを披露した。
駆動系もフルタイプ4WDシステムをベースに、センターデフにはハンドリング性能とトラクション性能を両立するアクティブセンターディファレンシャルを、リアデフにはあらゆる路面状況でも優れた直進安定性を発揮しながらトラクション性能を高める機械式 LSD を採用。
GTグレードではフロントデフにもトラクション性能に優れるヘリカル式 LSDを採用するなど、より高いレベルでのスポーツドライビングを心ゆくまで楽しめるスペックが与えられていた。
■終わりなきアウトドアブームが続く今の日本なら売れそうなホンダ Z
水中メガネと呼ばれたリアウィンドウとスポーティなクーペフォルムで人気を博した1970年9月登場のホンダZ360。その2代目として1998年10月にデビューしたZはセールス的に決して成功した軽自動車とはいえなかったが、ホンダらしさを各所に満載した魅力あふれる異端児だった。
その一番の特徴は人を床上に、メカを床下に分ける UM-4プラットフォームによる50:50の重量配分を実現したアンダーミドシップレイアウトだろう。
加えて、上位グレードのZターボはハイパワーかつターボラグが少ないハイレスポンスのハイパー12バルブインタークーラーターボエンジンと走破性の高いリアルタイム4WDとの組み合わせによって高い走行性能を発揮。
また、新開発の5リンクリジッドリアサスペンション、全車速でアシスト量をきめ細かく制御する電動パワーステアリング、大径のディスクブレーキ、リアヘリカルLSDの採用などによって軽快な走りも大きな魅力だった。
一方、エクステリア&インテリアも、個性的で斬新なフォルムと大きなキャビンを実現。
小型車なみの長い室内空間を実現したスーパーロングキャビン、高いアイポイントによる全方位好視界、大人4人が快適にくつろげる広々としたフラットフロア、多彩なシートアレンジにより実現した大容量のラゲッジスペースなど、普段使いもしっかりと配慮されていた。
ボディ変形量の最小限化と乗員の傷害値低減を両立した世界最高水準の衝突安全性なども新しい価値を創造した2代目Zだったが、2002年8月に販売が終了。
4年にも満たない販売期間で短命に終わったZだが、ホンダならではの走りを重視したパッケージやSUV然としたスタイリングは、アウトドアブームに沸く今ならヒットしそうな予感!?
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