2013年3月より登場したスズキ 初代スペーシアの試乗記事をプレイバック。当初、タントのワイドなスライドドア、N-BOXの抜群に広い室内に対し、スペーシアで目立つのは29.0km/LのJC08モード燃費だけだった。突出した機能がない代わりに、長い間にわたり便利に使えるのがスペーシアと答えた開発陣の言葉の真偽を確かめるべく、試乗を敢行!(本稿は「ベストカー」2013年1月10日号に掲載した記事の再録版となります)

文:渡辺陽一郎/写真:中里慎一郎

■動力性能、ハンドリング、乗り心地はどうだ?

スズキ スペーシアに試乗! 軽自動車の新星はライバルを超えたのか!?

 まずはノーマルエンジンを搭載した売れ筋のX。足まわりはボディの傾き方を抑えるスタビライザーを装着し、タイヤは14インチを履く。

 最初に気付いたのは乗り心地が硬いこと。時速50km前後までは、路面の細かなデコボコを伝える。

 影響したのはタイヤの設定だ。燃費重視で転がり抵抗を減らすべく、エコタイヤのダンロップエナセーブEC300を装着し、指定空気圧は280kPaまで高めた。

 通常は190~220kPa前後だから、乗り心地が硬くなって当然だ。N-BOXやタントのほうが重厚感があって快適に走れる。

 その半面、操舵に対する動きの鈍さは感じない。操舵角度に忠実に回り込み、少し速度を高めても旋回軌跡を拡大させにくい。

NAは圧倒的アドバンテージの燃費性能。なお、売れ筋グレードの価格はスペーシア(X)132万3000円、タント(X)132万円で価格差は小さい
NAのパワー&トルクは52ps、6.4kgm。ややパワー不足だが、エンジン回転を高めにキープするとよく走る

 こうなると旋回速度が高まって不安を感じるが、曲がっている途中でアクセルを閉じたり、ブレーキを踏んでも挙動を大きく乱すことはなかった。

 これはスペーシアの注目点。ライバル車は安定性を確保すべく後輪の接地性を重視して、速度を少し高めて曲がると旋回軌跡を拡大させる。

 車両を曲げることを抑えて安定させたが、スペーシアではこの妥協をあまり感じない。

 動力性能もスペーシアが優位だ。Xの車両重量は850kgだから、タントに比べて80kg、N-BOXよりは100kg軽く、実用回転域の加速に余裕がある。ただし、登坂路や高速道路では力不足を感じる。

 続いてターボのT。操舵性や乗り心地はNAと変わりなく、64psの動力性能は軽量ボディとの組み合わせで、1.3Lのコンパクトカーと遜色ない。JC08モード燃費も26.0km/L。

 NAの動力性能に不満ならターボを検討したい。

ターボはコンパクトカー並みの動力性能を誇る
64ps、9.7kgmというパワー&トルクのターボエンジン。コンパクトカークラスに匹敵する加速力をみせる

■スペーシアvsタント 燃費ガチンコ対決

 スペーシアのJC08モード燃費は29.0km/L。ライバル車のタントは25.0km/L。東京ディズニーリゾート周辺を2台でドライバーを交代しながら走って実用燃費を計測した。

 車載燃費計によれば、スペーシアが20.8km/L、タントは16.6km/Lだ。JC08モード燃費の達成率は、スペーシアが72%、タントは67%になる。

 ここまで差が開くとは思わなかった。スペーシアの誤差が大きいと仮定して5%を差し引いても、19.8km/Lで達成率は68%。スペーシアはやはり燃費性能が優れる。

 不思議なのはボディが60kg軽く、全高が95mm低いワゴンRが28.8km/Lでスペーシアが29.0km/Lになること。開発者にスペーシアの秘策を尋ねた。

「スペーシアでは、ワゴンRが採用しない低燃費技術として、タイミングチェーンの幅を35%狭く抑えた。CVTの副変速機はローギアを使う機会を減らし、ハイギア状態を長く保てるように制御している。エンジンにも手を加え、これらが数値を押し上げた」と説明する。

市街地を約1時間連続走行して燃費を計測。スペーシアの20.8km/L対し、タントは16.6km/L。スペーシアのアイドリングストップが効果的

■居住性、使い勝手、シートアレンジ

 インパネなど内装の造りは、上質ではないが不満もない。前席はパレットに対してバックレストを60mm拡大。肩まわりのサポート性もいい。座面は柔軟。サイズ、座り心地ともに満足できる。ただしライバル車との差はつきにくい。

 後席はアレンジが多彩。床面へ落とし込むように畳めばボックス状の荷室になり、自転車も積みやすい。折り畳みに加えて前後スライドも左右独立式だ。

 後席の左側にチャイルドシートを装着した時、前に寄せれば信号待ちの時などに親が子供のケアをしやすい。右側は後端まで寄せると、足元が広がって大人も座れる。左右両方を前側に寄せれば、車内の後部に子供用の自転車を積む空間も得られる。

数値的にライバルに後れをとる室内高だが、実用上は充分だろう。自転車も収納できる設定である

 N-BOXでは、後席の座面を持ち上げて車内の中央に背の高い荷物を積めるが、スライドの機能はない。

 タントはスペーシアと同じアレンジが可能だが、後席は座面の柔軟性が乏しく、大人の着座に適さない。スペーシアの座り心地も快適とはいえないが、タントよりは座面がしなやかで不満を感じない。

 収納設備は豊富。グローブボックスの内部にボックスティッシュを収めると、その上部のトレイに設けられた開口部からティッシュペーパーを取り出せる。

 フロントオーバーヘッドコンソールにもボックスティッシュが収まり、この状態でグローブボックス内部に別売りのユーティリティボックスを装着すると、前述の開口部を使ってゴミ箱としても機能する。

 スペーシアは多彩なシートアレンジと後席の座り心地を両立させ、背の高い軽自動車でありながら走行安定性もいい。突出した注目点はないが、機能のバランスが取れている。開発者のコメントは誇張ではなかった。

■乗ってわかったスペーシアの◯と×

 背の高い軽自動車ながら操舵感が自然で曲がりやすく、ボディが軽いから動力性能も不満を感じにくい。燃費も優秀だ。

 内装では後席に注目。多彩なアレンジと座り心地を両立させた。

 ただし、後席を畳むと前席のスライド量が制限され、身長170cm以上のドライバーは、体がハンドルやペダルに近づきやすい。スライドドアの開口幅も少し狭く、N-BOXを60mm下まわる。

 乗り心地はXとTは硬めだ。しかし13インチタイヤのGは少し快適。

 スタビライザーは非装着だが、タントやN-BOXに似て操舵感を鈍く抑え、バランスはさほど悪くない。XとTの乗り心地もGに近づけてほしい。

後席のシートは座り心地がよく○。
14インチのエコタイヤは硬い乗り心地で×

■スズキ 初代スペーシア 主要スペック(グレードX・FF)

・全長×全幅×全高:3395×1475×1735mm
・室内長×室内幅×室内高:2215×1320×1375mm
・ホイールベース:2425mm
・車重:850kg
・エンジン形式:直3DOHC
・総排気量:658cc
・最高出力:52ps/6000rpm
・最大トルク:6.4kgm/4000rpm
・JC08モード燃費:29.0km/L
・価格:132万3000円
・エコカー減税:免税

(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)

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