韓国の現代自動車と米国のプラスが提携し、「エクシェント・フューエル・セル」(エクシェントFC)燃料電池大型トラックに、プラスのレベル4自動運転ソフトウェアを搭載した。自動運転+燃料電池のトラックは北米市場でも始めての車両だ。

 エクシェントFCは商用のFCEV大型トラックの嚆矢となったが、同グループは水素の製造も開始しており、ビジネスモデルを水素バリューチェーン全体に拡大している。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/HYUNDAI MOTOR GROUP

「エクシェントFC」に自動運転機能

プラスの自動運転システムを搭載した現代自動車の「エクシェントFC」トラック(同社のユーチューブチャンネルより)

 韓国の現代(ヒョンデ)自動車と、米国の自動運転ソフトウェアのリーダーであるプラス(Plus.ai)は、レベル4自動運転クラス8燃料電池トラックを、2024年5月にラスベガスで開催された先進輸送技術の展示会「アドバンスト・クリーン・トランスポーテーション(ACT)エキスポ」で公開した。

 水素技術に積極的な現代自動車は燃料電池電気自動車(FCEV)の「エクシェントFC」で北米の大型トラック市場に参入している。今回、プラスとの提携で同社の「スーパードライブ」レベル4自動運転技術をエクシェントFCに搭載した。

 (「クラス8」は米国のトラック区分で最も重いクラスのこと。また自動運転におけるSAE「レベル4」は、限定条件下ですべての運転操作をシステムが担い、運転の主体が人間ではなくシステムにあるものを指す)

 レベル4自動運転のエクシェントFCは、米国内で自動運転機能の性能評価を実施しているが、同国においてFCEVのクラス8大型トラックにレベル4相当の自動運転機能が搭載されるのは、これが始めてだ。

 FCEVトラックを自動で運転することで、トラック業界がより安全に、より効率的に、より持続可能になることを両社は目指している。

 現代自動車の副社長で商用車開発を率いるマーティン・ザイリンガー氏のコメントは次の通りだ。

 「プラスとのコラボをお見せできることを嬉しく思っています。同社のレベル4自動運転技術を搭載した弊社のクラス8トラックは現在試験を行なっています。現代自動車はエネルギーの移行というパラダイムを燃料電池技術で主導しています。

 世界初の量産型水素燃料電池トラックであるエクシェントFCに自動運転機能を追加することで、運送会社や運行管理者は安全性を向上し、貨物の輸送効率を向上する新しいソリューションへの道が開けます。これは、プラスの世界最先端の自動運転技術によって実現したことです」。

 エクシェントFCは2020年に初めて導入され、これまでに世界8か国で商用運行を行なっている。商用車の脱炭素における本命ともされるFCEVだが、これまでに登場した量産型市販車は多くない。そんな中でエクシェントFCは実運行を通じて累計走行距離と信頼性を積み重ねてきた。

 前年のACTエキスポでは(米国の長距離輸送で主流となっている)6×4トラクタ系のエクシェントFC市販車の導入が発表された。90kWの水素燃料電池システム2基と350kWの電動モーターを搭載し、一度の充填で(フル積載で)、450マイル(724km)を走行可能な北米向けの車両だ。

 いっぽう、プラスの「スーパードライブ」は、最新のセンサー(LiDAR、レーダー、カメラなど)を組み合わせることで周囲の認識、計画、予測、自動運転機能を車両に提供する。プラスは他にトレイトングループ(スカニア、MAN、ナヴィスター、VWトラック&バスなど)、アマゾン、イヴェコ、ニコラなどに自動運転システムを提供している。

 プラスのCOOで共同創業者のショーン・ケリガン氏は次のように話している。

 「より持続可能で、さらに安全な輸送を実現するため、現代自動車との提携に興奮しています。自動運転機能を備えたFCEVは未来の脱炭素だけでなく、安全性と輸送効率も向上します。弊社が最先端の自動運転技術でサポートできることを誇りに思います」。

水素の可能性は商用車だけではない

米国のACTエキスポではエクシェントFCや燃料電池システムが公開されたほか、「HTWO」ブランドの強化が発表された

 ACTエキスポにおいて現代自動車は、エクシェントFCだけでなく、水素バリューチェーン技術全体の進捗を印象付けた。

 現代自動車は数年前に燃料電池ブランドの「HTWO」を立ち上げているが、2024年初めに世界的なエネルギー移行を推進するため、その役割を水素バリューチェーン全体に拡大すると発表していた。つまり水素の製造に始まり、貯蔵、輸送、応用、消費など、いかに業界横断的に水素を活用するかということだ。

 プレスカンファレンスでは、同社副社長でグローバル商用車&水素ビジネスを担当するケン・ラミレス氏が、水素社会構築に向けたコミットメントを強調し次のように述べている。

 「弊社のHTWOブランドの役割拡大は、現代グループがモビリティを超えて世界的な水素のバリューチェーンに事業を拡大するということを意味しています。モビリティに深く根差したエネルギー企業は私たちの他にありませんし、エネルギーの変革にこれほどまでに取り組んでいるモビリティ企業も、私たちのほかにはありません。

 その目標は常に明確です。すなわち、エネルギーとモビリティという二つのセクターにおける私たちの強みを活かし、水素社会を実現するということです」。

 また、米国ジョージア州のヒョンデ・モーター・グループ・メタプラント・アメリカ(HMGMA)において製造施設の脱炭素化のために、今年から社内輸送にエクシェントFCが導入され、輸送パートナーのグロービス・アメリカと共同で「HTWOロジスティクス」を設立したことなども発表された。

 次世代のエネルギーキャリアとされる水素は、特に商用車に適した特徴を多く持っている。エネルギー密度が高く(水素は比重が小さいため軽い。ただし気体の場合、容積は大きい)、バッテリーEVでは難しい長距離輸送や重量物輸送などの用途に活用されるだろう。他に発電機や産業機械、電解装置などへの応用も期待されている。

 現代自動車は世界的な自動車メーカーの中でも最も積極的に水素にコミットしているメーカーの一つとなっている。

 バリューチェーンの上流に当たる製造段階では、韓国忠州市のプロジェクトで有機廃棄物から水素を作り出す方法を開発したのも同グループだ。プロジェクトで製造した水素は水素充填ステーションに供給され、水素自動車のエネルギーとなる。同じく韓国内では下水から水素を製造する施設が今年中に稼働を開始する予定だという。

 このように水素の製造から消費まで、水素のバリューチェーン全体に渡るビジネスモデルを持っていることが、現代グループの強みとなっている。

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