物価高が続く日本国内の状況だが、それは新車の世界でも同じこと。なぜ、最近は値上げが頻繁に行われるようになったのか。自動車メーカーサイドの思惑について詳細を分析してみた。

文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部、ホンダ

■便乗値上げが続く最近の傾向

価格アップとなったZR-V

 2024年6月3日、ホンダはN-WGN、N-ONE、ステップワゴン、ZR-Vの価格改訂を発表した。この4車種は同年7月4日から新価格で販売される。例えば、ステップワゴンに1.5Lターボエンジンを搭載するエアー(7人乗り/2WD)の価格は、従来は305万3600円だったが、新しい価格は11万5500円値上げされて316万9100円になる。

 しかもステップワゴン1.5エアー(7人乗り/2WD)の価格は、2022年5月の発売時点では299万8600円であった。それが2023年4月に305万3600円に値上げされ、さらに2024年7月4日以降は316万9100円まで高まるワケだ。

 約2年前の発売時点に比べると、何の変更も受けずに17万500円が上乗せされる。この金額は4WDの価格に近い。

 ホンダの数回にわたる値上げは、改良を伴わない純粋な価格改訂だから、パターンとしては珍しい。しかし、商品改良を実施し、その時に価格も高める便乗的な値上げは、各メーカーともに実施している。価格競争の激しいカテゴリーでは、値上げしない車種もあるが、今は例外だ。大半の車種が便乗値上げを行う。

新型アルトも2023年12月に法規対応に伴う値上げを実施

 例えば、スズキアルトは以前、ベーシックなAの価格を94万3800円に抑えていた。それが2023年12月の法規対応に伴う改良で、106万4800円に値上げされた。値上げ額は12万1000円で、比率に換算すれば9%の上乗せだ。

 この値上げについてスズキの販売店では、「アルトにはなじみのお客様が多く、値上げが売れゆきに直接響くことはない。それでも初めて購入されるお客様の印象は、低価格グレードの価格が100万円未満とそれ以上では、大きく変わる」と述べている。

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■新型フリードで顕著な従来型からの値上げ

新型フリードも従来型に比べ、ほぼ同グレード同士での比較では値上げされていると筆者は指摘する

 新型車の値上げも実施される。例えば新型フリードは2024年5月9日に内外装などを公開して、翌10日からは販売店で価格や燃費数値も明らかにして予約受注を開始している。

 その内容を見ると、新型フリードで最も安価な1.5Lノーマルエンジンを搭載するエアーの価格は2WDの6人乗りが250万8000円だ。従来型フリードで最も安価なGは233万900円だったから、17万円以上も値上げされた。

 ただし、装備も異なり、従来型フリードGではサイド&カーテンエアバッグとLEDヘッドランプがオプション設定だったが、新型のエアーには標準装着される。その一方、前席シートヒーターは従来型ではGにも標準装着されたが、新型では4WDか上級のエアーEX以上でないと装着されない。

 エンジンも変わり、従来型は高コストな直噴式だったが、新型は一般的なポート噴射だ。エンジン特性は改善されたが、最高出力や最大トルクは直噴式に比べて下がる。販売店が公表しているWLTCモード燃費も、新型のエアーは2WDの6人乗りが16.5km/Lだから、従来型Gの17.0km/Lに比べて少し悪化する。

新型フリードのエアー

 このような新旧比較を踏まえると、従来型のGに比べて新型のエアーは価格差の17万円には達しないものの、実質10万円程度は値上げされた。ちなみに新型フリードの価格設定で配慮に欠ける点は、最も安価なエアーを250万8000円にしたことだ。従来型が約233万円だったから、新型が「250万円以上」になると割高感も一気に強まる。ここは多少頑張って249万8000円など、250万円未満にすべきだった。

 もともとホンダは、頻繁な値上げからもわかるように価格戦略が甘い。それが新型フリードの価格設定にも表われている。

■ランクル250の価格も大幅に上昇

ランドクルーザー250も従来型のプラドからは大幅に価格帯がアップしている

 新型車の価格では、ランドクルーザー250も注目される。入れ替えに廃止されたランドクルーザープラドの価格帯は367万6000~554万3000円だったが、新しいランクル250は520万~735万円だ(特別仕様車を除く)。価格だけを見ると150万~180万円も値上げされた。

 ランクル250はこれまでのランクルプラドに比べると、シャシーやボディサイズも刷新された。全幅の1980mm、全高の1925mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の2850mmは、ランクルシリーズの最上級車種になる300と共通だ。つまり、以前のランクルプラドは300の下に位置したが、250は並列に近付いて価格も高まった。

ランクル300

 このように考えると値上げも納得できるが、ランクル300の価格帯は510万~800万円だから、ランクル250もほぼ同額まで高まった。それなのにランクル250のエンジンは、プラドと同じ直列4気筒の2.7Lガソリン(ターボは非装着)と、2.8Lクリーンディーゼルターボだ。

 ランクル300のエンジンは、V型6気筒の3.5Lガソリンツインターボと、3.3Lクリーンディーゼルツインターボだから、250は大幅にコストダウンされている。グレードの比べ方によっては、ランクル250の装備が300以上に充実するところもあるが、エンジンの違いを考えると300が割安で250は割高になる。

■原材料費や輸送費高騰以外にもある値上げの理由とは?

ヤリスをはじめ、フィット、ノート、スイフトなど各社のコンパクトカーが一斉に2020年にフルモデルチェンジを行っている

 以上のように、今はさまざまな新型車で値上げが実施されている。値上げの主な理由は、メーカーが説明するように「円安傾向の影響を含めた原材料費の高騰や輸送費の増加」だが、それ以外にも理由はある。

 まず、一部の車種では今でも納期の遅延が残っていることだ。納期が遅れていると、積極的な販売促進は困難だから、1台当たりの利益を確実に確保したい。価格を高めて、値引きは少なく抑える必要が生じる。

 また、同じカテゴリーの車種が割安な価格で頑張っていると、自社製品が値上げすれば、それが目立って販売面で不利になる。しかし、先に述べたようにアルトの最低価格が100万円を超えると、軽自動車全体の価格体系も高まるため、ほかの車種が値上げをしても目立ちにくい。

 カルテルのようにメーカー同士で価格を連携して決めているわけではないが、結果的にはそれに近い状態になっている。特に国内向けの軽自動車やミニバンでは、互いに各車種の開発コストや得られる利益がわかるため、値上げする時の足並みも自然にそろってしまう。

 クルマの世界では「互いに示し合わせたのではないか?」と邪推したくなる場面は多い。例えば、フルモデルチェンジの時期だ。2020年にはコンパクトカーのヤリス、ノート、フィット、ソリオが一斉にフルモデルチェンジを行った。

ノア/ヴォクシーをはじめ、セレナやステップワゴンなどボックスタイプミニバンも2022年に一斉にフルモデルチェンジしている

 2022年には、ミドルサイズミニバンのノア/ヴォクシー、セレナ、ステップワゴンが一斉に新型になっている。この点について商品企画担当者は「各メーカーが同じお客様に向けて同じカテゴリーの商品を開発すると、同時期に同様のことを考えながら作業を進める。そうなると発売時期まで自然に近づいてしまう」と説明した。

 値上げも同様だ。車両を開発する環境は、各メーカーとも似ているから、足並みも結果的には揃う形になる。そして直近でも原材料費の高騰などを含めた開発環境は変わっておらず、今後もしばらくは値上げが続くだろう。

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