ZZ-R400は1990年に登場し、1度のフルモデルチェンジを経て2007年まで生産された超ロングセラーモデルであり、GPZ400Rに始まるカワサキの水冷4気筒400ccの歴史の中で最も成功したモデルであると言えるだろう。スポーツツアラーとして愛されたZZ-R400は、扱いやすさと高性能を両立させることで初心者からベテランまでを満足させ、あらゆるステージを1台でこなせるマルチな1台であった。

 

 

 

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レーサーレプリカ時代に生まれた、カワサキ独自の400cc

 カワサキの国内向けミドルクラス水冷直列4気筒エンジン車は、1985年に登場したGPZ400Rから始まる。GPZ400Rはフラッシュサーフェイスという言葉で表現されたエアロデザインと、GPZ600Rと基本を共有するボリュームのある車体で人気を博した。GPZ400Rは今見るとツアラー的なデザインに見えるが、当時スポーツバイクの主流であった16インチのフロントホイール、自主規制値一杯の最高出力59PS、アルミ製のアルクロスフレームという最新装備を纏ったスポーツモデルという扱いであった。GPZ400Rは1987年に後継モデルとなるGPX400Rへとバトンタッチした。このGPX400Rは「FASTフレーム」と名付けられた新しいスチール製のフレームを採用し、乾燥重量はGPZの181kgから174kgへと軽量化。エンジンもスペック上は大きく変わらなかったものの、GPZをベースに各部を見直すことでフリクションロスを低減して吹け上がりのシャープさを増していた。しかし、時はレーサーレプリカブームの真っ最中、17インチホイールとアルミフレームを持たないGPXは苦戦を強いられた。また、カワサキにおいてもGPZ400Rが併売されていたのに加えて、翌年の1988年には17インチホイールとアルミフレームで構成された車体に完全新設計のエンジンを搭載したZX-4が登場した。今考えればカワサキはレーサーレプリカであるZX-4の登場を予定した上で、GPXをよりスタンダードなモデルとして設定しようとしたのかもしれないが、時代はそれを受け入れてはくれなかった。ZX-4はGPZ400R系統のエアロデザインを採用していたが、1989年には当時レーサーレプリカの主流となっていた丸目二灯のエンデュランスレーサー風のカウルを採用したZXR400へとモデルチェンジ、GPX400Rは同年生産が終了した。

 

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スポーツツアラーカテゴリーを確立

 カワサキは1990年、最高出力147PSで市販車世界最速を謳うZZ-R1100をデビューさせた。フルスケール320km/hのスピードメーターは300km/hを現実のものとして感じさせ、実際のテストでは290km/h超える数値を示した。国内にも逆輸入された大人気となったZZ-R1100はスポーツツアラーというカテゴリーを確立し、各メーカーが最高速度を競うスポーツツアラーを投入することとなった。北米やヨーロッパでミドルクラスとなる600ccは定番であり、先述のGPZ400RやGPX400Rはそれぞれの600cc仕様を国内の免許制度に合わせてスケールダウンしたものであった。ZZ-RシリーズでもZZ-R600が投入され、国内向けとしてZZ-R400が1990年に投入された。国内市場では1990年の時点でレーサーレプリカブームに加えて、1989年に登場したカワサキ ゼファーが確立した「ネイキッドバイク」の人気に火がついていた。ネイキッドバイクとはいわゆる昔ながらのスタンダードなバイクのことであったが、カテゴリーの多様化によって個別の名称が必要なったことで新しくカテゴライズされたもの。このバイクのカテゴリーの再定義は、レーサーレプリカ、ネイキッド、ツアラー、スポーツツアラー、アメリカンなど、それぞれを好むライダーに合わせて車体を進化させていった。ZZ-R400はスポーツツアラーのカテゴリーにあり、ZZ-R1100の人気と共にミドルクラスにもスポーツツアラーというカテゴリーを定着させた。このスポーツツアラーこそが初代水冷400であるGPZ400Rやその後継車種であるGPX400Rの延長線上にあるものであり、時代を超えてカワサキのコンセプトが昇華されたと言えるのかもしれない。

 

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完全新設計エンジンを搭載して登場

 ZZ-R400に搭載された水冷DOHC4バルブ直列4気筒エンジンは、ZZ-R600のスケールダウン版だ。ボアが64.0mmから57.5mmに、ストロークが46.6mから38.5mmへと変更され、排気量は599ccから399ccへとダウンされている。GPZ400Rのボア×ストロークが56.0×40.4mmであったことを考えるとかなりショートストロークな設定であり、57.0×39.0mmのZX-4やZXR400に近いものであった。このエンジンは完全新設計のセンターカムチェーン式で、ZZ-R600の最高出力は100PS/12,000rpmを発生する高性能を誇った。国内仕様の1990年式ZZ-R400は最高出力58PS/12,000rpm、最大トルク3.8kg-m/9,000rpm。このエンジンをZZ-R600とほぼ同じアルクロスフレームに搭載し、乾燥重量は193kgだった。ZZ-R400は高性能なエンジン、フルカウルによる高速走行性能、600ベースの格上感のある車体などで、多くのユーザーの支持を得ることとなった。初期型はK型と呼ばれて1992年のK3まで製造され、1993年にN型へとフルモデルチェンジする。

 

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カワサキを代表するロングセラーモデルとなったN型

 今回紹介しているのは1995年式のN3型で、K型とエンジンの基本形は変わらないが、最高出力は自主規制の変更に伴って53PS/11,000rpmへと若干のパワーダウンを強いられている。しかし、上級モデルであるZZ-R1100が採用していたラムエアシステムの採用や、燃料計を装備するなど装備の充実が図られていた。装備の充実などに伴って乾燥重量は195kgとなったが、2001年には強化された排気ガス規制に対応して「KLEEN(Kawasaki Low Exhaust Emission system)」を装備することで乾燥重量が197kgに増加、2003年からは「ZZ-R」から「ZZR」へとシリーズ名称が統一されている。モデルライフの途中で、熱狂的とも言えたレーサーレプリカ一強の時代は終焉を迎え、バイクブームそのものにも陰りが見え始めた。しかし、ZZ-R400N型はマイナーチェンジを重ねながら、2007年まで実に14年間という間販売された超ロングセラーモデルとなったのである。

 

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