新車を購入したことのある人なら、新車を販売する営業マンと、整備するサービススタッフがいかに重要な存在か、感じているはずだ。今回、ボルボ・カー・ジャパンが開催したアフターセールス競技大会の取材を通して、同社がアフターセールスにかける本気をヒシヒシと感じたので紹介していきたい。

文:ベストカーWeb編集部/写真:ボルボ・カー・ジャパン、ベストカーWeb編集部

■23回目となるボルボのアフターセールス協議会

サービス&リペア コアクラス競技の様子

 新車を購入する時、営業マンの接し方、セールストークはとても重要なポイント。購入するかしないか、決め手になる場合もあるからだ。コミュニケーション力、こちらが何を必要としているか読み取り、顧客からの不安を感じ取る能力、臨機応変な対応、質問疑問に対して明確にわかりやすく答えてくれるか等々、営業マンに要求されるスキルは多岐にわたる。

 またメカニック(整備士)にしても、例えば1つの故障、不具合が起きた場合、不具合の原因はどこにあるのか、いかに早く的確に突きとめる能力が求められるのはもちろん、それをユーザーにわかりやすく伝えることも鍵となる。こうした営業マンとメカニックの質の向上は、どのメーカー、販社にとっても達成しなくてはならない最重要課題だろう。

 ボルボ・カー・ジャパンでは、今回で23回目となるアフターセールス協議会「VISTA 2024」のジャパンファイルを東京都江東区のTFTホールで開催。はたして、どのような内容のものか興味津々だったので、取材に行ってきた。

 VISTA(Volvo International Service Training Award)とは、ボルボのアフターセールス活動に従事するスタッフを対象に世界規模で実施している競技大会。

 このアフターセールス協議会は、ボルボの正規ディーラーでボルボ車に携わるサービススタッフの知識や技術の向上を図ることを目的に、1976年から世界各国で開催されており、現在では約70ヵ国から1万6000名以上が参加。日本は1980年から参加している。第23回となる今大会は、全国から321チーム/642名が参加した。

 今大会では、BEVの「EX30」が初めて競技車両として使用された。前回まではPHEV、それ以前はガソリン車だった。 BEVとPHEVと内燃機関のクルマと何が違うのかについて、競技大会の運営責任者に聞いてみた。

 「BEVはXC90、XC40を導入してから2年半、EX30がまだ3カ月となります。BEVはモーターとモーターを制御するインバーターがあります。何か故障が起きた時にどういう診断をするのか、もともと内燃機関車とは構造が違いますので診断する手順が違います。しっかり勉強していないと対応できません。今後、新しいプラットフォーム、コントロールモジュールが新しくなりますので、やはりメカニック=パーソナル・サービス・テクニシャン(PST)=の理解度にかかってくると思います」。

■謙虚で親切な対応にさすが!

 さて、アフターセールス協議会「VISTA2024」のクラスごと競技内容と結果をお伝えしていこう。

 「サービス&リペア コアクラス」および「サービス&リペア プラスクラス」では、準決勝戦を勝ち抜いた上位10チーム(2クラス合わせて40名)が決勝大会に進出。

 まず、「サービス&リペア コア」クラス。ボルボではメカニックをパーソナル・サービス・テクニシャン(PST)と呼び、このPTSを含むサービススタッフが対象で、1チーム2名で競技を行う。

 競技は1チームの持ち時間は16分、2名のお客様が時間差で来店し、PSTを含む2名のサービススタッフが、お客様が提起した問題を問診し、診断アプリケーションを利用して、すぐに問題解決の手段を瞬時に組み立てて、いかに早く直すことができるかを見る。もちろん、サービス受付時の接客スキルおよび知識、診断アプリケーションの理解度も問われる。

 今回の故障個所は、顧客からはエンジンチェックランプが点灯したが、走行には特に影響がないという報告を受けている。先に種明かしをしてしまうと、不具合の箇所は、エンジンに空気を吸入する際のセンサー、エアフロセンサーの不良。グローブボックスが開かないのでDTC(故障診断機)が入らないという状況のなか、どこから手をつけたらいいのか、わからないという状況を作ったという。

 不具合を突き止めるためには、100以上あるという顧客が訴える症状をコード化したCSCコード(カスタマーシンプトムコード)を、ボルボ専用診断機VITAに入力すると、関連性のあるチェックポイントがランキング形式で表示される。この表示されたチェックポイントをもとにPSTたちは故障原因を突き止めていくという。

サービス&リペア コアクラス優勝チーム 。中央左側がPSTの箱崎陸さん、右側が渡邉宏之さん

 この「サービス&リペア コアクラス」の優勝はボルボ・カー杉並(ボルボ・カー・ジャパン株式会社)の渡邉宏之さん、箱崎陸さん。 準優勝はボルボ・カー高松(双日オートグループジャパン株式会社)の山崎浩二さん、岸上真人さん。3位は埼玉サービスセンター(ボルボ・カー・ジャパン株式会社)の原麻由美さん、勝田繁さんとなった。

 競技会の運営側はどのようなところを見ていたのか? 以下の5点を以て審査したという。

1:ボルボブランドにふさわしい接客ができているか?
2:ボルボ最新の知識、サービス全般に対する知識をもっているか?
3:問診、提案のスキルをもっているか? お客様の質問を掘り下げることで次の診断につなげ、故障個所、原因をしっかりとお客様に伝えているかどうか。お客様の不安を払拭し、お客様の気持ちに寄り添っているか、それがケア、表情および態度に出ているか?
4:カスタマーサービス、おもてなしの姿勢があるかどうか。それが行動や言動に出ているかどうか
5:2人1組でしっかり連係しているかどうか

一番左側が顧客(お客様)役、中央が箱崎さん、右が渡邉さん

 では、どのように接客対応していたのか、サービス&リペア コアクラスで優勝したボルボ・カー杉並(ワークショップサポートの渡邉宏之さんと、PTSの箱崎陸さんの接客対応について一部抜粋して紹介していこう。

 ショールームに見立てて右側には椅子とテーブル、左側にボルボEX30を展示している。そこへ、顧客(お客様)が入ってくる。

スタッフ:本日はいかがなさいましたか?
顧客:担当の箱崎さんはおられますか?
PST:あいにくほかの整備をしていまして、なにかございましたか?
顧客:クルマのメーターにメッセージが出たので見てもらいたいと思いまして。
スタッフ:さようでございましたか。さっそく拝見させていただきます。お席を用意させていただきます。(スタッフが椅子を引いて顧客座る)。それではさきほどご案内しましたとおり、箱崎がほかの作業をしております。もしよろしければ私が担当させていただきます。よろしいでしょうか?
顧客:あ、いいですよ。はい。
スタッフ:ご挨拶が遅くなりました。ワークショップサポートの渡邉宏之と申します。私もこちらでよろしいでしょうか(といって椅子に座る)。初めましてご来店ありがとうございます。ご心配をおかけしまして申し訳ございません。警告が表示されるとお聞きしました。
顧客:そうなんです。家を出たらすぐにメッセージが出て、写真を撮ったんでこれを見たら早いと思います。推進システムの点検が必要です。あと点検整備が必要ですと出ていました。
スタッフ:見つけていただきありがとうございます。そうしましたらおクルマの挙動で何かおかしいところはございましたか?
顧客:いや乗っていて感じなかったので普段通りだと思います。逆になぜと思ってしまいました。
スタッフ:さっそくおクルマを移動させていただきまして診断に入らせていただきます。

―PST(もう一人、パーソナル・サービス・テクニシャン、箱崎さん)が来るー

PST:すみません、先ほどまでほかの作業をさせていただいておりました。(こちらに失礼しますと言って座る)。推進システムでございますね。エンジン系統ですね。さきほど渡邉のほうから案内があったと思いますけれども、渡邉と連携しながら、私のほうでしっかり点検させていただきます。20分前後お時間をいただき、しっかりと見させていただきます。

―3分間の診断時間を経てー

PST:お待たせしました。おクルマの状況がわかりましたのでお知らせ致します。改めまして倉田様ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません。今日、私のほうでしっかり点検させていただきました。ボルボ純正の診断機を接続させていただきました。倉田様がおっしゃられていました推進システムの点検が必要です、という項目と、エンジン系統の点検が必要ですという項目です。こちらのメッセージに付随しましてここにDTCという、クルマの状況、どこが悪いのかという自分で調べる機能があるんですが、このDTCで症状を拝見させていただいた上で、そちらの順番にそって点検させていただきました。

―タブレットを見せながらー

PST:エンジンルームの助手席にあります大きな黒い箱があるんですが、そちらに空気をどれだけ吸入しているか計るエンジンのセンサーがあります。こちらのセンサーの不良が今回の原因になります。

―ここで、女性客が訪れてスタッフ(渡邊さん)が対応する(空気圧のチェックについて)。この後も接客が続く……。

 といった感じで、後半は女性客の応対を渡邊さんが、エンジンチェックランプが点いたと来場した顧客の応対を箱崎さんが行った。顧客との話し方は謙虚でとても丁寧、困ったことがないか聞く応対の仕方など、見ているこちら側にとっても心地よい安心して見ていられる接客だった。

■チームで故障診断を実施し原因を調べ診断結果をレポートにまとめる

サービス&リペア プラスクラス。ボルボEX30を使用して難易度の高い故障診断を含め全6タスクを設定。2名1チームでチームワークも評価基準の1つ

 続いて「サービス&リペア プラスクラス」は、AEVT認定者(高電圧バッテリー取り扱い認定)を含むPST2名で構成され、BEVの実車における全6タスクの難易度の高い故障診断が行われ、チームワークを競うサブコンテンツも実施される。今回から初めてBEVのボルボEXが使用され、最新のEVやソフトウェアへの対応など新しい分野の知識やスキルが求められる。

■サービス&リペア プラスクラス6つのタスク
1:「グローブボックスが開かない」という症状で入庫。チームで故障診断を実施し原因を調べ診断結果をレポートにまとめる
2:VIDA(ボルボ診断アプリケーション)のグラフィックパラメータの表示及びファイルの保存
3:センターディスプレイに表示される予測走行可能距離の変更
4:キータグのスマートキー機能をオフ設定へ変更
5:ワンペダル機能をカスタマイズボタンへ割り当て
6:パイロットアシストをオンにする操作方法

サービス&リペア プラスクラス優勝チーム、ボルボ・カー千里(株式会社ロードカー)の森田高司さん、住賢治さん

 「サービス&リペア プラスクラス」は、ボルボ・カー千里(株式会社ロードカー)の森田高司さん、住賢治さんが優勝。ボルボ・カー東大阪(株式会社ロードカー)の河原健二さん、幸津俊介 が準優勝となった。3位はボルボ・カー東名横浜(ボルボ・カー・ジャパン株式会社) の三條航太さん、亀山幸治さん。

 今回で2回目の開催となる板金塗装技術を競う「ダメージリペア クラス」は、去る4月13日に競技がおこなわれ、5チームでの争いを勝ち抜いた埼玉サービスセンター/SSC BP 2チーム(ボルボ・カー・ジャパン株式会社)の優勝が発表された。

 各クラスの優勝チームは、2025年春にスウェーデンで開催される「VISTA2024 ウィナーズカンファレンス」に招待され、「VISTA2024グローバル ファイナルコンテスト」へ出場し、世界一の座をかけて各国のウィナーと競うことになる。

■アフターセールス競技会を行う意義について

ボルボ・カー・ジャパン営業本部本部長、ビジネス&ディーラー開発部部長の青山健さん(左)、ボルボ・カー・ジャパン代表取締役社長不動奈緒美さん。中央はダメージリペアクラス優勝チーム、埼玉サービスセンター/SSC BP 2チーム(ボルボ・カー・ジャパン株式会社)の内藤孝一さん、林潤さん

 今回のアフターセールス協議会「VISTA2024」を行う意義について、ボルボ・カー・ジャパン営業本部本部長、ビジネス&ディーラー開発部部長の青山健さんに話を聞いた。

 「ボルボアフターセールス協議会を行うことでPST(パーソナル・サービス・テクニシャン)にスポットライトをあてたいですね。ボルボのメカニックは、クルマを直すだけでなく、接客まで行うというのがルールになっています。お客様と入庫の連絡をしてクルマを受け取ったら問診しクルマを直して、メンテナンスして、最後は料金を精算してクルマをお返しするというエンドトゥエンドでメカニックが行っています。

 メカニックは直すだけでなく、接客もやってみたいという人もいる。ちなみにボルボのメカニックはつなぎじゃなく、上下にシャツとパンツの2つに分かれています。

 やはり、お客様は、PSTから整備の説明を受けたほうが圧倒的に満足度が高いと認識しています。もちろんガチガチで緊張しているPSTをこれまで見てきましたのでひと筋縄ではいきません」。

 またボルボ・カー・ジャパン代表取締役社長不動奈緒美さんは、メカニックの重要性、なかなかメカニックが集まらないという課題についてもこう話す。

 「PSTは基本的に2人で1台の作業をします。1人だと2時間かかるのを1時間で治すのがコンセプトです。接客の得手不得手があり、100人のPSTすべてが、接客が得意というわけではありませんので1チーム2人で役割分担としています。

 表舞台に出て、お客様と接し、ありがとうと言われれば嬉しいという声も多く聞きます。お客様とPSTの信頼関係を構築していくことはとても重要なことだと思っています」。

どこが故障しているのかボルボの診断アプリケーションとにらめっこ

 整備士が集まらないという問題もあります。PSTは、工場内にいて、外に出てくる機会があまりない。そして、唯一、日の目を見るのがこの競技大会といえます。このような競技大会をやると、モチベーションが上がることにつながります。全国で1位になったら私もやってみたいとなりますし、この上にスウェーデンで、各国のウィナーが集まります。

 今後、PSTはディーラーのなかでも重要なポジションになってくると思います。現在、あまりいいとはいえない待遇を改善して定着率を上げながら、こうしたアフターセールス競技会等の活動を続けて発信していきたいと思っています」。

 最後に競技大会の審査員は、「上位に入ったファイナリストは常日頃から故障や診断、整備の状況をヴィークルレポートに完璧に書かれています。普段からやっていないとできない」と語っていたがまさにその通りで、日頃の愚直な努力が実を結ぶのがこの競技大会なのだ。

 受賞された方々は凄いことなので誇りをもっていただきたいが、これで終わりとは思わず、今後益々のボルボのパーソナル・サービス・テクニシャン(PST)のさらなるおもてなしの接客と、技術の向上を期待します。

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