昨今、誰もが使いやすいパッケージングで、人気になっているのシエンタだが、使いやすい5ナンバーミニバンと言ったら忘れてはならないのがトヨタ アイシスだ。今回は助手席ピラーレスのファミリーミニバンだったアイシスを今一度振り返り、どうすれば生産終了にならなかったか考察していこう。

文:佐々木 亘/写真:トヨタ

■兄弟のいない唯一無二の存在

少し異端なクルマであったが、徹底したユーザーファーストを貫き、1世代で約13年もの間、販売を続けるロングセラーとなっていた

 トヨタのミニバンと言えば、アルファード・ヴェルファイア、ノア・ヴォクシーに代表されるように、兄弟関係のクルマが多かった。チャネル専売制が敷かれていた時代でも、兄弟車の存在があったからこそ、幅広く認知され、人気を集めていただろう。

 そんな中でアイシスは、兄弟車のいないトヨタ店専売車だった。クラウン・ランクルを抱える伝統と格式のトヨタ店では、少し異端なクルマであったが、徹底したユーザーファーストを貫き、1世代で約13年もの間、販売を続けるロングセラーとなっている。

 その登場は2004年。「あなたからクルマを発想しました」というキャッチコピーとともに、アイシスが誕生する。全長約4.6m、全幅1,695mm(プラタナグレードは1,710mm)の車格に、しっかりと3列シートを収め、3列目に大人がちゃんと乗れるというのが、アイシスの良いところだ。

 パッと見た高級感は薄いものの、「ここにコレがあったらいいのに」をほとんどすべて叶えているアイシス。詰め込みを尽くした技は、もはや芸術品なのである。

■細かいところに気が利くクルマ

 アイシスというと、助手席側のセンターピラー内臓ドアである「パノラマオープンドア」が一番の特徴のように思えるが、Bピラーがあろうがなかろうが、アイシスの価値は変わらないと思う。

 そう言い切れる理由が、細部にわたる気の使い方にある。

 まずは運転席。シンプルな設えだが、運転姿勢を取りやすい配置がお見事。シートに無理な腰高感は無いし、それでいて十分に厚みと長さのあるシートは、体の収まりもいい。

 操作系は1カ所にまとめられており、フロントリアのウォークスルーを実現しながらも、シフトはインパネシフトだ。この手のクルマだと、コラムシフトへ逃げたくなるが、ドライバーの使い勝手を考えると、ゲート式のインパネシフトがいい。

 2列目・3列目を含めたシートアレンジとその動き方にも拍手を送りたい。助手席シートはタンブルシートになっていて、前方へ収納できるし、背面にはテーブルが付いているから、後席にゆったり座って食事をしながらの移動もいいだろう。

 2列目シートは、前後スライドはもちろん、座面を持ちあげての収納もできる。さらに3列目は跳ね上げ式ではなく床下格納になるのがエライ。

 もっと細かなところで行けば、助手席シート背面の手すりや、運転席のアームレストもありがたい。収納も機能も多く、アイシスに詰め込まれたものを、全て使い切っているユーザーはいないのではないかと思うくらい、機能が全部あるのだ。

 現行のシエンタを見ていると、アイシスの雰囲気が各所に漂っているのがわかる。シエンタの大ヒットは、アイシスで裏打ちされた技術があったからこそ、生まれたものではないだろうか。

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■専売じゃなかったら生きながらえていたかも

シエンタでは、少し小さいと感じてしまう今日この頃。アイシスのような便利車が、心臓部をHEVに変えて再登場してくれたら、一気にコンパクトミニバンの戦況がかわりそうだ

 何度も一部改良を加えながら、13年生き続けたアイシス。2017年に幕を下ろすのだが、仮にアイシスが全チャネル(もしくは複数チャネル)で販売されているクルマだったら、終売には至らなかったのではないか。

 シエンタも元はカローラ店の専売車種(発売当初はネッツ店でも取り扱い)だったが、2代目へのモデルチェンジで全チャネル併売となった。全チャネル扱いになったことがヒットを生み、3代目での飛躍につながっている。

 全長約4.3mのシエンタでは、少し小さいと感じてしまう今日この頃。アイシスのような便利車が、心臓部をHEVに変えて再登場してくれたら、一気にコンパクトミニバンの戦況がかわりそうだ。

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