クルマと道路は切っても切り離せないもの。交通ジャーナリストの清水草一が、毎回、道路についてわかりやすく解説する当コーナー。今回は慢性的な渋滞が問題となっている中央自動車道について、施された対策とその効果について考察していく。

文/清水草一、写真/フォッケウルフ、資料/NEXCO中日本

■中央道はすでに2ストライク状態

 まもなくGW。いうまでもなく首都圏の高速道路は渋滞する。なかでも深刻なのが東名と中央道だ。どちらも約10年前から、国交省が主導して「渋滞ボトルネック検討ワーキンググループ」を開催し、渋滞対策を立てているが、東名に関しては空振り三振状態であることはすでに取り上げた。

 中央道はどうかというと、現状すでに2ストライクと追い込まれている。

 これまで実現した渋滞対策は、上り線調布付近の付加車線設置と、同じく三鷹バス停付近の線形改良の2か所だが、どちらも効果は極めて限定的だ。

 上り線調布付近の付加車線は、調布ICから三鷹バス停手前まで、路肩を潰してもう1車線追加した形だが、ボトルネックの先頭が深大寺バス停付近から三鷹バス停手前に移動しただけに近く、当該混雑区間の平日午前中の所要時間は、「平均27分から25分に2分の減少」となっている。たったの2分の短縮など誤差の範囲内で、ドライバーが体感することはできない。

中央自動車道上り線、調布付近の付加車線設置の効果 出典/NEXCO中日本

 上り線三鷹バス停付近の線形改良は、下り線の料金所のふくらみに合わせた上り線のS字カーブを緩くしたというもの(R280→R420)だ。これによって当該ポイントの平均速度(渋滞していない時間帯)は、75km/hから80km/hに上昇したが、渋滞緩和効果は特に認められない。これで2ストライクである。

 中央道上り都心寄りは、平日の午前中、毎日10kmほど渋滞する。以前は深大寺バス停付近が先頭だったが、現在は三鷹バス停付近を超えて、首都高永福料金所付近が先頭になっている。

朝の通勤ラッシュ時の交通量増加が渋滞の原因となっている中央道上り線

 三鷹バス停付近に関しては、現在、付加車線を1km延長する工事が行われているが、中央道側でいくら渋滞対策を施しても、その先の首都高が詰まっている以上、空振りは確実。将来、東京外環が完成して中央JCTで接続されれば、そちらに交通が流れて改善される可能性があるが、それまではヒットの打ちようがない。

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■新たな渋滞対策案に効果は見られるのか?

 休日の中央道上り線は、小仏トンネル付近を先頭に大渋滞が発生する。その対策として、小仏トンネルの増設(1車線増)に合わせ、トンネル前後に合計5km付加車線を設置する工事が進んでいる。

 これが完成すると、小仏トンネル付近を先頭にした渋滞は解消されるだろう。代わりに渋滞の先頭は上野原IC付近の車線減ポイント(3車線→2車線)に集約されるが、現状よりは所要時間の短縮が見込める。

中央自動車道上り線、小仏トンネル付近のピンポイント渋滞対策 出典/NEXCO中日本

 現場は強烈な傾斜地で、トンネル掘削を始め難工事の連続。完成時期の目標すら発表されていないが、おそらく2030年前後になるのではないだろうか。

 今年3月に開催されたワーキンググループでは、新たな渋滞対策案も提示された。

 そのひとつは、下り線のピンポイント渋滞対策で、現在サグとなっている日野バス停付近の前後7kmに付加車線を設置するというものだ。手法としては、本線の拡幅は行わず、路肩や各車線の幅を狭くして1車線分ひねり出す。工期も工費も節減できる最も手軽な方法だ。

中央自動車道下り線、日野バス停付近のピンポイント渋滞対策案 出典/NEXCO中日本

 それ自体は大変いいのだが、この区間の渋滞が緩和されても、休日の下り線は、相模湖IC付近や小仏トンネル付近を先頭に大渋滞が発生する。下流側を多少いじったところで、渋滞が上流側に集約されるだけで、トータルの渋滞量は変わらない。それは、東名の大和トンネル付近の渋滞対策が空振り三振状態にあることで証明されている。

■渋滞緩和のための策はひとつ!

 私としては、逆になぜ東名で中央道のような「路肩や核車線の幅を狭くして1車線分ひねり出す手法」が検討されないのか、それが不思議でならない。東名(海老名JCT-横浜町田IC間)の付加車線設置状況は、上下線とも3車線と4車線区間が混在し、車線減少ポイントで渋滞が発生している。

 現在残っている3車線区間を、前述の「ひねり出し手法」で拡幅すれば、短期間で効果のある渋滞対策が実現できるのに、なぜ実行しないのか。中央道の日野バス停付近でやっても根本解決にはならないが、東名では確実に効果がある。愚策を連発する国交省やNEXCO中日本は、一体何を考えているのだろう。

 さらに呆れるのは、今回の会合で、休日の下り線相模湖IC付近を先頭にした大渋滞に対して、新たな対策案が何も打ち出されなかったことだ。

中央道下り相模湖付近の渋滞の様子。先が見通せるだけに渋滞の規模の大きさにうんざりさせられる

 現在決まっている対策は、ボトルネックとなっている相模湖IC付近に、付加車線を約2km設置するというもの。これが完成すれば、このポイントを先頭にした渋滞は解消されるだろうが、渋滞の先頭が小仏トンネル付近に移動するだけで、渋滞量は減らない。

 現状、休日下り線午前中の小仏トンネル手前では、八王子JCTで圏央道両方向からの大量の合流交通があり、中央道だけでなく、圏央道両方向へも10km程度渋滞が伸びるのが恒例となっている。しかし今回の会合でも、それについては一切触れられていない。

八王子JCTでの中央道への合流の様子。圏央道上下線からの合流で、3方向からの車列がひとつになり目も当てられない状況に

 この渋滞を緩和するためには、上り線だけでなく、下り線にも小仏トンネルをもう1本増設し、八王子JCTから相模湖ICまで、連続して3車線を確保する必要がある。誰が考えたってわかることだ。「渋滞ボトルネック検討ワーキンググループ」は、ボトルネック対策ばかり注目する余り、渋滞の全体像が見えていないのだろうか。

 ワーキンググループの構成団体は、国交省関東地方整備局、警視庁、神奈川県警、東京都、神奈川県、山梨県、相模原市、中日本高速道路(株)となっていて、民間は入っていない。

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