東海道新幹線を運行するJR東海はドクターイエローが2025年、つまり来年の1月に引退することを発表した。鉄道ファンだけではなく、小さなお子さんにも大人気のドクターイエロー。その引退の報は大きな衝撃のニュースなのだが、ドクターイエローは来年2月以降も見ることができるのだ。それってどういうこと? その真相を解説しよう。

文/写真:梅木智晴(ベストカー編集委員)

神出鬼没のドクターイエローは10日ごとに走っている

 出張で新幹線を使うスーツ姿のビジネスマンも思わずスマホカメラを向けてしまう。真っ白な車体の新幹線にあって、レモンイエローの車体はひときわ目を引く。

 「新幹線電気軌道総合試験車」。これがドクターイエローの正式名称。鉄オタっぽく型式名で言えば「923形」となる。その正式名称が示すように、ドクターイエローは新幹線の線路の歪みや電線(架線)、信号システムなどの状態を「のぞみ」と同等の速度で走りながら検測し、データを集積、分析するための特殊な車両。いわば新幹線のお医者さん。だから「ドクターイエロー」と呼ばれているのだ。

 神出鬼没、いつ走るかわからないため「見ると幸せになる」など言われるが、ドクターイエローは平均すると9〜10日毎に東京〜博多を「のぞみ」のダイヤで検測走行をしている。各駅に停車する「こだま」ダイヤでの検測走行はおおよそ月イチペースだ。

神出鬼没なドクターイエローだが、10日に1度の周期で東京~博多間を走行しているのだ

 どちらのダイヤパターンでも1日目に東京駅を出発して新大阪で一旦車庫に入り、再びその日にうちに博多まで下る。翌日は逆の動きで、博多を出たドクターイエローはいったん新大阪で車庫に入り、午後再び東京へと上っていく。つまり1回の検測で下り~上りを2日かけて走るので、ドクターイエローは1か月のなかで8日程度は営業路線を走っていることになる。意外としょっちゅう走っているのでありました。

来年引退するのはJR東海所属のドクターイエローなのだ

 この高頻度での高速長距離走行、しかも高精度の検測データ収集を確実なものとするため、ドクターイエローは2編成が就役し、交代で検測走行を実施しているのだった。JR東海が所有するのが「T4編成」、JR西日本が所有するのが「T5編成」と呼ばれている。

 そう、今回2025年1月での引退が発表されたのは、JR東海が所有するT4編成なのだ。T4編成は2000年10月に製造され2001年1月より就役した。一方JR西日本のT5編成は2005年3月の就役で5年ほど車齢が若い。

現在、東京~新大阪の東海道新幹線区間での営業列車は営業最高速度285km/hのN700系シリーズに統一されている

 T4編成の引退は「老朽化のため」とJR東海では説明するが、現在、東京~新大阪の東海道新幹線区間の営業車はN700系シリーズに統一されており最高速度は285km/h。一方700系をベースとしたドクターイエローの最高速度は270km/hなので「のぞみ」ダイヤを支障してしまうことになる。これも923形ドクターイエローが引退を余儀なくされる大きな要因だろう。

923形ドクターイエローは700系をベースとしているため最高速度は270㎞/h。N700系との速度差がダイヤ構成のネックとなってしまう

 そのため、JR東海では2026年度以降に増備が計画されるN700S新幹線営業車両17編成のうち4編成に「営業車検測機能」と呼ばれる検測機器を搭載し、現在の923形ドクターイエローで実施している検測と同等の走行検測を代替する計画なのだ。この「営業車検測機能」による検測の開始は2027年以降と発表されている。

ドクターイエローの検測走行はあと3年、2027年までは継続される!!

 これと呼応するようにJR西日本では、ドクターイエローT5編成を「2027年以降を目途に検測を終了する予定」と発表している。つまり来年1月、JR東海のT4編成が引退した後も、N700Sによる「営業車検測機能」が開始される2027年まではJR西日本のT5編成によるドクターイエローの検測走行がこれまで通りの頻度で継続されるということだ。

この光景はあと3年、2027年までは見ることができる

 実はJR西日本所有のT5編成もT4編成とともに東京の車両基地に常駐し、事実上はJR東海が保守管理をしている。JR東海では「T4編成が引退するまでにT5編成の必要な検査等を充分に行うとともに、T4編成の機器を予備品として確保するなど、備えを万全とすることで現在の検査頻度を維持することができる」と言う。

 とはいえ、JR西日本もT5編成の2027年以降の引退を明らかにしている以上、ドクターイエローの活躍はカウントダウンとなった。残された約3年、T5編成の孤軍奮闘でますます貴重な存在となるドクターイエローの活躍を見守りたい。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。