2023年度に販売された軽自動車、小型乗用車、普通乗用車の内訳をみると、マイルドハイブリッド、フルハイブリッド車が全体に占める割合は54%。そうしたなかにあって日産はハイブリッドのe-POWER専用車としている車種が多い。なかでもノート、ノートオーラは価格帯の低いコンパクトカーのなかにあって価格の高いe-POWER専用車としながらも販売が好調だ。なぜ、ガソリンエンジン車を他車のようにラインナップしていないのにこれだけ売れるのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎が解説する。

文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部、日産

■ガソリン車の販売比率が高い車種もある

2023年12月にマイナーチェンジしたノート。新時代のデジタルVモーショングリルや新デザインの17インチホイールを採用

 2023年度(2023年4月~2024年3月)に販売された軽/小型/普通乗用車の内、モーター駆動システムを搭載する電動車の販売比率は約54%だった。つまり過半数が電動車になったが、その大半は、マイルドタイプを含めたハイブリッドだ。

 エンジンを搭載しない電気自動車と燃料電池車は、両方を合計しても、軽/小型/普通乗用車全体の約2%に留まる。プラグインハイブリッドも2%以下だ。日本の電動車は、充電機能を備えないマイルド/フルハイブリッドで占められている。

 そしてハイブリッドが多く販売されている割に、モーターを備えないノーマルガソリンエンジン車も豊富だ。例えば販売ランキングの上位に入るヤリスシリーズ、カローラシリーズ、シエンタ、セレナなどは、ハイブリッドのイメージが強いもののノーマルガソリンエンジンも選択できる。

 昨今は二酸化炭素の排出抑制のため、電動化に対するニーズが強い。それでもノーマルガソリンエンジン車を用意する理由について、開発者は以下のように述べた。

 「ハイブリッドは低燃費で環境も優れているが、乗り慣れたガソリンエンジン車の運転感覚を好むお客様も多い。またハイブリッドは価格も高い。そこでガソリンエンジン車も用意している」。

右がハイブリッド、左がガソリン車のヤリス。販売比率はほぼ半々だという

 実際にノーマルガソリンエンジン車の販売比率は相応に高い。例えばアルファードは、ノーマルガソリンエンジンが1グレード、ハイブリッドは2グレードを用意するが、両パワーユニットの登録台数は同程度だ。ヤリスもほぼ半数をノーマルエンジン車が占める。

 したがってプリウスやアクアなど、ハイブリッド専用車の売れ行きは、最近は下がる傾向にある。ハイブリッドがさまざまな車種に搭載され、珍しい存在ではなくなったからだ。

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■ガソリン車がないのに販売好調のノート&ノートオーラ

2024年6月13日にマイナーチェンジしたノートオーラ

 世間的には、電気自動車は環境性能が優れ、エンジン搭載車は逆行するという論調も多いが、商品を選ぶのはユーザーだ。ノーマルガソリンエンジンを希望するユーザーがいる以上、選択肢を提供するのはメーカーとして当然で、その結果、用途、好み、予算などに応じて選ばれている。当たり前のことだ。

 しかしその一方で日産には、車種数の割にハイブリッド専用車が多い。ノート&ノートオーラ、エクストレイル、キックスは、ノーマルガソリンエンジンを用意しないハイブリッドのe-POWER専用車になる。

 そんななかにあって、ノート&ノートオーラは売れ行きが好調だ。2024年の2月と3月の小型/普通車登録台数ランキングでは、1位のカローラシリーズ、2位のヤリスシリーズに続いてノート&ノートオーラが3位に入った。5月は、3位をシエンタに譲ったものの、ノート&ノートオーラは4位だった。いずれにしても、ノーマルガソリンエンジンを用意しないハイブリッド専用車としては販売が好調だ。

 ノート&ノートオーラの販売内訳は、2024年1~5月で見ると、5ナンバーサイズで価格が比較的求めやすいノートが56%を占める。3ナンバーサイズのボディに充実した装備を組み合わせて、価格帯が高いノートオーラは44%だ。

 販売店では「ノートは価格が求めやすい5ナンバー車だから、法人のお客様が社用車として購入されることも多い。レンタカーなどにも使われる。ノートオーラは一般のお客様が中心で、さまざまな車種から乗り替えている」という。さらにノートオーラはニスモの人気が高くノートオーラの約2割を占めているという。

ノートオーラのインテリアは上質感に溢れている。写真はワイマラナージャガード織物×合皮コンビ

 ノート&ノートオーラが好調に販売される理由も、これらのワイドなバリエーション展開にある。価格の求めやすさを重視するならベーシックなノートXがあり、上質なコンパクトカーが好きなユーザーにはノートオーラで対応する。SUV風の車種が欲しいならノートオーテッククロスオーバーがあり、スポーツ指向であれば、ノートオーラニスモという具合だ。

 しかもノート&ノートオーラは、全長が4m前後のコンパクトカーとしては後席が広い。ルーミーやソリオのように自転車を積めるほどの荷室は得られないが、4名乗車による長距離ドライブは十分に可能で、ファミリーカーとしての実用性も高い。

 開発者は「低価格のノーマルエンジンを用意しなかったから、ベーシックなノートでも、インパネの周辺など内装を上質に仕上げられた」とコメントする。このようにノート&ノートオーラは、コンパクトカーに求められる大半のニーズを満足させられるから売れ行きも好調だ。

■国内市場に適した5ナンバー車が減少した背景

2008年11月に登場した3代目キューブ。惜しまれつつ2020年3月に販売終了

 ただしこの背景には、日産が抱える切実な事情もある。上質なコンパクトカーとして人気車だったティーダ、高い天井によってコンパクトカーながら開放感を伴ったキューブ、コンパクトワゴンのウイングロードなど、国内市場に適した5ナンバー車の大半が廃止されたことだ。

 軽自動車を除いた5ナンバーサイズの乗用車はノートに限られる。合理化のために車種数を絞り、限られた商品で国内市場を支えなければならない。

 そしてノート&ノートオーラは、e-POWER専用車ながらもワイドなバリエーション展開で成功したが、SUVのエクストレイルとキックスは苦戦する。e-POWER専用車にしたことで、価格帯が高まったからだ。

 結局のところ日産で堅調に売られている車種は、ノート&ノートオーラ、ノーマルガソリンエンジンも選べるミニバンのセレナ、軽自動車のルークスとデイズだけだ。エクストレイル、キックス、アリアなどは、設計の新しい車種ながら伸び悩む。

マイナーチェンジしたノート

 そのために今でも日産の国内メーカー販売ランキング順位は、スズキやホンダを下まわって4位だ(ダイハツが認証不正問題で出荷を停止する前は5位だった)。

 トヨタの販売店からは「日産は人気車が少ないのに、あれだけの台数を売るのだから販売力は強い」という話が聞かれる。つまり日本で好調に販売できる商品を増やせば、日産はさらに売れ行きを伸ばせるのだ。

 だからといって、シエンタやフリードのようなコンパクトミニバン、キューブの後継になる空間効率の優れたコンパクトカーを開発するのは、現実的には困難だろう。

 それならセレナやルークスにSUV風の仕様を加えたり、エクストレイルにエアロパーツを装着するハイウェイスターを設定するなど、ノート&ノートオーラの手法を活用して選択肢を増やすべきだ。

 エクストレイルは、圧縮比を変化させる画期的な1.5Lターボをe-POWERの発電用に使うが、これを駆動用エンジンとして、エクストレイルやセレナに搭載する方法もある。

 2011年から数年間の日産は、国内市場を見限り、新型車の投入が2年間に1車種程度の時期もあった。今はそれを脱して、新型車も増えている。もうひと頑張りすれば、往年の日産が帰ってくると思う。

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