最近頻発する高速道路での渋滞追突事故。その要因に「自動運転」があると水野さんは指摘する。自動運転が重大事故を誘発するとはどういうことなのか? 最新の自動車にまつわる危険な事実を水野さんが技術者の支点で切り込む!!

※本稿は2024年6月のものです
文:水野和敏/写真:ホンダ、テスラ、ボルボ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2024年7月10日号

■IT化時代が招いた自動車の危険を危惧

最近多くなっているのが、高速道路などでの追突事故。しっかりと前を見て運転していれば防げる事故だ

 ここ最近も重大事故が相次いで発生しています。

 多く見られるケースが、直線や、緩やかなカーブでセンターラインを飛び出し対向車と正面衝突をするという事故。また最近、高速道路で特に多くなっているのが、大型トラックがノーブレーキで渋滞の最後尾に追突したり、工事の車線規制エリアで工事現場に突っ込むという事故です。

 これらはいずれも死亡事故に直結する重大な交通事故になっています。特に満積の大型トラックだと総重量は25トンにもなります。

 25トンの鉄の塊が80~90km/hで突っ込んでくれば、乗用車などはひとたまりもありません。

 いずれもちゃんと前を見て運転していれば確実に防げる事故です。なぜ最近、このような通常では考えられない事故が急増しているのか? 私は、社会や自動車のIT化が引き起こしている事故だと考えています。

 警察の事故見分では、最終的には「前方不注意による……」とか「ハンドル操作を誤って……」と結論付けられるのでしょう。

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工事の車線規制エリアで工事現場に突っ込む事故も増えている。最終的に事故原因は「前方不注意により……」として処理され、本質にはたどり着けないままとなる

 しかし、「なぜそうなったのかという原因」を避けて、ドライバーの運転操作の過失だけを焦点としていたのでは、急増している「前方不注意により……」と言われる重大事故の本質にはたどり着けません。

 私はこれらの要因として「ながらスマホ」の運転と、「誤解された自動運転」があると考えています。「ながらスマホ」については、運転だけでなく、すでに社会問題化しているテーマなので割愛させていただき、今回は「誤解された自動運転」を中心に考えてみたいと思います。

 あえて『自動運転』と言いましたが、現時点で世界中どこを探しても、一般のユーザーが制限なく、普通に使える自動運転のクルマはありません。

 過去に限定販売されていた「レベル3」の最も進化したシステムでも、『自動運転』にはほど遠い、限定された範囲だけで使える、単なる運転支援システム(部分的なサポート)にすぎません。

 さらに「レベル2」の運転支援装備に至っては、『自動運転』という言葉のイメージとは大きく乖離した、単に部分的な運転の支援装備に過ぎません。日常のユーザー通念から考えたら「自動」という言葉が使えるレベルではありません。

 しかし、メーカーのみならず、国交省までが運転支援の装備と言わず、『自動運転』としてレベル1からレベル5までを定めています。特にレベル1から3までは実質的に自動運転ではないにもかかわらず!!

 限定された道路や気象条件だけで使えるレーダークルーズコントロール(ACC)による追従走行や、レーンキープアシスト(LKA)による車線維持、あるいは自動ブレーキシステムなどの「運転支援装備」は常にドライバーの注意と管理が必須で、とても『自動運転』と呼べる機能や作動信頼性はありません。

 自動運転という言葉は魔法のように都合のよい言葉です。相応の自動車知識を持たない一般的な人に、あたかも自動車が危険を察知して安全に走ってくれるかのような錯覚を抱かせる恐れがあります。

 ところがベストカーをお読みの皆さんならご承知でしょうが、ACCは、通常の追従走行はできますが、前走車が緊急ブレーキをかけた場合は、それぞれのクルマの制動性能により、実際に停止できる距離は大きく違い、多くの場合事故になります。

 また、急な割り込みにも対処ができず、クルマによって機能も大きく違いバラバラです。また、センサー検知機能の誤作動や、虫や飛び石などによって起こるシステムエラーで、突然制動が作動したり、追従走行がキャンセルされることもあります。

 こうした場面を含めて、ACCを使っているからと油断をしてスマホ画面などに意識が奪われていたらどうなるでしょうか?

 前のクルマが速度を落とせば自車のシステムが自動で速度を落としてくれる。この安心感から最近はACCの支援作動を『自動運転』と勝手な拡大解釈をして「ながらスマホ」に熱中して起こる事故が急増し、ネクスコは重点的に注意を呼びかけています。

 SNSかゲームかはわかりませんが、インストのホルダーに固定したスマホの打ち込みをしているシーンを数多く見かけます。

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■各メーカーで異なるインターフェイス

ホンダはレジェンドで「レベル3」の自動運転を実装したが限定的な条件下での作動だった

 とはいえ、ACCにしてもLKAにしても運転支援装置として便利だし、適切に使用すればドライバーの負担や疲労の軽減につながることは事実です。

 ところが、スイッチの配置や形状、さらに操作方法や呼称などがメーカーによってバラバラで統一されていません。ACCやレーンキープアシストなどの運転支援装備の役割は「走り、止まり、曲がる」のコントロール機能です。言わばアクセルペダルやブレーキペダル、そしてステアリングと同じ操作の機能です。

 これら重要な操作系の配置や操作方法などは、ISO(国際規格)できちんと規定されていて、どのクルマでも同じ操作方法と配置になっています。

 しかし、現状の運転支援装備は、システムの呼称どころか操作スイッチの名称やその配置、そして使用方法や作動の視認方式などが、各メーカーどころか、同一メーカーの製品ごとにも差異がありバラバラです。規格を設定しようとする動きもいまだ見られません。

 カーシェアの普及もあり、クルマを乗り換えるユーザーは混乱しています。

 自動運転でもない運転支援装備をあたかも自動運転のように過剰な表現や宣伝をしたり、さらに、走りを制御する重要な装備にもかかわらず、使い方や表示方法などバラバラで統一した規格も整備されないままユーザーを惑わせているのですから、都合のよい解釈による人為的な事故が起きているともいえる状況です。

 国交省が主導して運転支援装置の規格を統一するなど、早急な整備が急務です。国交省が動かないのなら、自工会が自主的に動くべきです。

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■人間の脳に勝る人工知能はない

レベル4以上の自動運転は、エリアを限定したコミュニティバスなどで実現できる可能性があるが、一般乗用車での実現は難しい

 これまで数多くのACCやLKAなどの運転支援装備の付いたクルマに乗ってきましたが、機械の制御は絶対に人間の脳には敵いません。

 AIだとかディープラーニングなど技術開発は進化していますが、自動車という限定された予算やスペース制約の中で、熟練した運転者の「先読み運転」機能までを保証できる運転支援システム(自動運転)は絶対に不可能です。

 自動運転とは呼んでも、現実にはさまざまな制約条件が付いて、限定された状況で実現できるレベルです。

 AIにしても、開発担当者が知っている範囲で積み重ねたデータによるフィードバック制御が主体で、クルマとしての製造原価やスペース制約では、保有できるデータ量と演算速度などは限定的です。

 例えば高速道路を走る場合でも、慣れたドライバーだったら数台も先の前方の動きや周辺状況を見ながら、横や後ろの走行車両の動きを読み、車線変更や追越しの可能性を予見して、速度や走行する位置を決めて、車間距離を開けるなどの「先読み運転」をします。

 しかし、スーパーコンピューター機能がない、クルマの製造原価から割り付けられた廉価で荒いメッシュの限定された範囲のデーターを演算処理して制御するACC程度では、それはできません。

 また、前走車との車間距離が一瞬開いたとしても、その先で車線が詰まっていたら数秒後には元の車間距離に戻ることが容易に予測できるので、速度を保ったまま走り続けるでしょう。しかしACCは一定の車間距離を維持するために無駄な加速や減速を繰り返し車間距離を保とうとします。

 前方に渋滞の車列があれば、上手な人だったら数百メートル手前から徐々に車速を落として後続車に注意喚起のサインを送りながら安全に渋滞の車列に近づきます。

 しかしACCは設定された車間距離までは一定の車速のまま渋滞の最後尾に突進していき、強いブレーキで停車しようとします。先読みや制動力の調整はできません。

 レーシングドライバーでも超一流になると先読みの世界になります。

 私のNISMO時代は星野一義選手がいましたが、星野さんほど怖がりで気が弱いドライバーはいません。

 怖いから何度も何度も繰り返し練習する。何度も走り込んだサーキットコースやマシンでも、0.1秒を争う世界では「外気と湿度、タイヤやクルマの状況、路面の油や砂や埃」など、刻々とコンディションは変わるのです。まったく同じコンディションは絶対にないのです。

 何度も何度も走り込んで、さまざまな状況を身体に叩き込むのが星野さんのスタイルなのです。

 星野さんのドライビングを完璧にプログラミングした自動運転マシンを走らせても、星野さんの運転に勝つことはできません。

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■タッチパネルは安全運転に反する

テスラ モデル3のインパネもタブレットのような液晶パネル。EVを専門にする新興メーカーであるテスラは液晶パネルで新しさを強調したいという狙いもある

 話は変わりますが、欧州の新型車認証をしている機関が最近言い始めたことがあります。タッチパネル式で操作性が劣るものは認証で減点するのです。機械的なスイッチを安全運転で推奨しているのです。

 例えばテスラ。インパネセンターに配置された大型タブレット状のモニター画面上にあらゆるスイッチ類を集約しています。

 従来型ではシフト操作やウインカー、ワイパーなどは物理的なレバースイッチでしたが、ヘッドライトの強制的なオンオフやドライブモードの切り替えなどはこのタッチスクリーンで操作します。

 たしかにヘッドライトはシステム起動時に「AUTO」モードに自動設定され、通常はオンオフの操作を必要としないかもしれません。

 しかし、運転中とっさにヘッドライトを点灯したいような場面で、タッチスクリーンを操作してヘッドライトを点灯させるのは非常に難しいし、なによりもタッチスクリーンに視線が奪われたり、操作の確認を強いられて運転視界がおろそかになり危険性が増します。

 テスラはEVを専門にする新興メーカーで、こうした新しさを強調することで存在感を示すという狙いもわからなくはありません。

 しかし、伝統的な自動車メーカーのブランドであるボルボの最新モデル、EX30はどうでしょう?

ボルボ EX30のインパネ。このタブレット状のパネルに速度計も表示されるのだ

 運転席に座るとステアリング越しのインパネにはなにもありません。速度計すらないのです。

 なんとEX30の速度計はインパネセンターに配置された、スマホを少し大きくした画面に表示されます。

 公道の自動車運転で重要な速度計が、センターに配置されたスマホのような画面の一部で表示。優先度の高い速度を難解な表示とする。これは理解ができません。運転する人が作ったとは思えないメーターの表示です。

 夜間の高速走行や視界が遮られる雪や雨の走行などを想定できる人なら、速度計をあのような見づらい場所に表示することはしません。

 しかもスマホ型のモニターに表示される速度計の文字は小さくて読みにくい。ACCをセットして走るから今や速度計は重要でないというのでしょうか?

 私はR35GT-Rを開発する際、メーターパネルの文字や表示は徹底してこだわりました。文字のサイズや色遣い、書体も専用品です。小雨のアウトバーンを300km/hで走りながらパッと目をやっただけで確実に視認できるメーターを造りました。

 しかし、最近のクルマでは細く読みにくい書体のメーターが増えました。メーターは走りながら確認するのですから、ドライバーが注視して読むのは危険です。パッと視線をやっただけで直感的に必要な情報が読み取れなくてはダメです。

 このように、運転席回りのメーターや各種操作系の配置やデザインは前方の運転視界に影響してドライビングに大きな影響を与ます。自動車メーカーはもっと真摯に安全な操作系やメーターレイアウトに取り組むべきです。国交省や自工会が率先して早急に規格を策定する取り組みが必須だと私は思います。

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■自動運転のレベル分け

●レベル1
・運転支援/システムが前後、左右いずれかの車両制御を実施
【例】自動ブレーキ、ACC、レーンキープアシスト機能など
●レベル2
・レベル1の機能を組み合わせた機能
【例】レーンキープ+ACCなど
・特定条件下での自動運転機能
【例】高速道路で前走車を自動で追い越す
●レベル3
・条件付き自動運転/システムがすべての運転タスクを実施するが、ドライバーがいつでも運転を引き継げること
●レベル4
・特定条件下における完全自動運転
●レベル5
・完全自動運転

■日本の法規は不備!! 後面衝突の規定とは!?

 衝突時の乗員保護に関しては厳しい試験が実施され、実際交通事故時の大けがや死亡事故は減少した。

 後面衝突、つまり追突された際の試験も実施されているのだが、この際対象となるのは「運転席及び助手席の乗員」のみである点を水野さんは厳しく指摘している。つまり、乗用車の後席乗員はもちろんのこと、ミニバンの3列目乗員の保護に関しては明確な規定がないということを問題視しているのだ。

 後面衝突試験は停車中の車両に36.4km/hで追突する場面を想定して実施される。

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