自転車の交通違反を交通反則通告制度(いわゆる青切符)の対象とする改正道路交通法が2024年5月17日に成立しました。2年以内に施行されることになります。
自転車への青切符制度導入の背景には、交通死亡重傷事故故全体の減少割合に対し、自転車が関係する事故の減少割合は小さく、交通死亡重傷事故全体に占める自転車が関係する事故の割合が増えつつあるということがあります。また、警察庁によると、2022年に発生した自転車が関係する死亡重傷事故のうち、自転車側に交通違反があった事案は、全体の73.2%にものぼったそう。つまり、自転車の交通違反を減らすことができなければ、交通事故を減らすことは難しく、自転車にも青切符制度を導入することで、自転車の交通違反を減らしていこう、ということで、今回の改正道路交通法成立となりました。
ただ、自転車ユーザーのなかには、交通ルールを学ぶ機会がなく、交通ルールを知らない人もいる可能性があることなどから、「自転車も免許制にすべきでは」という声もあがっています。はたして自転車に免許制度は必要なのか?? 考えてみましょう。
文:エムスリープロダクション/アイキャッチ写真:写真AC_ FreeBackPhoto/写真:Adobe Stock、写真AC
ルールをしっかり理解していないことが影響している
警察庁が、全国の10歳代~70歳代の男女計5000人以上を対象に、2023年8月に実施した自転車の交通ルールに関するアンケート調査の報告書によると、自転車の交通ルールのうち、守ることができていないものについて、なぜ守れないのか、と問う設問に対し、もっとも多かった回答は、「ルールをよく知らないから(40.4%)」だったそう。年代別にみると、中学生では50.2%、高校生も46.4%がこの「ルールをよく知らないから」と回答しており、やはり「よく知らないから正しく守ることができない」ということは、自転車に交通違反が多い、大きな要因となっているようです。
また、「自転車の交通ルールをどのような機会で知りましたか」という設問に対しては、もっとも多かったのは「テレビや新聞等(45.1%)」で、次いで「学校や幼稚園・保育園での交通安全教育(23.5%)」「運転免許の取得時(21.3%)」だったそう。ニュースなどで取り上げられることでやっと知る、という状況は、あまりいい環境とはいえず、効果的な交通安全教育は必須だと考えられます。
【警察庁資料】自転車に係る交通安全教育の現状及び今後の方向性について
ただ、免許制度の導入は自転車の魅力をスポイルしてしまう
ただ、免許がないと利用することができないというのは、自転車の使われ方にはそぐわないと筆者は考えます。自転車は、所有してもコストが安く、近距離であれば最速の移動手段で、環境負荷も小さく、また健康増進も期待できます。ある程度荷物を載せることができるため、徒歩だと帰りが大変な買い物も、自転車があればラクラクです。
だれもが気軽に利用できる移動手段であることが自転車の最大の魅力であるのに、免許制度の導入によってその最大の魅力をスポイルしてしまうことになりかねず、また、環境対策や渋滞緩和が期待されるとして、自転車のメリットが見直されている近年の流れと逆行することでもあります。昨今は速度が出やすい自転車もありますが、一般的にはそれほど高い速度で走行されず、また重量もクルマに比べてないことから、事故となった際もほかに危害を与える程度は小さく、自転車に交通ルールを浸透させる手段として、免許制度を導入することは、少し安易な気がします。
制度導入には膨大なコストがかかることも考えられ、免許制度があるクルマも事故や違反が少なくないことを考えれば、膨大な費用をかけて、どのくらいの交通事故減少が期待できるのかも疑問です。
「受けるといいことがある講習」を導入してみては?
ルールを守ってもらうには、ルールを正しく理解してもらうことはもちろん、自転車も車両である、ということを自覚してもらうことが必要。ルールを知っていても、車両であるという認識が低いと「ルールを守らなければ」という行動につながらないことも考えられるからです。問題はそれをどうやって教育するのか、ですが、筆者は、自転車にも自動車免許の更新時のような講習を導入してはどうか、と考えます。
講習を受ける受けないは自由、ただ講習を受けるとなんらかのメリットがある、というようなものです。好立地の自転車置き場を利用することができたり、マイナンバーカードの申請の際のように、ポイントがもらえるような制度でもいいかもしれません。自転車の利用者全員が講習を受けなくても、自転車利用者の多くに「交通ルールを守る」という意識が浸透すれば、自転車利用者全体の意識が変わってくるのではないでしょうか。実際、前述した警視庁によるアンケート調査では、「周りの人も(ルールを)守っていないから(自分も守らない)」という回答も多かったようです。
もちろん現在も各警察によって、幼稚園や小中学校、高校などで交通安全教育が行われているようですが、実情を考えれば、もう一歩踏み込んだ内容で、交通ルールを体系的に学ぶことができる環境を充実させる必要があると思います。
警察庁としても、現在実施している警察主体の交通安全教育では限界があるとして、今後は自動車教習所や自転車販売業者などに働きかけ、自転車の交通安全教育の供給を促すとのこと。また教育機関や子供会などの自治会にも働きかけ、交通安全教育の需要も促すとしています。ただそうしたものに属さない人も少なくないため、交通安全教育を受ける機会がない自転車ユーザーにも講習に来てもらえる、なんらかの対策は必要。さらなる交通事故減少を目指し、交通安全教育の充実を期待したいです。
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