ナニワの海コンお姉さん・ゆでさんはいろいろな経験をしてきました、人生が長いぶん。

 中でも印象に残っているのが得意先での出来事。「優越的地位の濫用」も咎められず、トラックGメンもいない時代に、荷主とトラックドライバーはどんな関係だったのでしょう?

 涙無くしては語れない、笑い無くしても語れない、ゆでさんのリアルな昔話でございます。

文/海コンドライバーゆでさん、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
*2013年5月発行「フルロード」第9号より

実録「こんな得意先はイヤだ!」

ゆでの「ゆで」はUDのトラクタに乗っているから……

 雨にも負けず風にも負けず、雪道も夏の酷暑にも負けず、腰痛と戦い、荷主都合にも決して怒らず、いつも静かに泣かされている全国のドライバーの皆さま! 毎日お疲れ様です。そして、不況にもかかわらず大量に荷物の発注を下さる荷主の皆さま、毎度ありがとうございます。

 荷主あっての運送業……、ホンット! 感謝しております。時にはアッカンベーをしながら(笑)。お客様は神様ですもの、できれば友好関係でいたいもの。でもさ、中には「バチがあたってもいいかな」って思うほど酷い神様もいたりしてね~!

 ってことで、今回は運転手目線でのお話。題して「こんな得意先はイヤだ!」です。

 車体の大小に関わらず「こんなとこに入れるの?」って思ったことありませんか?

 間口が狭かったり、道幅が狭かったり、はたまた障害物だらけとか。ぶつける前にアッサリ断るか、それともプライドをかけてバックで入れるか。心の中で自問自答を繰り返し、頭の中はバックをイメージ。そんな時に、ノー天気にお客様が言うんですよね。「この辺に付けてほしいねん」と、にこやかに……(涙)。

 言われた通りにその辺に付けてみれば、「あと10cm右に付けて」。お客様のその10cmのこだわりの意味を探してみても見あたらない土場降ろし。はいはい! やりますよ、やりますよ。で結局付け直して50cmほど寄せてあげるんですが、「OK!」って。……意味がわからない時があります。何分、神様の言うこと、運転手には理解できない不思議がたくさんあります。

 とある大きな倉庫では、構内に2カ所門があるんですが、行ってみれば1カ所目は「進入禁止」と大きく書かれていた。2カ所目に入ろうと思ったら「出口専用」の看板。入れません(涙)。仕方ないので看板スルーで入りました。結局何も言われませんでしたが、あの看板はなんのために建てられていたんでしょうか?

指示がアバウトな得意先

 4トン車に乗っていた頃、狭い道路からバックで工場に進入することがありました。窓から顔を出して慎重にゆっくりバックしていて「なんか動かへんなぁ……」と思っていたら、電柱とトラックのステップが仲良くしていました。つまり接触っていうことです(汗)。

 歳がバレるのであまり書きたくないけれど、当時は田舎のほうに行くと木でできた電柱が多く、土台は土の中に埋まっている状態です。幸い、木製の電柱とステップの部分が接触していただけなので車体は無傷。でも電柱はというと……、土台が少々緩んでおりました。

 お客様がそれを見て「大丈夫や! 足で踏んどいたらええ!」と、心なしかまっすぐには見えない電柱の足元を踏み固める。さすが神様! どんな窮地でも救って下さるんですね!

 ところで、どう見ても4トン車には厳しい道路条件なので、「ここは4トン車よく来るんですか?」と尋ねてみたら、「よく来てもらってるで~。皆あそこの電柱にこすりよんねん」。……やっぱり。道幅や近隣の障害物は計算に入っていないようです。

 で、無事に積み込みを終え出ようとすると、「ここ真っすぐ行って左に曲がる時、角に石が置いてあるんやけど、ソレ踏んで行きや」と神様の不思議発言。

「後輪で踏むんですか?」
「せや! 石に乗り上げて、タイヤ滑らせながら曲がって行き」

 ものすごくイヤ~な予感。行ってみれば隅切りもしていない直角型交差点。そこに例の石が置いてありました。なんとも滑りやすそうな石です。泣きたい気分で恐る恐る石に乗り上げるようにタイヤを合わせていくと、ある程度乗り上げたところでタイヤがずれて、あおりと角の家の壁がうまくすり抜けました。(ヒーッ!)

 お客様の助言により無事に通過できたことに感謝しつつ、「二度と呼ばれることがありませんように」と手を合わせ立ち去りました。

兄弟喧嘩の真っ最中!? それでも荷を降ろさなければならぬ

コンテナターミナルにはキリンさん(ガントリークレーン)がいます。

 別のお得意様での出来事。とあるご兄弟で営まれている工場に到着すると、少々機嫌の悪そうな男性が出てきて「この荷物今日の分か?」。「はい」と答えると工場の奥へと行き誰かを探している様子。

 何がなんだかわからないまま、シートをたたんだりロープをはずしたりの作業を始めていると、中から大きな声が聞こえてきます。明らかに大モメ。もめてる様子が伝わって私もなんだか緊張。どうやら荷物が届くことがその男性には伝えられてなかったようです。

 パレットが来ればいつでも降ろす準備はできているものの……、指示が出るまで取り掛かれません(涙)。どれくらい待っていたでしょうか、私もシビレを切らしたんで、近くにあったリフトでパレットを運び、積み替えることに……。

 ホントは5段積にするのか6段積にするのかを聞いてから作業をしたかったのですが、長い放置プレーに頭に来てたもんで、楽に詰める5段積にして、たくさんパレットを使って差し上げました。はい、大声でもめてる時に「どこに置くねん!」と聞こえてきたからでして、さらにもめる原因をプレゼントしておきました。

 降ろしている最中も一度も見に来ないで、忘れられていた私のささやかな反撃です(笑)。

 降ろし終わって受取書をもらいに行く時、明らかに険悪な空気が漂う男性2人に、「終わりました。パレットに載せて壁際に置いてあります」と少々ひきつった笑顔で声をかけ、「ありがとうございました」と逃げるように立ち去った。だって……、同じような荷姿の4トン車がもう一台外で待っていたから……。正直ハラハラしました。あれからまたもめただろうね(汗)。

パワハラキングのリフトマンがいる得意先

運転席からガッチャを取り出し、パワハラリフトマンと対峙しようとするゆでさん(ウソです)

 そんなハラハラドキドキのお得意先もありましたが、一番イヤだったのが「また来たん? 早よ辞めりや~」と毎度おっしゃるリフトマンがいるお得意先。

 出たで! パワハラの神様!! 当時の私の天敵的存在。今ならパワハラで訴えることもできるんでしょうが、当時はそんな言葉さえない時代。

 リフトでパレットのまま積み、ラッシングしてシートをかける。この作業でどこが男性に劣るのかわかりませんが、荷締めしているとリフトで横に来て、「いつまで乗るつもりやねん」、「男と同じぐらい稼ぎたいんやったら、水商売とかあるやろ」などなど、イライラする言葉を連発する困った30代半ばくらいの男性。

 いつも適当に聞き流すんですが、機嫌の悪い時は少々怒鳴り気味に不機嫌をまき散らす困ったキングです! 多い時で週に3回は積み込みに行くので、私もたまったもんじゃありません。

 そのことを同じ会社の年輩に相談したところ、「あいつは気の弱い運転手にいつもからんでるんや! 相手せんと放っとき!」とのこと。放っておきたくても、いつも横に来てグダグダと始まるので憂鬱です。毎回「今日こそガッチャ(荷締め用の治具)で殴って辞めたる!」そう思いながら積み込みに行ってました。

 ある時、いつものように作業をしてると、いつものようにリフトでやってきた困ったキング。いつもと違うのは私のムシの居所。

 「おい!」と声が聞こえた瞬間、「なんや!」と咄嗟にガッチャを掴んで荷台から飛び降りた。興奮状態だったし過去のことなので、何を言ったか今は覚えてないんですが、持っていたガッチャを荷台に叩きつけたのは覚えています。

 その様子に気づいた別の人に呼ばれてキングは立ち去り、その場は終わりました。その後はリフトマンが変わりましたが、ホ~ント嫌なお得意様でした。悔しかったり腹が立ったりで、泣いて帰ることもあったんだよね~(涙)。

 こんな困ったリフトマンがいるお得意様ではありますが、ここの荷物を配達する岡山の工場の方達が大好きで、同じく「また来たんか~?」と言いますが、「ほらコーヒーでも飲み」といつもにこやかに出迎えてくれます。

 なんだかんだと談笑しながら作業もあっという間に終わります。きっとココの人達の支えがあったからパワハラにも耐えられたんでしょうね。まさに私には神様的な存在。

 お客様は神様ですので、できれば信仰(親交)を深めたいのですが、その座に胡坐をかいた厄病神も存在します。神様もイロイロですね。

 イヤなことも良かったこともたくさんあった4トン車時代。今は海コンなので、一緒に作業をすることもなくなり、単調に仕事ができてはいますが、今でもやはり神様の不思議に悩まされることがあります。

 それはやはりトイレの神様のことでしょうか。とある倉庫でトイレを借りた時のこと。場所を教えてもらって行ってみれば、なぜかトイレのドアがアコーデオンカーテン。中は純和風の便器。さすがに参拝できませんでした(涙)。

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