ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はBMW8シリーズカブリオレ(2019年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2019年12月10日号に掲載した記事の再録版となります)

撮影:西尾タクト

■高級クーペにふさわしい、上品なことこの上なしの佇まい

BMW M850i xDrive カブリオレ(8AT・1873万円)…本国では2017年に8年ぶりの復活となったBMW8シリーズ。昨年11月に国内販売を開始し、今年2月にはカブリオレも加わった

 今年2月に日本デビューを果たしたBMW8シリーズカブリオレが今回のテーマだ。初代8シリーズは1990年から1999年まで生産されていて、この2代目は約8年の空白期間を経て復活したもの。

 GT-RやNSXだと大騒ぎになるが、さすがに日本のクルマ好きもドイツ車までは手が回らないのか、いたって平静な復活ではある。

 初代8シリーズはとてもファンタジーなクルマだと思っていた。リトラクタブルヘッドライトで絵に描いたようなクーペスタイル。

 編集担当から松井秀喜さん(元巨人)の愛車だったと聞いて、さすがに松井さんはセンスがいいと、今さらながらに感じたものだ。

 撮影日はあいにくの雨だったが、時折やむ時間を使って屋根を開ける。本革の真っ白なシートが現われ、上品なことこのうえない。

真っ白なインテリアは上品で優雅。こういうクルマは、クルマが乗る人を選ぶものだ

 BMWに限らず高級クーペはオープンモデルがよく似合う。今、日本車にラグジュアリーなオープンカーがないのがとても残念である。

 東京モーターショーに出ていたレクサスLCコンバーチブルが登場するのを待つしかないが、それが成功しなければ、トヨタは世界一になれないと思う。

 クリスタルなシフトノブのいやらしい感じもいい。

 かつて一世を風靡したヤンキー御用達の水中花シフトノブを彷彿させるが、浅草のやくざのファッションとニューヨークの最新ファッションは表裏一体なのと同じで、こういうものは意外と近いものなのだ。

 エンジンはV8、4.4Lのツインスクロールツインターボだそうだ。

こんな大パワーエンジンを載せられるのはもう最後かもしれない。今のうちに楽しむべし!

 ツインツイン言われても私にはよくわかならないが、この時代にこんな大げさなガソリンエンジンを作って搭載する姿勢が素晴らしい。

 BMW本社の前で環境活動家にデモされないか心配だが、きっとこれが最後なのだろう。最高出力530ps、最大トルク76.5kgmというスペックも大げさ過ぎて最高である。

 価格は1873万円。それだけの金額をクルマに注ぎ込むことができる人であれば買うことはできるが、実はお金があればいいというものでもない。これだけ上品で優雅なクルマに乗るには教養と節制が必要なのだ。

 美味しいワインも知っていないといけないし、この季節にはどんな花を妻にプレゼントするのがいいのかも知っていないといけないし、タキシードが似合うスタイルも維持していなければならない。

 このくらいのクルマになると「買える」のと「似合う」のはまったく別の次元の話になるのである。

50km/h以下なら走行中も開閉可能な電動ソフトトップを装備し、音声操作が可能な「BMWインテリジェントパーソナルアシスト」も用意

■一転、走りは超過激! こいつとんでもなく“ワルい”クルマだぞ!

クローズド時にも優雅なデザインは失われない。ただし、スポーツモードの走りは超過激!

 では試乗といこう。久しぶりに身の引き締まる思いで運転席に座ったと思ってほしい。

 オープンにして走り出し、すぐにわかったのはカツラの人は危険だ! ということだ。私の帽子も飛んでいきそうになった。カツラにシートベルトが必要だ。

 そして、スポーツモードにすると、とんでもなくワルいクルマに変身することもわかった。

 恐ろしく速いのはもちろん、音も極端に大きくなって、剥き身の日本刀を振り回しているみたいになる。これはカツラでなくても気をつけなければならない。

 あおり運転を繰り返している輩には絶対に乗せてはいけないし、異常なスピード違反で逮捕されたような人物もこのクルマに近づけてはいけない。

 このスポーツモードは、もしクルマにドーピング検査があれば、確実にアウトだ。

走り出したとたんに帽子が吹っ飛びそうになった! カツラの人は頭にシートベルトをしたほうがいい

 止まっている時は上品で優雅でタキシードが似合うだのなんだの言っていたが、そんなヤワなクルマではなかった。

 たとえるなら「タキシードは着ていても、下半身はパンツ一丁」みたいなものだろうか。運転するまでまったく気づかなかった。私は完全にダマされていたのだ。

 しかし、それこそが高級オープンカーの真骨頂とも言えるだろう。普段は優雅でも、ひとたびムチを入れるととんでもないモンスターに変身する。

 このギャップがたまらないのだ。そこに人は大金を投じるのである。だからこそ舌を噛みそうな名前のツインスクロールツインターボエンジンが必要なのだ。

 8シリーズカブリオレには直6、3Lのディーゼルターボもあり、価格もそっちのほうが安い。きっと賢い人はそちらを選ぶだろう。

 しかし、このクルマの真髄は剥き身の日本刀であるV8ガソリンターボにある。こんなにワルいクルマに乗ったのは久しぶりだった。誉め言葉である。

●テリー伊藤今回のつぶやき

 上品で優雅な見た目とは裏腹に、スポーツモードの走りはド迫力! 高級オープンはこのギャップが重要なのだ。

(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)

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