煮魚、天ぷら、焼き魚。長年築地で培った経験と技で仕上げる海鮮料理は魚介の旨みがしっかりと引き出され、思わず顔がほころぶ旨さなのだ!ひと手間加えた調理や酒と一緒に、築地ならではの魅力を堪能できるお店を、BCの姉妹メディア『おとなの週末』がご紹介します。

撮影/鵜澤昭彦、取材、文/池田一郎(築地)

■継ぎ足しの汁で作る煮魚の味わいは一級品!『多け乃』

『多け乃』本日の煮魚定食 ランチサイズ:キンキ 4500円 ひと回り小ぶりなランチサイズ。魚は時季によるがほかにもカレイ、黒ムツ、カワハギ、金目鯛、のどぐろなども。1500円くらいから

 店に入ると真っ先に目に飛び込んでくるのは壁いっぱいの短冊メニュー。そのほとんどが魚介料理だ。創業は昭和10年で、子供の頃から魚を捌く手伝いをしてたという現ご主人が三代目。

 短冊に値段はなく時価というのにドキリとするが、「いい魚を極力リーズナブルに提供する」のが信条だから心配はいらない。

 で、何を食べても旨いのだが、ぜひおすすめしたいのが煮魚。仕入れやサイズで魚種や値段も変わるが熱狂的ファンのいるキンキもよし。

 煮方はお母さんの担当で、継ぎ足しの煮汁、熟練の手つきで仕上げいく。箸を入れればふっくらほろりとして、脂ものって、煮汁は見た目よりもあっさりしてやさしい味わい。「銀座なら倍の値段かな」という贅沢な味。シアワセ!

『多け乃』店は路地をちょっと入ったところに

[住所]東京都中央区築地6-21-2
[電話]03-3541-8698
[営業時間]11時~21時(土:20時)
[休日]日・祝
[交通]地下鉄日比谷線築地駅1番出口から徒歩8分

■年中変わるネタも楽しみ。サクリと軽く粋な天ぷら!『てんぷら黒川』

『てんぷら黒川』雪(昼のお食事セット) 2000円(海老、魚介、野菜の天ぷら、穴子天丼) ヒメゴチはふんわりカリッと揚がり、エビはぷりんとして甘い。アスパラの磯辺巻きやサクサクのレンコン、珍しい卵黄の天ぷらも

 エビ、魚介、野菜。昼のお食事セット「雪」をお願いすると出てくる天ぷらだが、何が登場するかはお楽しみ。

 野菜は契約農家から全量引き取りで入れるので、年間100種類くらい変わる。魚も「キスやメゴチがおいしいのはわかるけど、いつも同じじゃつまらないでしょ」と他店では味わえないものも。本日はヒメゴチとキスだ。

 素材によって順番や時間を変えながら、中が透き通って見えるように薄い衣で揚げる。見た目も粋な仕上がり。口に運べば、揚げあがりはサクリと軽く、香りよく、素材はどれもみずみずしい。これをこだわりの4種類の塩で食すのがこちら流だ。

天ぷらは揚げたてを数回に分けて供される。締の穴子天丼に行き着く前についついビールは仕方あるまい。

『てんぷら黒川』

[住所]東京都中央区築地6-21-8
[電話]03-3544-1988
[営業時間]9時~13時、夜:完全予約制 17時~20時LO
[休日]日・祝
[交通]地下鉄日比谷線築地駅1番出口から徒歩7分

■素材を活かす鉄板焼きの醍醐味を特等席で!『鉄板焼 Kurosawa』

 築97年になる建物に味わいがある上質な空間。長く伸びたカウンターに着くと少し特別な気分が味わえるはずだ。素材のよさを引き出す最上の料理法のひとつが鉄板焼きだと思うのだが、その醍醐味を味わえるのがこちらだ。

 ランチAコースで本日の鮮魚のソテーを選択。毎日シェフが市場で選ぶシーフードはもちろん、三浦半島や長野の東御の契約農家から届く新鮮な野菜も見逃せない。

『鉄板焼 Kurosawa』ランチAコース 3200円の一部(+660円でガーリックライスに変更可) 本日の鮮魚のソテー(または岩手県産黒毛和牛ステーキ100g) 真鯛は身と皮が別々に焼かれ、皮目はパリッ。仕上げのソースは塩昆布のタプナード。黒オリーブやドライトマトも生きている

 今日の魚介は、ホタテ、イカ、エビ、そしてサワラと真鯛。目の前の鉄板で細心かつダイナミックに焼かれていくのを見るのも楽しみだ。仕上がりはパリッとしつつジューシーで素材の旨みににんまり。フレンチの技法が生きたソースもいいアクセントになっている。

『鉄板焼 Kurosawa』落ち着いた空間。食後のコーヒーは床の間が素敵な2階サロンでも楽しめる

[住所]東京都中央区築地2-9-8
[電話]03-3544-9638
[営業時間]11時半~14時半、17時~22時半(土・祝22時)
[休日]日
[交通]地下鉄日比谷線築地駅四番出口から徒歩2分

■銀座の台所 築地の実力は健在!

外国人観光客で賑わう場外

 築地といえば豊洲移転前は卸売市場があって、場外市場とともに早朝から活気を呈していた。銀座との関係でいうならまさしく台所。銀座の美味は間違いなく築地が支えていたわけで、もとよりその実力は言うまでもないのだ。

 豊洲移転、さらにはコロナが追い討ちをかけて、どうなる築地?どうなる築地場外市場?と一時は心配されたものの、どっこい長年培われた土地の記憶というか実力は、そんな簡単に揺らぐものではない。

 場外市場はインバウンドが復活して、連日驚くほどの人で賑わっている。その一方で市場関係者や舌の肥えた客に育てられた実力店も変わらず健在だ。その底力を今回は築地らしく魚介で味わおう。

魚好きで昼から賑わう

 ただし、確かに旨いが寿司や海鮮丼では安易に過ぎる。魚介の旨さを味わい尽くす懐の深さもまた築地。ひと手間加えた調理や酒と一緒に、ならではの魅力を堪能できる店。ぜひ楽しんでいただきたい。

※2024年5月号発売は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

『おとなの週末』/2024年5月号より
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