まだまだ見かける信号待ちの時に、ATのシフトレバーをDレンジからNレンジに変更する人。これはどちらが正解なのだろうか? 昭和のクルマならそうだったかもしれないが令和のクルマは違う、ということも多い。今回は、これで決着!? AT車の信号待ちは「Dのまま」が正解!? それとも「N」が正解なのか?

文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部、Adobe Stock

■信号待ちでN(ニュートラル)に入れると燃費がよくなるってほんと?

信号待ちでDレンジのままか、Nレンジに切り替えたほうがいい?(Adobe Stock@裕 廣田)

 信号待ちでDレンジのままか、Nレンジにしたほうがいいのか問題。つまり、DレンジからNレンジ、D→3→2など、頻繁にレンジを切り替えるとクラッチ板が減りやすくなり、摩耗粉が油圧経路に回ればシフト不能になるなど、油圧制御機構のトラブルの原因になる……と、昭和に誕生したクルマのAT車はそう言われていた。

 そのために、できる限りDレンジのまま走らせるのが理想で、信号待ちでNレンジにわざわざシフトチェンジするのはやめたほうがいいと言われていたわけだ。

 ところが、パドルシフトなどのマニュアル操作機構が採用されだした平成10年代くらいからは充分な耐久性が確保されたため、Dレンジからシフトレバーを頻繁に動かしたからといって問題になることはまずない。ネオクラシックカー含め古いクルマを除いてはだが……。

 むしろ、日常的に急発進や急加速を繰り返していたり、完全停止しないうちにDレンジからRに入れる、乱暴なシフトレンジのほうが、トランスミッションにとってはよくない。

 ちなみに免許更新時に渡される交通教則本を見ると、「交差点などで停止したとき→停止中は、必ずブレーキペダルをしっかり踏んでおき、念のためハンドブレーキも掛けておきましよう。停止時間が長くなりそうなときは、チェンジレバーをNに入れておきましよう。 ブレーキペダルをしっかり踏んでおかないと、アクセルペダルを踏まなくても自動車がゆっくり動き出し(クリープ現象)、追突などの思わぬ事故を起こすことがありますので注意しましよう」と書いてある。

 その一方でJAFのX(ツィッター)では「ATミッションのクルマで、交差点で停車するたびニュートラルにする人を見かけますネ。万が一エンジン回転が高い状態でドライブにシフトしてしまうと大変危険。大事故にもなりかねません。エンジンが動いている状態では燃費にほとんど差がありませんヨ」とツィートされていた。

 まとめると、交通教則本は停止時間が短い時はDレンジでブレーキをしっかり踏んで、念のためサイドブレーキを踏む、停止時間が長くなりそうなときはNレンジ、という教え。

 JAFは、Nレンジにすると万が一エンジン回転数が高い状態でDレンジに入れると急加速する可能性もあるのでDレンジのままが正解。ただし交通教則本のサイドブレーキまで踏むというのはちょっと……。

近年のクルマのATとなると話が違ってくるのか?

ホンダのe:HEV系はこのようなシフトスイッチ

 ただし、10数年前に比べて種類が増え複雑化している近年のクルマのとATなると、また話は違ってくる。

 アイドリング中もエンジンは燃料消費を続けているが、Dレンジでアイドリングしながらの停車となるとエンジンに負荷がかかるため燃費はさらに悪化する。このようなアイドリング時の燃費向上を目的とした「ニュートラルアイドル制御」の導入が近年進んでいる。

 トルクコンバーターを用いているCVTや多段ATを採用しているプレミアムカーが主体で、前者の場合はブレーキを踏んで停車すると自動的にCVT内部のクラッチを切断。

 エンジンの駆動力を駆動系から切り離すことでトルクコンバーターで発生していた負荷を軽減する。後者はDレンジでの停車時、トランスミッションの発進クラッチをニュートラル状態に近づける(変速機内部のクラッチを半解放する)ことで、エンジン負荷の低減が図られている。

 また、Dレンジで停車するとエンジンが自動停止する「アイドリングストップ車」の場合、Nレンジにするとアイドリングストップ機構がキャンセルされ、エンジンが再始動するモデルが多い。当然、停車時Nレンジにすると、エンジンがかかっている状態なので燃費が当然悪化することになる。

 ただし、最近では、トヨタのヤリス、ヤリスクロス、RAV4、ハリアー、スズキのスイフトのように、アイドリングストップ機能をもたないクルマも増えてきている。

最近ではアイドリングストップ機構は減少傾向にある(Adobe Stock@tarou230)

 エンジン性能の向上により十分な燃費改善が見込めるため、アイドリングストップ機能を必須と考えていないことがアイドリングストップ機構非対応の最大の理由。補助バッテリーも高額であるので将来的にはかえって高くつく場合もあるからだ。

 どれだけ燃料の節約になるかというと、一般財団法人省エネルギーセンターが行った調査によると、2L車の場合、エンジン始動時に必要となる燃料は1.05cc。アイドリングストップ時にかかる燃料は1秒当たり0.221ccなので、5秒以内にエンジンの再始動を行うと損になってしまう。

 また環境省によると、1日5分間のアイドリングストップを行うことで年間約1900円の節約が可能になります。さらに、約39kgのCO2(二酸化炭素)削減が可能。現状ではアイドリングストップ機構は燃料の節約にはなるが、バッテリーのコストなどを考えると微妙……という意見が多い。

 ちなみにタクシーに乗った時に、信号待ちでドライバーがNレンジにしているのを見たことがあるかもしれない。それは、車両停止時にシフトレバーをNまたはPにするとエンジンが自動停止するアイドリングストップ機構を働かせるためで、燃費向上にも役立つからNレンジにしているのだ。

 ちなみにブレーキを踏みながらDまたはRに入れるとエンジンが再始動する。タクシー専用車のクラウンセダン、クラウンコンフォート、コンフォートのAT車に標準装備されている。ちなみにLPGハイブリッドのJPNタクシーにはアイドリングストップ機構を備えている。

 アイドリング機構を備えているクルマのほとんどは、運転席にあるアイドリングストップ機能のキャンセル(解除)ボタンを押すことで、アイドリングストップ機能のオン/オフが切り替えられる。

信号待ちでNレンジにする必要はない。Dレンジのままが正解!

新型トヨタ シエンタ(ガソリン車)のシフトレバー

 このように、多角的に見てきたが、近年のクルマならわざわざNレンジにする必要はない。信号待ちの際はDレンジのままが基本。「信号停車時Dレンジに入れっぱなし」は設計時に想定されている使い方だからで、「ニュートラルアイドル制御」などは手動によるN→D操作より負荷の変動をさせることなくスムーズに発進できる制御もなされているからだ。

 また、最近のクルマには信号待ちや渋滞など、ブレーキペダルから足を離してもブレーキを保持するオートブレーキホールド機能が付いている。電動パーキングブレーキと合わせてついているが、傾斜のある坂道などではオートブレーキホールド機能が効かない場合があるので、過度の信頼はしないほうがいいだろう。

 時期的に今のような酷暑で渋滞しているとエアコンの効きが悪くなった時には、Nにするとアイドリング回転が上がって効きをよくしようとするのでこの場合にはNにしてもいい。オルタネーターの発電も不足しているので、2000rpmまでエンジン回転を上げるとなおいいだろう。

 とにかく一番気を付けてほしいのは、転回時など急いでいる時、DレンジからRレンジに切り替える際に、しっかり入ってない段階でアクセルを強く踏んでしまうことが一番よくないので、気を付けていただきたい。

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