クルマの維持に欠かせない自動車整備士、中でも大型車の整備士の人材不足が課題となっています。三菱ふそうトラック・バスでは、新卒および中途採用のメカニック(サービススタッフ)を対象に、働きながら自動車整備の技能と最新知識を学んでいけるドイツ式トレーニングプログラムを導入して、大型車メカニックの人材確保を図ることにしました。

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部

ドイツ式の職業訓練で大型車メカニック確保をめざす

ドイツ式のVTメカニック養成プログラム第1期生となる全国三菱ふそう販社の若手社員

 三菱ふそうが導入する「ドイツ専門職業訓練」(デュアル・ボケーショナル・トレーニング・システム、略称VT)は、ドイツの職業教育基準に基づいた約3年間の専門職育成プログラムで、ドイツと48の国・地域の企業で広く採用されていますが、日本では初となるものです。

 自動車販売会社や自動車整備業のメカニックは、自動車整備士専門学校や自動車大学校を修了して、資格試験を合格した人が就くケースがほとんどです。しかし、整備士の減少が長期的に続いており、乗用車とは違う整備技術・知識を必要とする大型車メカニックのなり手は、さらに少なくなっています。

 その原因には様々な理由が考えられていますが、三菱ふそうではVTを導入することで、この流れを変えようとしています。

3年間で整備技能と最新技術を学ぶ

 VTは約3年間の訓練プログラムで、現場で働きながら大型車整備の技術・技能を習得しつつ、並行して最新自動車技術に関する専門講義を提携専門学校(東京と神戸の2専門学校)で受けるものです。

 内容は、ドイツで規定されている自動車整備士養成カリキュラムをベースにしながら、先進ドライバー支援システム(ADAS)など最新メカトロニクス領域についても学ぶ、オリジナルのカリキュラム(もちろん日本語)となっています。2年目と3年目には試験を実施して、訓練の成果が測定されます。

 VTのもう一つの特徴は、大型車メカニックを志す人が経済的な不安なく履修できるよう、提携専門学校の受講費全額と生活費の一部を企業側が負担する点です。新卒あるいは勤続中の正社員をVTの対象にしている三菱ふそうの場合は、当然のことながら給料も支払われます。

短期間で即戦力メカニックに!

三菱ふそう販社サービス工場における整備作業

 三菱ふそうにとってVT導入のメリットは、求人面での魅力が高くなることと、大型車メカニックの養成期間を短縮し、その技術・技能・知識の水準も高められることです。

 現在は、社内教育機関(FUSOアカデミー)での研修後に、配属先の現場におけるOJT(職場内訓練)を行なっていますが、ひと通り修了するには約5年の期間が必要でした。しかも、研修後に商品化された最新技術への対応(再研修)のタイムラグや、地域による入庫車モデルの新旧差、OJTでの担当業務の違いなどによって、メカニックの質が異なる状況でもありました。

 VTでは、いわばOJTと並行して座学を実施することで、メカニック育成を約2年ぶん短縮でき、しかも若手にして即戦力かつ最新技術に精通した中堅メカニックを、全国に配属できることが期待されています。

専門学校と同じく技能試験免除を交渉へ

 三菱ふそうのVT第1期事業(2024~27年度)では、全国の三菱ふそう各販社において社員からの志願または推薦で集められた若手メカニック18人が、VTに参加することになりました。将来的には、新卒メカニック教育を全面的にVTへ移行する考えで、中途採用メカニックの教育にも活用したいとしています。

 ただ、VTのカリキュラムには、日本の第一/二/三級の各自動車整備士資格に対応する内容が含まれているものの、仮にいまの時点でVTを修了できたとしても、資格試験の免除はありません(ちなみにドイツ本国でVTを修了すると、国家資格・ゲレゼが取得できる)。
 
 そこで、日本でVTを企画・運営する在日ドイツ商工会議所(AHK)では、日本の自動車整備士専門学校の修了者と同じく、国交省の整備士検定試験における実技試験免除、学科試験合格のみ(日整連の登録試験合格者は学科試験も免除)で資格が取得できるよう、国交省と協議を進めることにしています。

 なお、VTは本来、自動車整備士だけではなく、様々な専門職の訓練で活用されており、327件のプログラムが設定されています。日本では三菱ふそうのほか、乗用車メカニックの養成で、独・BMWの日本子会社ビー・エム・ダブリュー社が導入することになっています。

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