2014年11月に逝去した自動車評論家、徳大寺 有恒。ベストカーが今あるのも氏の活躍があってこそだが、ここでは2013年の本誌企画「俺と疾れ!!」をご紹介したい。GTの発展とレースの歴史、ゴルフのよさはどこにあるのか? 国産メーカーに「デザインのいいクルマ」はあるのか? その経験の広さ奥深さに触れる5本。(本稿は『ベストカー』2013年6月26日号に掲載したものを再編集したものです/著作権上の観点から質問いただいた方の文面は非掲載とし、それに合わせて適宜修正しています)

■GTの発展とレースの歴史

メルセデスベンツ300SLロードスター……ガルウイングの300SLが1957年5月に生産が終了し、入れ替わりで誕生したのが300SLロードスターだ。アルミボディからスチールボディに変更となるが、エンジンスペックは215ps/28.0kgmのまま

 多くの名車を生み出したダイムラー・ベンツことメルツェデスはその歴史そのものが自動車の歴史であるばかりでなく、モータースポーツの実績はそれこそ自動車の歴史なのである。

 そのメルツェデスの車名にSLというものがある。いわずと知れた“スーパーライト”の頭文字だが、このスーパーライトこそ“スポーツカー”の別名である。

 今でこそSLクラスは世界中の中産階級以上のアシとして憧れの対象である。このあたりはこの会社の商品作りのうまさではあるが、元々SLはその名が示すとおり“超軽量”が売りだった。

 ホイールベース2400mmの2ドアクーペで登場した300SLは機械式燃料噴射のストレートシックスSOHCエンジンを持つクルマであった。このSLのシャシーは細いパイプフレーム(鋼管スペースフレーム)の組み合わせであり、超軽量と銘打っている理由でもあった(実際の車重は1295kg)。

 初期のSLはそのまま自家用車でレースに参加できるほどであったが、やがてSLは豪華なツーリングスポーツへと変身しガルウイングボディのSLからオープンロードスターになる頃は、SLをコンペティションに使おうとは思わなくなった。

 しかし、“名車”にとってその生い立ちは重要だ。初期のSLはヨーロッパではコンペティションに使えるクルマとしてその名を馳せたのである。

 当時のラリーは耐久レースそのものでリエージュ・ソフィア・リエージュというラリーは当時はやりかけのGT(グランツーリスモ)のレースであり、キャビンを備えたGTカーが覇を競った。ちなみに1963年のこの大会はプライベーターが乗る230SLが優勝した。

 やがてGTはスポーツカーの代名詞となり、レースに向いているコンペティションGTと本来の意味である量産スポーツカーのGTとに分かれていくことになる。

 世界でレースをコントロールするFIAは生産台数の少ないコンペティションGTを追い出そうとするが、メーカー側はそうはさせじとコンペティションGTを作り続けた。

 ポルシェ904、フェラーリ250GTOなどは今でこそ名車といわれているが、当時は何かともめるクルマだったのだ。

 F1にドアとバックミラーをつけただけのGTと世界中のアマチュアドライバーが楽しむGTとではクルマ作りが根本から異なる。

 やがてエンジンの排気量によるクラス分けが行なわれ、初期のGTレースは1.3L以下のGTIがイタリアのアバルト、2L以下はポルシェが、そして3Lクラスはジャグァが押さえたが、やがてこのGTIIIはアメリカのフォードコブラが席巻する。

 考えてみればこの時代はまだまだ市販のGTがけっこうハバをきかせていたのだ。しかし、やがてフォードの参入からモータースポーツはヨーロッパ対アメリカとなり1960年代からレースは世界的なものになっていく。

 特にオーストラリアンの参加は多くのビルダードライバーを生んだ。ブルース・マクラーレン、ジャック・ブラバムなどである。何人かはレーシングカーメーカーとしてビジネスマンになるのだが、ナンバーワンと思えるスコットランドのジム・クラークは純粋なドライバーとして大活躍した。

 このあたりからレーシングカーはドライバーの背後にエンジンのあるいわゆるミドシップが主流となり、F1はもとより、ル・マンなどのスポーツカーからヨーロッパのヒルクライムレースまでに及んだ。

 そのなかでロータスを率いたコリン・チャップマンはレースの世界で次々と革命を起こし、F1ビジネスを世界的に“有名”にすることに成功した。

 同時にF1というビジネスは巨大化し、巨大なマネーが動くことになって行く。マスコミもビジネス化し、F1の2時間内外のレース時間こそがビジネスに向いていることがわかってきた。

 かくてテレビビジネスを中心とする連中がレースの世界に入ってくる。そして巨大なマネーがF1の世界に入ってきた。もはやモータースポーツもビジネスであり、“スポーツ”というものはどこかに行ってしまった。

 もっとも昨今の流れを見ているとオリンピックですら金のためにどうにかなってしまいそうである、まったくマネーの力は底知れぬものだ。

■キャピタルと輸入車

ルノー5(サンク)GTLフランセーズ……キャピタルが扱った初代ルノーサンク。3ドアが登場した後、5ドアを追加した。ふわふわのシートとロールはあるが、しなやかな乗り心地で当時の日本車を驚かせた

(古いフランス車が好きだという読者の方からの、「(昔ルノー車などを販売していた)キャピタルという会社をご存じでしょうか、昔は輸入車のディーラーが少なかったと思いますが、どのようなカタチで情報を手に入れ、買っていたのか教えてください」という質問に応えて)

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 キャピタルは東京日産が親会社のお店でした。船橋サーキットがあった頃の1960年代にオースチンミニクーパーをチューニングしたキャピタルミニが有名でしたね。

 それからしばらくルノーの代理店をやっていました。私はここの役員と仲良しだったことから、クルマも借りましたし、いろんな思い出があります。

 当時フランス車はあまりなく、種類もありませんでしたから、サンクは大きな驚きでした。当時はもっぱら外国雑誌などから情報を得ていたと思います。

 もちろんキャピタルからも外国車の情報をもらっていました。社員も上品で自動車屋らしくない好感の持てる人物が多かったように記憶しています。

 ミニはローバージャパンが扱うようになり、ルノーもジヤクスが扱うようになって付き合いがなくなりましたが、当時の人たちに会いたいですね。

■なぜゴルフなのか?

(小さなクルマに乗り換えを考えているという読者の方からの、「ゴルフのよさは具体的にどこにあり、なぜ日本人にこれほど人気なのでしょうか? ぜひ教えてください」との質問に応えて)

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 私はこの10年以上メインのクルマはVWゴルフです。サイズもいいし、燃費やその他の性能も日本の交通に合っていると思うからです。

 それと大切な部分はそのドライブフィーリングが私に合っているというのも大きいのです。私はいろいろなクルマに乗りますが、1台だけというならVWゴルフです。その次はルノーあたりでしょうが、ジャグァも好きです。日本車ですとクラウンかスカイラインになります。

 これ以外では古いMGとかイギリス車ですね。

 VWゴルフは何も考えないで乗れる、1台で満足できるクルマなのです。この号が発売される頃にはゴルフVIIも発売となります。

ゴルフVII

■デザインのいいクルマ

(「現在売っている国産車のなかで、こいつのデザインがいいと思うクルマがあれば教えてください」という読者の方からの質問に応えて)

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 日本メーカーも自社のクルマのスタイルには強い関心を持っています。

 むしろ日本メーカーは流行というものに左右され過ぎだと思います。それと日本のクルマは合議制で決まる。つまり、誰も責任をとらないのです。

 どのメーカーもそうですが、バシッとしたポリシーがないように思えます。強いていうならば日産がいいかなというところです。トヨタはもう会社そのものですが、意外に個性的なところもあったのですが、今は普通になりました。

 大メーカーには難しいと思いますが、せめてボルボくらいのキャラクターは欲しいですね。ボルボには北欧デザインの長い歴史があります。それは家具などにも生かされています。安全性とともにボルボの魅力といえるでしょう。

■自動車の切手集め

(自動車の切手集めが趣味だという読者の方からの、「歴代クラウンやホンダスポーツといった切手シートがあるときっと大人気になると思います」というお話から)

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 編集部の担当に聞いたところ、誰でも簡単にオリジナルの切手作りができるそうですね。例えば愛車の写真だとかペットの写真とかでも可能だそうです、日本郵便はなかなかいいサービスをはじめたものです。

 ●●●さん(読者の方)のおっしゃるとおり、私も歴代クラウンやブルーバード、特にSSSばかりの切手があれば欲しいと思います。またスバル1000やダイハツのコンパーノスパイダー、いすゞのベレットGTRといったマニアックなクルマばかり集めても面白いですね。

 クルマの切手はある種の記念切手だと思いますが、おそらくお気に入りのポストカード同様、机の中に大事にしまっておくだけで使わないでしょう。

スカイラインオリジナルフレーム切手……2010年に南関東エリアで販売されたもの。80円切手10枚入り、1シート1200円で販売された。R30とR31、R33とR34がセットで1枚になっているのはファンには残念かもしれない

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