ごく一般的な日本の路線バスの場合、乗降用ドアの数は一番前と中間部分の前中2ドアである場合が多い。海を越えた世界のバスではどうなっているだろう?
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
(世界の路線バスの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■日本のバスから見ていくと!?
日本では2ドア車のほか、中・長距離路線用や乗降客数の少ない地方路線用に、一番前のドア1か所だけで出入口を兼ねある「トップドア仕様」もあるが、これは観光車を除く路線バス用車両としては少数派だ。
それとは反対に、混雑路線向けの特注車両として、前中後3か所にドアを設けた「3ドア仕様」というのも存在した。路線バスが公共交通の中心となっている地域では、特に朝の通勤通学ラッシュの際に、最寄りの鉄道駅で多くの下車客を捌く必要性から、降車用として最後部に3つ目のドアを設け、これに対処していた。
以前は前後2ドア車も存在するなど、事業者の好みに合わせてオーダーメイドする特注車両が多かったが、近年はレディメイド化されたことで、原則的に事業者の好みに合わせた特注車両が無くなり、後部ドアを有する車両は減りつつある。
基本的に運賃収受を運転手が行う日本では、最前部のドアから乗車して運転手に運賃を払うか、中ドアもしくは後部ドアから乗車して下車時に運転手へ運賃を払い、最前部ドアから下車するかの2択となる。
したがって、日本の場合は基本的に2ドアあれば十分で、例外として運賃前払い方式の会社で、終点での降車用として後部ドアを設けた3ドア車が存在していたが、それ以上のドアを設ける理由はなかった。
仮に存在したとしても、終点での降車時間に少し差が出る程度で、座席数が減るなどデメリットの方が多く、積極的に採用する理由は全くなかった。
■枚数てんこ盛り!! な世界のバス扉事情
一方で、多くの会社が信用乗車方式を採用するヨーロッパでは、3つ以上のドアを持つ路線バスは非常に多く、都市部ではむしろ3ドア以上が標準という感じだ。
信用乗車方式とは、乗客が公共交通機関を利用する前に、有効な乗車券を購入したり、ICカードで料金を支払ったりするもので、運転手や車掌が乗客一人一人の乗車券をチェックしない。
当然、どのドアからでも乗降ができるので、乗降による時間のロスは大幅に減少する。無賃乗車などの不正が発生するリスクは高まるが、検札係が抜き打ちで検札を行い、不正が発覚した場合は運賃の30~50倍という高額の罰金が科せられる。
運転手が運賃収受することによる停車時間の増大や、それに伴う遅延といったマイナス面と、抜き打ち検査で高額な罰金を科すことによる不正乗車の抑止、実際に高額な罰金を徴収することによる収入面のリスク軽減などを天秤にかけた結果、と言えよう。
ともあれ、この信用乗車方式を採用している多くのバス事業者にとって、特に都市部においてはドアの数は多ければ多いほど良いと言える。
どのドアからも乗降できるわけだから、ドアの数が多ければ、その分停車時間の短縮に繋がるからだ。単車体では、3ドア車が標準的となっており、中には4ドアも存在する。連接車であれば4ドア、5ドア車も見かける。
ボディの大きさに対して、側面がドアばかりになってしまうのでは、と感じるかもしれないが、ヨーロッパの路線バスは単車体標準型が12m、連接車が18mと、日本の車両に比べてかなり長い車体を採用しており、ドアの数が増えてもドアばかり…ということでもない。
とはいえ、もちろん座席の数はドアの数が増えれば減ることに変わりはなく、都市の規模や混雑度によって採用されるドアの枚数は異なってくる。
■英国だってガラパゴス!?
ヨーロッパ地域では唯一、ロンドンを含む英国だけは、日本と同様に運転手が運賃収受を行うため、2ドア以下の車両が多い。
ただしロンドンはオイスターカード(ICカード)もしくは1日乗車券などのフリーパスだけしか受け付けず、運転手による現金収受は行っていない。
運賃収受を行うことによる停車時間増大を抑制することはもちろんのこと、運転手へ必要以上の現金を持たせないようにする、防犯上の意味合いも兼ねていると言える。
なお、3ドア車である新型ルートマスターは車掌が添乗し、乗客がきちんとカードリーダーで運賃を支払っているか、あるいは1日乗車券を持っているかのチェックを行っていた。
逆に後部に1か所しか乗降口がない旧ルートマスターも、運転手がチェック出来ないので車掌が確認を行っている。
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