ドイツのプロサッカーリーグ、ブンデスリーガに所属するFCバイエルン・ミュンヘンといえば、欧州制覇6度を誇る強豪サッカークラブだが、この度、ホームスタジアムのアリアンツ・アレーナに電動の大型トラック・バス用の「充電パーク」を整備すると発表した。

 なぜ欧州の名門サッカーチームが商用車の充電を支援するのだろう?

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/MAN Truck & Bus SE・FC Bayern Munchen AG

FCバイエルンの本拠地にトラック・バスの「充電パーク」

アリアンツ・アレーナの「充電パーク」完成イメージ。FCバイエルンのチームバスのほか、一般の物流用トラックも利用可能となる

 ドイツ・ミュンヘンにあるアリアンツ・アレーナは、サッカークラブの世界的な強豪として知られるFCバイエルン・ミュンヘンのホームスタジアムだ。ここで、バッテリーEV(BEV)トラック・バスの充電を可能にする「充電パーク」プロジェクトが正式に始まった。

 式典にはバイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏、同州の住宅・建設・交通大臣のクリスティアン・ベルンライター氏、FCバイエルン・ミュンヘンCEOのヤン・クリスティアン・ドレーゼン氏、同副CEOのミカエル・ディーデリッヒ氏、MANトラック&バスCEOのアレクサンダー・フラスカンプ氏、同開発責任者のフレデリック・ゾーム氏などが出席した。

 計画ではバス&乗用車用のアリアンツ・アレーナ南駐車場に、高出力のメガワット充電設備を3段階で整備するという。最終的に充電器はトータルで30基となり、1日当たり500台のBEV大型商用車を充電可能な大規模な施設となる。

 サッカースタジアムのような大型施設は、強力な電力網を備えている。この電力は、照明、ケータリング、観客向けの様々なサービスを提供する上で欠かせないが、試合のない日はほとんど活用されていない。

 いっぽう大型商用車は、欧州では電動の車両が既に市場投入されているものの、乗用車とは文字通りにケタ違いの電力を必要とするため、大型車用充電インフラの整備が全く進んでいない。

 FCバイエルンとMANは、アリアンツ・アレーナが大型車の「充電パーク」を整備するのに最適な立地なのではないかと考え、プロジェクトの推進で合意したという。また、アリアンツ・アレーナは100%グリーン電力を使用しているそうで、環境プロジェクトとしては一層適した場所だ。

 もちろん、フォルクスワーゲングループの商用車メーカーとして、MANトラック&バスが長くFCバイエルン・ミュンヘンのスポンサーを務めていることも合意に影響しているだろう。

 さらに、アリアンツ・アレーナは交通量の多いミュンヘン北の高速道路のジャンクションにも近い。このジャンクションは、1日に1万台のトラックが通行する、欧州の道路貨物の要衝といえる場所だ。充電パークの立地として他にない条件が、ここにはそろっている。

チームバスの電動化でクラブとしても充電器が必要に

式典にて。左から、MANのフラスカンプCEO、バイエルン州のゼーダー首相、FCバイエルン・ミュンヘンのドレーゼンCEO、同ディーデリッヒ副CEO

 加えて、FCバイエルン自体が大型商用車の充電インフラを必要としている。というのも、2025/2026シーズンにチームバスとして初めて全電動のMAN製eコーチ(長距離バス)を導入するからだ。

 MANは2023年の欧州BEV都市バス市場ではマーケットリーダーだった。BEVトラックも数千台の受注を抱えている。初のBEVコーチは試験運用を経て、長年のパートナーであるFCバイエルンに納車される予定だ。

 FCバイエルン・ミュンヘンのドレーゼンCEOはMANとの共同プロジェクトの意義を次のように説明する。

「私たちの社会は自然環境を守るという重大な課題に直面しています。商用車を充電できる公共の充電パークは、アリアンツ・アレーナの運営をより持続可能なものにしていくための取り組みです」。

 いっぽうMANのフラスカンプCEOはプレスリリースで次のようにコメントしている。

「パリ協定の環境目標を達成するには、商用車からの排出をさらに削減しなければならず、2030年までに弊社の製造するトラックの半分を電動化します。そのためには充電インフラが非常に重要で、欧州各地のサービス拠点に充電ネットワークを整備していますが、これだけでは充分ではありません。新しいアイデアが必要です。

 アリアンツ・アレーナの充電パークは、バイエルンから世界に向けて州境を超えて輝く、まさにフラッグシップ・プロジェクトとなるでしょう」。

充電パークは大型トラックにとって不可欠?

アリアンツ・アレーナはアウトバーンのジャンクションにも近い

 欧州自動車工業会(ACEA)の試算によると、商用車の稼働を支えるため、2030年までに欧州の主要物流道路沿いに合計5万カ所の高規格充電設備が必要となる。

 大型車を駐車でき、大電力の供給が可能で、物流道路にも近いアリアンツ・アレーナの充電パークのような場所は、特に走行距離の長い大型トラックにとって将来的にますます重要になるだろう。

 MANは2023年10月にBEV大型トラックを発売したが、当初から一日の走行距離として600から800kmを想定している。これには充電技術が果たす役割も大きいと、開発責任者のゾーム氏は指摘する。

「MANのBEVトラックは最大534kWhのバッテリーを搭載しています。(これだけでは600km以上を走行することはできないが)法定休憩時間に充電できれば航続距離を300~400km伸ばすことができます。メガワット充電システム(MCS)ならバッテリーを80%まで回復できるからです」。

(注:日本の「430」休憩と同様、欧州では「4.5時間の連続運転につき45分の休憩」が法律でトラックドライバーに義務付けられている)

 アリアンツ・アレーナの充電パークは、現状では全く足りていない大型車の駐車場と充電設備を一体的に整備しつつ、FCバイエルンとしては試合のない日も施設を有効活用して脱炭素の取り組みを進めることができるという、画期的なプロジェクトなのだ。

 なお、MANの新型BEVトラックは、運送会社の駐車場で夜間充電するケースを想定してCCS規格の充電にも対応する。CCSコネクタの搭載位置は、車両の右、または左、さらにリア右側も可能。MCSは常にドライバーサイドだが、MCSを省き両側をCCSとすることもできる。

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