2024年7月18日、トヨタ自動車の豊田章男会長から驚きの言葉が発せられた。「日本で頑張ろうという気になれない」、「ジャパンラブの私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」という発言だ。一見すると威嚇の様な発言に感じるが、もし本当にトヨタが日本脱出をしたらどうなるのだろうか?

※本稿は2024年8月のものです
文:福田俊之/写真:ベストカー編集部、トヨタ
初出:『ベストカー』2024年9月10日号

■「トヨタ日本脱出」を考えてみる

トヨタ本体だけでなく関連会社、下請けを含めて、確実に雇用問題が深刻化する

 型式認証の不正を機に、国土交通省への不満をあからさまに表明するようになったトヨタ自動車。古くからの教訓に「賢者は黙して語らず」という言葉もあるが、なかでも物議をかもしているのが豊田章男会長の「ジャパンラブの私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」という発言だ。

 果たしてトヨタが日本から出て行ったらどのような影響が出るのだろうか。

 日本経済に大きな影響が出ることは当然避けられない。連結売上高45兆円(うち国内=21兆円)、営業利益5兆円(同3兆5000億円)を超えること自体巨額だが、この数字は数多くの部品を寄せ集めて最終商品のクルマを売った集大成とも言えるもので、下には部品を作る多数のサプライヤーが連なっている。

 それらの下請け会社を支えて、トヨタ単体だけでも7万人の従業員に給料を支払いながら、1社だけで東証プライム上場企業の1割に相当する利益を稼ぎ出す会社がすっぽり日本から抜け落ちると思えば、影響が甚大なものになることは容易に想像することができる。

 トヨタが日本から出て行けば、部品メーカーもまた海外への移転を進めざるを得なくなり、雇用への影響も数十万人単位となるだろう。そういう自社の影響力の大きさを知っているからこそ、平地に波瀾を起こすような“脅し文句”ともとれる発言をしたのだ。

 ただ、実際にトヨタが日本から出て行けるかどうかというと、それはおよそ非現実的なのも事実だろう。

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■トヨタの成長は日本だから出来た!

トヨタが日本からいなくなれば、海外メーカーに対する競争力は確実に低下する

 トヨタは世界の自動車メーカーでも最強のエクセレント・カンパニーだが、その強さはトヨタ単独で手にしたものではない。平均的教育水準の高い人材を容易かつ安価に雇用することができる日本の労働環境に育まれて成長ができたことを忘れてはならない。

 それに加えて“三河モンロー主義”という言葉に象徴される愛知県三河の豊田家を中心に固い結束の下で、独特な滅私奉公的気質に支えられてきたという深い絆も見逃せない。

 トヨタの従業員のみならず、サプライヤーをはじめ関連分野の会社がこぞってトヨタを支えれば自らも安泰と考え、自己犠牲的精神を発揚してトヨタの繁栄に一役買ってきたのだ。

 仮にも海外に飛び出したとすると、トヨタ幕府的な統治方法は通用しなくなる。あるのは企業間の徹底的な相互契約と、個人主義にもとづき賃金に見合う労働力を提供する労働者だ。

 もちろんトヨタもそのあたりは百も承知。「町いちばん」を掲げ、地域ごとに相手との関係の築き方を変えることにも慣れている。

 が、そんな変幻自在な経営を推進できるのも日本、ひいては三河に本拠地を構えていればこそだ。その日本を捨てて海外に拠点を移すことが不可能なのは、トヨタ自身が一番痛感しているだろう。

 身軽にどこへでも資本移転できそうなグローバル企業でありながら、日本に根ざしすぎて日本から動けないトヨタ。この巨大企業にはこの先も試練があるかもしれないが、寛容かつ真摯な態度で受け入れる「王者の風格」が求められ続けることは間違いない。

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