モリゾウさんがスーパー耐久シリーズ第5戦鈴鹿を走ったGRヤリスDAT。外見こそ変わらないが、装着されたロールゲージには画期的な技術が採用されていた。いったい何が変わったのだろうか?
文・写真:ベストカーWeb編集部
■人よりもゆっくりと、丁寧に! 驚きのロボット溶接技術
サーキットを走るにせよ、ラリーにせよ、乗員保護のために欠かせないのがロールケージ。これまでロールケージの溶接は手作業に頼ることがほとんどだったが、GRと産業用ロボットを製造する株式会社安川電機が共同で開発したアーク溶接新技術・SFA(Sequence Freezing Arc-welding)がロールケージ製作を劇的に変えた!
アーク溶接とは簡単にいえば金属の溶接棒(ワイヤ)を使い火花を飛ばしながら溶接していく方法。SFAは電極の間に電流が発生させ、溶接棒(ワイヤ)を溶かしながら溶接していく。
従来のロボットを使った溶接は効率やスピードを求めてきた。しかし、SFAでは時間をかけ、ゆっくりと溶接していく。「人よりもゆっくりと、丁寧に!」を実現している。具体的にはセンシング技術により高熱と冷却の時間を絶妙にバランスさせることで、溶接部分の合金化が可能となる。
ビードと呼ばれる溶接部分の盛り上がりが画一的できれいなのが特徴で、従来の手作業に比べるとビードの重量は約25%も軽くなるという。また、しっかりと合金化されることで、せん断強度や剥離強度が約10~25%アップするとされる。さらに、熟練工でも難しい上向きや上り、下りの溶接もロボットならなんなくこなしていくのも大きな特長だ。
また、アーク溶接によるショット溶接が可能になり、これまでのスポット溶接に比べ、剛性は同等で、打つポイントの自由度が格段に上がるという。つまり欲しいポイントに打てるようになった。その結果、モリゾウさんが乗ったGRヤリスは500ものショット溶接が施されているという。
実際のクルマに装着する工程はサブASSYによってロールケージを製作し、溶接されるボディを加工、そしてボディへの組付けと流れていき、すべてSFA工法を取り入れたロボットが行い、3日で仕上げることができる。
従来の手作業だけだと2~3週間かかっていただけに劇的に短縮できる。軽くて強度があり、しかも美しいといいことしかない。
SFA溶接ロボットの開発に携わる安川電機の柴田将太さんはドリフトが大好きなクルマ好き。自分でロールケージを組付けたことがあるだけに溶接のたいへんさはよくわかっている。それだけに、「実際の職人さんとも何度もディスカッションさせてもらった結果、ロボットにしかできない高い技術と品質を生むことができました」と1年かかった技術開発を振り返った。
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■人間のワザを磨くことにもつながるとモリゾウさんも高評価
アーク溶接新技術・SFAで作られたロールケージを装着し、約500のアークでのショット溶接が施されたGRヤリスDATの走りは激変! たっぷりのボディ剛性のおかげで、前後のばねを大幅に柔らかくすることで、足がしなやかによく動くセッティングにできるという。
モリゾウさんも「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりのなかで、価値観を変えることができる」と高評価。いっぽうで、「人にとって代わるのではなく、人が溶接のワザを磨いていくきっかけになればいい」と語る。
この効果は路面の変化が大きいラリー車のほうがより効果は大きく、全世界的に人気で納車待ちとなっているGRヤリス ラリー2の戦闘力と生産力のアップをかなえることが期待される。
GRヤリスのチーフエンジニアを務める齋藤尚彦氏は「フィンランドのユバスキュラにあるTGR-WRT(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)の本拠地でGRヤリス ラリー2は作られていますが、ロールケージの製作に時間がかかり、足を引っ張っていました。豊田章男会長からもTPS(トヨタ生産方式)を取り入れて生産性を向上させるよう指示を受けていたので、何かできないか真剣でした」と教えてくれた。
「将来的には日本のお客様にもアーク溶接で作られたロールケージを装備したGRヤリスを提供できるようにしていきたいです」とも語る。手作業に比べると性能面はもちろんだが、コストの圧縮も期待でき、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」というGRのミッションがまたひとつかなえられることになるはずだ。
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