トヨタとパナソニックが出資したプライムアースEVエナジーはトヨタ自動車の完全子会社になり2024年10月1日トヨタバッテリーに社名変更した。その狙いはBEV用バッテリー生産の強化だが、背景には豊田佐吉を源流にした物語があった
文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb・トヨタ
■プライスアースEVエナジーからトヨタバッテリーに社名変更
トヨタは昨年4月、2026年までに新型BEVを10モデル投入し、全世界で年間150万台の販売を目指すとした。さらに2026年には航続距離が2倍の次世代BEVを投入すると発表した。BEVの開発を加速するのにあわせ、トヨタのバッテリー生産の拠点となるのが静岡県湖西市にあるトヨタバッテリーの新居(あらい)工場だ。
1996年パナソニックと共同で作ったパナソニックEVエナジーは、2010年にトヨタが増資し、プライムアースEVエナジーと社名変更。そして、今年3月にはトヨタが子会社化し、トヨタバッテリーと社名が変わり、10月1日からスタートを切った。
現在この新居工場では北米で好調のカムリなどのハイブリッド用のリチウムイオン電池を生産しているが、2026年からはBEV用の電池の生産が始まる。現地を見て驚いたが、BEV用の工場はハイブリッド用に比べて敷地面積が約5倍必要なのに対し、生産量は4分の1に過ぎない。つまり、電池づくりは技術もそうだが、設備投資についてもなかなかたいへんなことがわかる。
バッテリーを自前で作る会社といえばBYDが思い浮かぶが、なぜトヨタは自前にこだわるのか?
「トヨタバッテリー株式会社・出発式」と題した記念式典に出席した豊田章男会長はその理由をこんなふうに説明した。
「トヨタは内製化してみないとたいへんさや良さがわからないからなんです」。トヨタがバッテリーを内製化するということは、言い換えればそれだけ本気だということだ。
新居工場は2024年2月から第1工場でハイブリッド用のバッテリー生産が始まりっており、年間21万台を生産。2025年9月には第2工場で同じくハイブリッド用バッテリーの生産が始まり、こちらも年間21万台の生産を予定する。
そして、2026年2月に始まるBEV用バッテリーの生産は8万台を予定するという。ちなみに気になる次世代用高性能バッテリーの生産は九州工場で2028年から始まるといい、2026年から2年間はアメリカでの生産が中心となるようだ。
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■豊田佐吉が100万円の懸賞金をかけて蓄電池開発を奨励
式典で挨拶した豊田章男会長は曽祖父の豊田佐吉の蓄電池開発のエピソードを披露した。
少し説明すると、豊田佐吉は1867年遠江国山口村(現在の静岡県湖西市)に生まれた。1885年に発令された「専売特許条例」を知り、発明で国のお役に立ち、国を豊かにしたいと考えるようになる。
1890年に東京の上野公園で開催された第3回内国勧業博覧会を見に行った23歳の佐吉青年は蒸気機関や機械設備の凄さに驚愕し、1カ月もの間、会場に通い詰めたという。もともと佐吉少年は蒸気機関の動力に着目していたが、高価な石炭が必要であり、その代わりとなる「無原動力」の発明を試みたがうまくいかなかった。
しかし、その後も動力への情熱は衰えることなく、1924年にアメリカ陸軍航空隊のダグラス機が世界で初めて世界一周を成し遂げたことに触発され、翌1925年に「飛行機に載せて、太平洋をひとっとびできること」という性能を条件に、当時のお金で100万円(現在のお金で100億円)の懸賞金をかけ、蓄電池の開発を推奨したのだという。その高性能な電池は佐吉電池と呼ばれた。
なぜ、佐吉は100年たった今でも実現できていない電池の発明を奨励したのか? 豊田章男会長はその理由について2つ考えられるという。
ひとつは資源の乏しい日本ではエネルギーの対応が重要と考え、水力で発電した電気による蓄電池に可能性を見出したのだろう。
もうひとつは「どんな困難も、知恵と工夫で必ず乗り越えられるという信念を持っていた佐吉は「考える力」の可能性を引き出したかったというものだ。
蓄電池開発に情熱を傾け、開発のため懸賞金をかけた話は発明王と呼ばれた豊田佐吉らしいエピソードだ。
豊田章男会長がなぜ豊田佐吉のエピソードを披露したかといえば、もちろん佐吉が湖西市出身ということもあるだろうが、佐吉の決して諦めずにチャレンジする精神をトヨタバッテリーには持ってほしいと考えたからに違いない。
BEVはバッテリーしだいとよく言われるが、トヨタがBEVでも勝ち抜くには、トヨタバッテリーが佐吉の情熱を継承し、バッテリーの可能性を広げていくことが求められる。
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