トヨタの伝統的なセダン「クラウン」がフルモデルチェンジをして早2年。売上は順調のようで、新型登場前である2021年は21,411台だった販売台数が、2023年はシリーズ合計で43,029台と倍以上。これには、新車効果などの要因もあるだろうが、クロスオーバー含む4つのバリエーションとしたことも功を奏しているのだろう。
一方、日産の伝統的なセダン「スカイライン」はというと、2023年は1年間でたった2,000台程度。スカイラインにもかつては「クロスオーバー」があったのだが、こちらはクラウンと違い、受け入れられることがなく、1世代でモデル廃止となってしまった。廃止となった背景には、さまざまな要因があるだろうが、クラウンクロスオーバーが成功しているいまなら、成功できるのではないだろうか。
文:吉川賢一/写真:NISSAN、INFINITI、TOYOTA
走りは一級品、ただ弱点も多かったスカイラインクロスオーバー
スカイラインクロスオーバー(J50型)は、日産の北米向け高級車チャンネル「インフィニティ」のクロスオーバーSUV「EX35」として、2007年に誕生したモデルの日本向け仕様車だ。プラットフォームなどのコンポーネントは、ほぼG35(日本名:V36型スカイライン)と共用していたが、内外装パーツはほぼ専用設計。G35のハンドリングと乗り心地のよさはそのままに、スタイリングは、セダンやクーペとSUVのクロスオーバースタイリングを採用、いまでいう「クーペSUV」だ。また、素材にこだわったインテリアは質感が非常に高く、登場当時は高く評価されていた。
ただ、当時の国内向けスカイライン(2.5L V6 2WD標準車)が税込300万円弱から購入できたのに対し、スカイラインクロスオーバーは、2WDが420万~472.5万円、4WDが447.3万~499.8万円と非常に高額。3.5Lエンジン車だけだったことで燃費もそれなりで、プロポーションのためホイールベースを50mm短縮していたことで後席や荷室はセダンより狭いなど、弱点も多かった。
当時の自動車雑誌やWEBメディアでは、「(スカイラインクロスオーバーは)性能はスカイライン譲りで抜群に良い。だがしかし…」といわれていたのを覚えている。いま思えば、派生型SUVでありながら、ベースのスカイラインよりも高額で、燃費も悪く使い勝手もよくない、となれば、買う人がいなかったのは当然だったかもしれない。こうしてスカイラインクロスオーバーは、2016年に国内販売が終了となった。
スカイラインクロスオーバーの中古車をもっと見る ≫次期スカイラインクロスオーバーはすでに示唆されている!!
スカイラインクロスオーバーが失敗した原因は、ターゲットユーザーがぼやけていたことにあると思う。既存のスカイラインユーザーに売るにしてはエントリー価格が高すぎたし、クロスオーバーSUVユーザーの乗り換えに対しては後席が狭すぎるうえに、3.5Lエンジンは高いパフォーマンスの反面、燃費が悪すぎる。全長を150mm伸ばして、2.5Lエンジンにしていた中国市場向けインフィニティEXか、もしくはEXの上級版であるFXを導入したほうが、まだよかったかもしれない。
ただ日産は、再びスカイラインクロスオーバーにチャレンジしてくるようだ。スカイラインの次期型については、EVコンセプトカーのヴィジョンQeが(次期型スカイラインに)つながることを日産は示唆しており、そのクロスオーバーSUV版、つまりは次期スカイラインクロスオーバーとなる「ヴィジョンQXe」も発表されている。
ヴィジョンQXeであれば、販売価格もボディサイズも余裕が持てるし、ターゲットユーザーも上流階級層にフォーカスすることができる。当時のスカイラインクロスオーバーの振り返りも十分にできているはずであり、今度こそ「売れるスカイラインクロスオーバー」に仕上げてくるはずだ。
クラウンが、名車の大改革は可能だと示してくれた
名車の大改革が可能であることは、トヨタのクラウンシリーズが示してくれた。決して安くはない価格でボディサイズも大きく、後輪駆動方式をFFベースの4WD仕様へと大改革しても(新型クラウンセダンはMIRAIをベースとした後輪駆動)問題はなく、ユーザーの若返りにも成功した。
まだ断片的な情報しかないヴィジョンQXeだが、数年後には、具体的な姿がみられるだろう。新生スカイライン、そして新生スカイラインクロスオーバーには大いに期待している。
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