ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はトヨタ ヤリスクロス(2020年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2021年1月26日号に掲載した記事の再録版となります)
撮影:西尾タクト
■乗る前の印象から「スキがない」
ヤリスクロスを前にして、ロッキー/ライズを買った人のことを考えた。「ヤリスは知ってたけど、ヤリスクロスなんて聞いてないよ!」という人も多いのではないだろうか。
同じトヨタ(ライズの場合)のコンパクトSUVで、価格差はざっと10万円台。ヤリスクロスは全幅が3ナンバーとなるが扱いやすい大きさで、安全装備などはライズよりも上。
「こんなクルマが出るのを知っていたら待っていたのに……」という声が聞こえてきそうだ。
新車の情報が満載の『ベストカー』を買っていればこんなことにはならなかったはずだが、ライズが登場して1年も経たないうちにヤリスクロスを発売するというメーカーのやり方も罪作りではある。
トヨタのセールスマンはライズのお客さんに「近々ヤリスクロスが出ますよ」と説明していたのだろうか?
そんなことを思ってしまうほど、ヤリスクロスはいいクルマだった。滑らかなフロント部分などは一見するとボルボっぽくて、安っぽさがまったくない。コンパクトSUVの完成形とも言えるほどだ。
まだ乗る前の印象だが非の打ちどころがない。内装の質感も高いし、後席も広々とはいえないが、充分なスペースがある。
私は必ず「車内で寝られるか」をチェックするが、後席を倒せばひとりならなんとか横になれそうなのもポイントが高い。
スキがないとはこのことで、かゆいところに手どころか「足」が届くようなもの。ヤリスクロスを見ていると、ヨガ仙人の姿が思い浮かぶほどのものだった。
全幅が1765mmというのもいい。できれば5ナンバーサイズが理想だが、今の時代、全幅は1800mm以内であれば小さい部類だろう。
とかなんとか言いながら、全体を見ていて発見したのがリアドア下に貼ってあるヤリスクロスのロゴプレート。最初は「なぜこんなところに?」と訝しく思ったものだが、妄想を膨らませているうちに、これは絶対に必要なものであるという結論に至った。
つまりこういうことである。フル装備ならヤリスクロスだって総額300万円近くする。
今の時代、300万円もやり繰りするのは大変なことだ。新型コロナウイルスで仕事も減っているなか、クルマに300万円もかけられる人がどのくらいいるのか。
奥さんや子どもたちの了承を得て、「よし、俺はヤリスクロスを買うぞ!」と決めたお父さんの心の勲章がこのプレートなのである。努力の証と言ってもいい。
クルマに乗る前、降りた時に「俺はこのクルマを買ったんだ」としみじみ思える幸せを、このプレートは提供してくれているというわけである。
こういうところもまたヤリスクロスは「かゆいところに足が届く」と思える部分なのだ。
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■唯一の弱点は「新しい提案がないこと」だ
試乗車は1.5Lのガソリン車でハイブリッドではなかったが、これでなんの不満もない。実燃費でリッター15kmは余裕で超えるし、走り自体もチープなところはまったくない。
このままホメちぎって話を終えてもいいのだが、「それでも……」と思う部分がないわけでもない。
それはクルマそのものではなく、コンパクトSUVというカテゴリーについての話。「増えすぎてちょっとつまらなくなってきてないか?」と思うのだ。
私は何年も前から大衆的なコンパクトSUVを熱望してきた。大きめのSUVは次々に出てくるが、小型サイズはなかなかなく、ないものねだりを続けてきたが、ここ数年で一気に増加。
そうなるともう「次の一手」を求めたくなってしまう。私が飽きっぽいのではなく、次のライフスタイルがもう始まっている気がするのだ。
おそらく私は普通の人よりもそのへんの感度が敏感だと思う。しかし、特別な予知能力があるわけではなく、私が感じるということは、すでに始まっているということだ。コンパクトSUVのピークはもう過ぎている。
ヤリスクロスは素晴らしいクルマだが、競合車よりもあそこがいい、ここがいいといった細かな評価にはあまり意味がなく、新たな提案があるかどうかが最も重要。しかし、すべてが揃ったヤリスクロスには唯一それだけがない。
ピークを過ぎたカテゴリーには、どんなにいい最新作が入ってきても最高には盛り上がらない。ヤリスクロスにはそんな印象がついて回る。
そこが唯一残念なところなのだ。
●テリー伊藤 今回のつぶやき
クルマ自体は文句のない出来だが、コンパクトSUVのピークはもう過ぎているように思える。次の提案を待ちたい!
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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【番外コラム】テリー伊藤の2020年に乗ったクルマBest3
2020年の1/10号から12/26号までに乗ったクルマは20台。そのベスト3を決めるのは大変だと思ったが、1位は迷うことなく決定した。レクサスLCコンバーチブルだ。
眺めているだけで元気になれて、走らせれば運転がうまくなったように感じられるのだから文句なし! コロナ禍でこんなクルマが登場してくれたことに感謝している。毎日厳しい顔で会見している感染症分科会の尾身会長にも乗ってもらい、笑顔になってほしいものだ。
2位はアウディA6だ。流行りのSUVではなく端正なワゴンで、最近のクルマらしくないのが逆にいい。ライトに縁取りをしたり、差し色を入れたりもせず、地味に本物の高級感を醸し出している。最近のSUVは大衆にすり寄っている感じがするが、A6にはそれがない。
3位はハリアー。RAV4をベースにこんなに異なるクルマを作り出すトヨタのワザは凄い。先にワイルドなRAV4を出した戦略もみごと。逆の順番ではRAV4はこれほどヒットしなかったのではないか?
●当連載2020年試乗車リスト全20台
・トヨタ カローラツーリング
・トヨタ ライズ
・マツダ3
・レンジローバー イヴォーク
・ホンダ クラリティPHEV
・フォルクスワーゲン Tクロス
・スズキ ハスラー
・三菱 デリカD:5 eyeキュート
・ホンダ フィット
・トヨタ ヤリス
・マツダ CX-30
・アウディA6
・シトロエン C5エアクロスSUV
・トヨタ ハリアー
・ホンダ アコード
・ダイハツ タフト
・キャデラック XT6
・日産 キックス
・シトロエン グランドC4スペースツアラー
・レクサス LCコンバーチブル
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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