「中古車屋=怪しい」と決めつける人は多い。そしてそう思ったら「クルマを買おう」とはなかなか思わない。しかし、そうして損するケースだってあるはずだ。中身をちゃんとしっていれば名店、そんなお店をぜひ皆様に紹介したい。今回は端から見るとかなり怪しい911専門店だ。

文&写真:小泉はつ 取材協力:オートスポーツ 

■普通の人なら怪しむ麻布のポルシェ専門店

東京タワーまでわずか数分という東麻布の一等地で30年ビジネスを続けるオートスポーツ。普通の人は…ちょっとお店に入りづらい…はず。

 東京タワーや麻布十番、麻布台ヒルズまで徒歩で僅かな距離に、1台だけ911を展示している中古車屋がある。東麻布で30年以上、911専門店を続けている「オートスポーツ」だ。

 非常に有名なお店なのでクルマ好きならその存在を知っている人は多いだろう。しかし、一般的には「一等地で1台だけ911を展示してる変なお店」にしか写らない。

 しかも気になってネットで調べると大量、かつ貴重な空冷911を大量に在庫し、横浜町田のファクトリーにストックしているから余計に怪しい。あまりクルマや中古車屋事情に詳しくない人は、躊躇するはずだ。「このお店は一体…」と。ではなぜそんなビジネスが成立するのか。単刀直入に代表である丸橋氏に尋ねてみた。

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■麻布は外車情報が集まる珍しい場所だった

「今でこそお洒落な街になってますが、自分がこの場所を借りた30年前は、本当に何もない下町だったんですよ。

映画『三丁目の夕日』に出ていた場所って言えばわかりやすいですかね? この場所は当時在日米軍の基地があったからか、外車の修理工場がとにかくたくさんあったんです。まさかこんな一等地になるなんて夢にも思ってなかったですよ」

 社長である丸橋さんは学校を卒業後、麻布に集まった修理工場のひとつでバイトをし、その後、知人のお店で中古車販売の道へ進んでいく。

「麻布という場所は、修理するクルマが集まるだけじゃなく輸入車の情報も集まる場所なんです。

 今でこそ普通に輸入車を買ったり、探したりできますが、当時は中古車情報誌なんてない時代ですから、輸入車の情報が貴重だったんです。

 それがこの場所だと「誰々があのクルマを手放す」とか「誰があれを欲しがってる」みたいな情報が流れてくる。中古車を販売するためには有利な場所だったんです。だから中古車屋としてではなく、関係者が雑談する情報収集場所としてスタートしたんですよね」

昔はクルマが小さかったので2台を並べていたそうだが、近年は1台のみを展示。ごく稀に丸橋氏が好きな911以外が並ぶこともある。

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■専門店だからこそ荒波を乗り越えられた

そこから30年、911に特化したポルシェの専門店としてキャリアを積んでいくわけだが、例えばもっと広いお店とか、土地代の安い場所に引っ越すとかは考えなかったのだろうか。

「何度も考えましたし、今でもたまに考えますね。同じ時代の同業の仲間が大きくて綺麗なショールームで中古車販売をしているのを見て羨ましいなって(笑) 一度やってみたこともあるんですが、結局別の理由で辞めたし、今ではやっぱり自分のキャラじゃないのかなって思うようになってます。30年もやってこれたのも、無理をしないで自分のペースでやりたいことをやってきたからなんだろうなって」

 911、しかも空冷に特化したポルシェの専門店ってかなり条件が厳しい気がするが…。

「いや逆ですよ。911の専門店だったから長く続けてこれたんです。人に言われてポルシェを売っているんじゃなく、自分が好きだから、自分でポルシェを選んで販売している。

 これって結構大きなことだと思うんです。

 例えば今はSUVブームですが、過去にはいろんなブームがありました。その都度、流行に乗れば利益は大きいかもしれませんが、損失も大きくなる。うちみたいなスタイルだとめちゃくちゃ儲かる訳でもない代わりに、潰れることもない。

 例えば今でこそ911は大人気ですが、例えば996の時代なんて全然人気なくて本当にどうしようかと思いましたよ(笑) でも、そういう時代もブレないでやってたおかげで日本全国に大勢のお客さんと繋がれた。これが大きいんです。

 20年前にクルマを売ったお客さんがずっと大事にしていてくれて、それがまた戻ってくるなんてこともありますから。それだけ長く同じことを続けられたのも、自分が911を好きだからですしね」

911好きではあるが、同時にクルマ好き、バイク好きでもある丸橋氏。横浜町田のファクトリーに行くと実は911の隙間に隠れてアメリカ車や日本車が並んでいる。

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■2拠点のビジネスを今後どうするつもり?

 最後の質問。今後も今の2拠点で続けるのか? 「一応、そのつもりです。麻布のほうが窓口で、横浜町田のほうが整備やストックヤードですね。

 ウチの営業スタッフには『うちは綺麗なショールームに車両を飾ってピカピカに見せるマジックはできないんだから、その分程度の良さで勝負しなくちゃだめなんだ』って言い聞かせています。

 ほら、ウチって基本は雨ざらしで露天商みたいなもんですから、車両の綺麗さでは絶対勝てないんで(笑)

 だからメンテナンスや機械的なコンディションについては徹底的にやりますし、自信があります。それで30年やってきたわけですし。

 お客様からよく『他のお店のクルマと比較して検討してもいいですか?』って言われるんですが、うちは全然そうしてもらって構わないんです。むしろ比較してもらえれば状態の良さをわかってもらえるって自信がありますからね」

空冷911だけでなく水冷911や356、ボクスターやケイマンなどポルシェ全般を扱う。しかし比率は圧倒的に空冷911が多い。
社長曰く「露天商」状態の横浜町田ファクトリー。もちろん、行くと必ずスタッフが洗車をして車両は常に綺麗な状態に。この日はかなり車両が少ない状態で、いつもはすし詰め状態で空冷911が並べられている。

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