今回、北京モーターショーでも全世界から注目を集めていたのが中国の大手スマホメーカー、「Xiaomi」(シャオミ:小米科技)が初めて作ったクルマである「SU7」だ。今回、北京市内で試乗できる貴重な機会を得たので海外メディアとして初試乗記をお届けしよう。

文、写真/ベストカーWeb編集部・渡邊龍生

■ポルシェタイカンターボSを上回る加速性能!

シャオミ初のクルマとして鳴り物入りで発表されたのがセダンのEV、SU7。発売開始から瞬く間に10万台以上を受注した

 シャオミは中国で国内シェア3、4番手となる大手メーカーで2010年に創業された。そのシャオミの手による初の市販車がSU7。ちなみに中国国内のスマホシェア1位はあのファーウェイだ。

 SU7はセダンタイプのBEVで、フロントからパッと見た印象は同じ中国メーカー、BYDのSEALを彷彿とさせる。そのボディサイズは全長4997×全幅1963×全高1455mm、ホイールベースは3000mm。Cd値は市販車最高レベルの0.195というから驚異的だ。

 ちなみにポルシェの4ドアEV、タイカンが全長4963×全幅1966×全高1381mm、ホイールベース2900mmだからほぼ同サイズとなる。

写真はトップグレードで4WDモデルのMax

 凄まじいのがそのパフォーマンス。シングルモーター搭載で後輪駆動の標準モデルが最高出力299ps、最大トルク400Nmとなり、0-100km/h加速5.28秒、満充電の航続可能距離は668km。

 一方、トップグレードでデュアルモーターを搭載する4WDの「Max」は、最高出力673ps、最大トルク838Nmを誇るこちらの。Maxの0-100km/h加速は2.78秒で、最高速は265km/h、満充電の航続可能距離は800kmをマークするというのだ。

シャオミSU7のカードキー。顔認証以外でもこのキーを前後ドア中央部に設置されたセンサーにかざすことでドアがオープン

 このSU7 Maxのパフォーマンスがどれだけとんでもないものなのかは、ポルシェタイカンターボSの0-100km/h加速2.8秒を凌ぐということからも明らか。

 そして何よりも世界中の度肝を抜いたのはその車両本体価格。標準グレードとなる後輪駆動モデルで21万5900中国元(約453万円)、トップグレードで4WDの「Max」でも29万9900中国元(約630万円)という低価格路線だからだ。

 これをライバルモデルとみられるテスラモデルS(1296万9000円)やポルシェタイカン4S(1650万円)などと比べてみても半分から3分の1近い値段設定となっているのがわかる。

■返金不可でも7万5000台超の受注!!!

水平基調のデザインとなるSU7のインテリア。意外にシンプルな形状

 そんなシャオミSU7が発売となったのは2024年3月28日から。発売開始からたった24時間で10万台もの受注があったと話題を呼んでいた。今回の北京モーターショーでは、シャオミ創業者の雷軍CEOが返金不可の受注台数がすでに7万5000台を超えたことを明らかにしている。

 ちなみにシャオミ関係者によれば、受注のメインとなっているのは20~30代の若いユーザーだといい、この7万5000台のうち約4割が女性ユーザーだったことも明かされている。

ダッシュボード下には中国車の最新トレンドとなる3連アロマが

 そのあたりを現地メディア関係者に聞いてみると、「何も不思議はありません。ある程度裕福な男性ユーザーがそのパートナーである妻に買い与えるパターンが多いからです」とのこと。

7万5000人以上と発表されたSU7の受注台数のうち約4割が女性ユーザーとは……

 また、あまりに人気となっているため中国国内ではメディア関係者もSU7の試乗車を確保することが難しく、かなりの数の中国自動車メディアが購入していることも背景にあるのだという。

 発表直後にSU7の広報車を中国の自動車メディアが1日レンタルすると、当初は1万中国元(約21万円)が必要なほど人気が過熱しており、現在は3000~4000中国元まで下がってきているのだとか。

■シャオミ最新の車載OS搭載

シャオミのスマホともちろん連動。ボタンひとつでSU7のディスプレイに操作画面が移行する

 そんな「シャオミSU7狂想曲」の真っただ中に、幸運にもその広報車に海外メディアとしては初めてとなるSU7に試乗できる機会を得た。前置きがめっちゃ長くなってしまったが、試乗レポートをお届けしたい。

 シャオミの雷軍CEOはこのSU7のライバル車をポルシェタイカンだとしているが、SU7に設定されているボディカラー全9色はカラー名こそポルシェと違えど、すべてポルシェのモデルカラーにインスパイアされたものだという。

ヨーロピアンテイストを感じさせるシャオミSU7のエクステリアデザイン

 まず、エクステリアデザインを見ると、どことなく欧州車風の雰囲気を感じさせるのだが、かつてBMWのデザイナーだったクリス・バングル氏が手がけているということで納得。

 続いてインテリアをチェックすると、中央には中国車の常とも言える大型でワイドな16.1インチセンターディスプレイが鎮座する。基本的に物理スイッチは極力排除されているため、アプリによって車内での操作を行う。

縦型のトラディショナルな物理スイッチも一部で残してはいるSU7

 また、SU7を購入すると自動的にシャオミのスマホがもれなくついてくる。このスマホを完全にSU7のワイドディスプレイに連動させることも可能で、ペアリングさせると以後のスマホの操作はワイドディスプレイ上で行えるのだけど、このあたりは同じくスマホメーカーのファーウェイのモデルを踏襲する。

ルーフ先端中央部にはRiDARを設置する

 ルーフにはRiDARを設置し、11機の高精細高解像度カメラのほか、3基のミリ波レーダーや12機の超音波レーダーなどで構成される最新鋭ADAS「シャオミパイロット」も完備(自動運転はレベル2相当を提供)。車載OSには最新版の「Hyper OS」を搭載している。

センターディスプレイに比べると小ぶりなメーターディスプレイ

 ステアリングのなかに設置されるメーターパネルは7.1インチとセンターディスプレイと比べてしまうと小さいが、表示される内容はドライブに必要最小限といった感じだ。また、ドライバーの顔を認証するカメラも左右両側ドアの前後中間に配置されているのがユニーク。

■エアサスペンションが威力抜群!

SU7 Maxはエアサスペンションを装着する

 試乗したモデルは4WDでトップグレードのMax。まずは慎重にアクセルを踏み込んだのだが、拍子抜けするほどその乗り心地はいい。この手のハイパワーEVにありがちな低速時のゴツゴツ感もさほど感じられない。

 それもそのはず、このMaxグレードには連続可変ダンパーを備えたエアサスペンションが装備されていたからだ。車重は2205kgとかなりの重量となるSU7だが、段差を乗り越える際にもエアサスが威力を発揮。実にしなやかに路面からの入力をいなしてくれる。

予想を超えるSU7の走りのよさに思わず表情がほころんでしまった

 搭載するバッテリーは101kWhのCATL製三元系リチウムイオンバッテリーを採用しているのだが、673psものパワーを誇るMaxの加速力はその重さを微塵も感じさせないほどの強力さ。

 続いてステアリング右側に設置された「DRIVE MODE」スイッチを押し、20秒間フルパワーを発揮するブーストモードを体験。ガソリン車では味わえないような、めくるめく圧倒的な加速力はまさに“麻薬”のようなものだと思えた(もちろん、やったことありませんけどね)。

ブレンボ製ブレーキを採用していたSU7 Maxの試乗車

 また、試乗車には通常グレードには装備されないブレンボ製ブレーキシステムが装備されていたのだが、ブレンボをもってしてもブーストモード時のSU7が発生する強大なモーターパワーに対応するには少々プアだとも感じた。

ステアリング右下のDRIVE MODEスイッチを押すことでさまざまなシーンに合わせたモードを選択可能

 ただし、それ以外は価格設定を考えると「これ以上、何を求めるのか?」と言っていいくらい、高レベルにすべてがまとまっていた印象だった。ボディはカッチリしているし、エアサスを奢った乗り味も特に不満な点はなし。

 かつてポルシェ初のEVであるタイカンの初期モデルに試乗したことがあったのだが、その時以上のインパクトが正直このSU7には間違いなくあった。

最上級グレードのMaxでも価格は630万円。しかし、その価格でこんなクルマを作って販売してしまうとは……

 しかしまあ、こんなクルマが中国国内で630万円(Maxグレード)で販売されることに慄然とさせられた。「シャオミSU7、恐るべし」というのが試乗後の偽らざる心情だ。

 今後、さらなる高性能バッテリーを積んだV8と称されるモデルも追加されることが決まっているシャオミSU7だが、いやマジでこんなクルマがバンバン出てきたらクルマ業界の勢力図自体がまるっきり変わってしまいそうで怖い……!

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