よく電車には普通や快速、急行、特急など、列車の性質を「区分」と呼んで種類に分けているが、実はバスにも似たようなシステムがある。

文・写真:中山修一
(快速バスの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■バスにも「快速」がある

快速バスが走る地域の一つが熊本。複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto」の中に桜町バスターミナルがある

 電車と同じく、急行や特急といった色々な種類が見られるバスの区分のうち、今回は「快速」に注目してみよう。

 「快速」の区分が付いたバスは、どこにでも走っているワケではなさそうだが、全国各地でポツポツと見かける。相対的には少数派・ちょっと珍しい存在かもしれない。

 ではこの快速バスというのは、どんなバスなのか。ちょいと掘り下げる気が起きてシャベルを入れてみると、すぐ岩盤がぶち当たってくるのに気付く。

 電車で言うところの快速列車の場合、普通列車(鈍行)より速い、という点は大体共通しているにせよ、JRや各私鉄によって立ち位置が微妙に違うので、「これ!!」といった基準がない。

 バスの快速また電車と似たような感じで、快速にどのような性質を持たせているかは、バス会社によってバラバラな印象。

 しかも統計が取れるほどの確たるデータが揃っていないというか、今まで考えたことすらなかったので、まず取っ掛かりの部分を掴むには、一つずつピンポイントに確認していくしかなさそうだ。

■熊本県を走る快速バス

 どこの快速バスをサンプルに持ち出すか……何事にも経験とはよく言ったもので、これは現地へ行って乗ったことのあるものを選ぶのが最も入りやすい。

 直近で利用した中、快速に当てはまるバスが1本あった。九州の熊本県を走る「快速あまくさ号」がそれだ。

快速あまくさ号が発着している桜町バスターミナル5番乗り場

 「快速あまくさ号」は愛称の通り、熊本市内のバスの拠点になっている桜町バスターミナルと、同じ県内の天草諸島の主島(上島と下島)とを結ぶ路線だ。

 運行を担当するのが熊本県のバス事業者である産交バス。同社による快速バスにどのような特徴が見られるか、さっそくチェックしていこう。

桜町バスターミナルに入ってきた快速あまくさ号

■見た目は高速バスだけど

 まず桜町バスターミナルの、あまくさ号が発着している乗り場の案内表示に目をやると、「高速バス」の下に「快速バス」と書かれていて、高速バスとは区別を付けているのが明確にわかる。

 出発時間が近づき、プラットホームにやってきたのは日野セレガ。ハイデッカータイプの大型バス車両で、高速バスに使われるのとほぼ同じ、ごく一般的な高速車の見た目をしている。

快速あまくさ号には専用車が使われている

 高速バスの形をしているけれども高速バスとは言わない、そんなあたりが興味関心を誘う。

 乗車する前に、ちょっと普通の高速バスとは違うなと思える要素がある。多くの高速バスは利用にあたって予約制を採っているのに対して、「快速あまくさ号」は乗り場に並んだ順に乗っていく定員制であるところ。

 車内は2-2配列のリクライニングシートが並ぶ、高速バスや観光バスとまったく同じ内装で、バス旅の中で特にゆったり移動できる居住空間が用意されていた。

■あの道を通らない=絶景?

 桜町バスターミナルを出発して市街地を後にすると、バスは有明海の海岸線を沿うように敷かれている国道57号線に向けてコマを進める。

熊本行きの快速あまくさ号とすれ違う

 その後国道266号→324号線と推移していくなか、薄々と感づいてくるのが、一向に高速道路に乗る気配を見せない点。

 2024年秋現在のところ、そもそも天草方面に向かう高速道路自体がないため、「快速あまくさ号」は全区間一般道を通る路線バスということになる。

 途中でインターチェンジのようなものがチラッ見えるものの、こちらは高速道路とはまた種類の違うバイパスの一種のようで、しかもバスはそこを経由せず、あくまで下道だけを進むところがポイント。

天草五橋の一つ・天門橋を通過!! 隣に見えるのが天城橋

 地形に逆らわない一般道を経由しつつ、島と島をつなぐ高い場所に掛かる橋をいくつか渡るのもあって、車窓から見える景色の素晴らしさは折り紙付き。絶景オーシャンビュー路線の一つに数えられること間違いナシだ。

バスの車窓に、有明海らしさ溢れる干潟の先に島原半島が鎮座する景色が広がる

■快速バスを名乗る要素

 バスは途中でトイレ休憩を1回挟み、終点の本渡(ほんど)バスセンターまで85kmほどの距離を2時間40分くらいで走破した。運賃は2,500円。

その日の利用者数によってトイレ休憩の場所が変わる模様。この日は「リゾラテラス天草」バス停だった

 鉄道の快速列車には、例えばA・B・C・D・E駅の区間を通る際、B駅とD駅を飛ばして進む、といった特性がある。

 では「快速あまくさ号」の場合、同じ区間を通る他の一般路線バスがあって、その一般路線バスに比べると停車ポイントが少ないところが、快速を名乗る条件に数えられるのでは? と思えてくる。

終点の本渡バスセンターに快速あまくさ号が到着

 そこでバスの路線図を見てみると、全区間を並行しているわけではなさそうだが、確かに「快速あまくさ号」と同じ区間を部分的に通る一般路線バスが何系統かあった。

 一般路線バスが全ての停留所で停まるのに対して、あまくさ号は該当区間にある各停留所を飛ばしつつ、一部にしか停まらないのが路線図から見て取れる。

 産交バスが運行しているものに関しては、「定員制」、「高速道路を通らない」、「並行一般路線バスに対して停車ポイントが少ない」が、快速を名乗る条件になっていると言えそう。

 他にもう1路線、産交バスには快速があり、そちらも条件はほぼ同じに見える。いずれもハイデッカー車が使われているため、使われている車両の種類も条件に含めて良いかもしれない。

「快速あまくさ号」も通る、終点近くの川のように見える場所。実はこれ、天草の上島と下島を隔てる立派な海峡なのだ

 ちなみに、「快速あまくさ号」に並行して一般路線バスが通っている、ということは、熊本〜天草を全部普通の路線バスでも行けるの? とか、三角までJR三角線を使ってバスと組み合わせて移動したい、のような期待を持ちたくなる。

 果たして行けるかどうか……これが天草諸島寄りの一部区間の路線バスが朝夕しかなく、日中に移動するなら「快速あまくさ号」をほぼ確実に頼ることになるので、結果が同じなら乗り換えナシで最初から乗っておくのが断然ラクだ。

本渡瀬戸海峡に掛かる、船が近づくと桁が昇降する歩道橋がかっこいい

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