ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。第37回となる今回は、今年4月から9月までの中間決算が営業利益/最終利益ともに前年比90%超の減益となった日産について。なぜここまで落ち込んでしまったのか? 問題の「核」を読み解く。

※本稿は2024年11月のものです
文:中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)/写真:日産 ほか
初出:『ベストカー』2024年12月26日号

■中間決算で営業利益/最終利益ともに前年比90%超の減益となった日産

国内メーカー各社の2024/9期上半期営業利益実績と2025/3期通期営業利益計画

 自動車業界の業績が転換点に差しかかっています。2024年度の上半期決算において、完成車7社合計の本業の儲けを示す営業利益は、前年比6%減の3兆9905億円に下落しました。

 背景には、米国での競争激化に伴うインセンティブ(販売奨励金)の増加があります。トヨタは日野自動車の北米認証関連費用に2300億円、ホンダは品質費用に900億円と米国EV販売に対して500億円(通年では1000億円)もの追加インセンティブを計上しました。

 日産自動車は大幅な下方修正を発表したに留まらず、今年3月に発表したばかりの中期経営計画を取り下げ、9000人のリストラを含めた構造改革を発表する大波乱の決算となりました。

 上半期を1Q(4~6月期)と2Q(7~9月期)に分けてみると、1Qは7社合計で前年比13%の増益でしたが、2Qは19%の減益に転じています。8四半期連続で増益を続けてきましたが、2Qは重大な転換点となったわけです。

 最大の要因はインセンティブ、いわゆる値引きの拡大です。

 米国市場は決して不振ではなく、底堅い経済の下で順調に推移しています。ただし、コロナ禍での供給不足で枯渇した在庫水準はすでに正常化し、高止まりしてきた価格は急速に低下しています。

 この大打撃を受けているのが日産です。

米国インセンティブ支出(台あたり)※出所:オートデータを基に筆者作成

 上半期の営業利益は前年比90%減の329億円に落ち込み、通期の営業利益予想は5000億円から1500億円へ下方修正したのです。中間配当は無配転落、期末配当もリストラ費用が精査できないことを理由に未定としています。当然、期末も無配となる公算大です。

 日産を苦しめているのが販売台数不振とインセンティブの増加です。インセンティブ支出は1Qに1300億円、2Qに700億円、上半期合計で2000億円もの減益要因となり、同社の営業利益を吹き飛ばす結果となっています。

 なぜ同社がこれほどインセンティブに苦しむのか。人気のハイブリッド車が米国にないことは確かな一因ですが、ローグ/エクストレイルを中心にコア市場で全般的に販売が苦戦し、世界各地域でインセンティブの増加に苦しんでいます。

 背景は日産が自らの実力を読み誤った感が強いのです。

 コロナ禍を受けての半導体不足で、日産は生産供給に最も苦戦したメーカーでした。販売台数はコロナ禍前の2019年度の493万台から2023年度には330万台に激減しました。

 需給がタイト化した市場では販売価格は上昇し、インセンティブを多く使わずに販売できていました。日産はこれを自らの実力と受け止めてしまったと思われます。

 しかし、価格が下落に転じた市場の中で、日産のインセンティブは市場平均を大きく超えて上昇しています。実力ではなく、追い風の参考記録でしかなかったわけです。

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■身の丈を超えた拡大を目指した

コロナ禍での追い風記録を過信していたのか。市場が正常化して急激に業績が落ちた日産

 2024年度から新中期経営計画「The Arc(橋渡し)」が発動しました。

 3年で100万台の販売回復を目指し、初年度となる2024年度は弾みをつけるべく26万台増加の370万台を計画に置きました。しかし、計画どおりに販売は進みません。在庫は溜まり、値下げを繰り返すうちに計画は破綻に向かいます。

 負のサイクルは突然起こったことではありません。2023年度下半期にはすでに悪化しており、投資家向け説明会の場で「本当に大丈夫なのか?」と何度も質疑が交わされました。

 「我々の商品と技術には競争力がある。販売は巻き返せる」と根拠に乏しい自信を日産は示し続けてきたのです。

 その最中にThe Arcの発表があり、「これは我々の基礎台数だ。3年間で100万台を増販し、2030年の長期ビジョンへ架け橋(Arc)としたい」と内田誠社長は強弁しました。身の丈を越えた拡大を目指したThe Arcは傷を深くしました。現在の日産の混乱は「人災」といって過言ではないのです。

 日産は再びターンアラウンド(再建)に取り組むこととなります。

 生産能力20%削減(100万台)、人員9000人削減(全体の約8%)の構造改革を2026年度までに実施することを表明しました。

 この結果、固定費を3000億円削減、変動費を1000億円削減し、生産350万台でも健全なレベルのキャッシュフローと配当を実現できる体質を構築するとしました。

 平たく言えば、生産台数が現状のままでも、営業利益率5%を生み出し、配当を提供できる企業体質を目指すということです。

 恐らく構造改革費用2000億円、資産減損3000億円レベルを計上する公算が高いと筆者は見ており、大幅な最終赤字決算を迎えることは自明です。

 その成果で、3000億円の固定費を削減する計画です。変動費1000億円は主力6モデルで平均2%の部品コストを削減する考えのようです。サプライヤーは苦難が待ち受けているのです。

 生き残るためには避けて通れない痛みです。しかし、日産の経営陣は責任問題と会社がどこを目指していくのかを明確にする必要があります。ルノーから独立した後の2024年の中計は日産の実力を見定め、同社が目指す事業を合理的に再設計する最良のチャンスでした。

 しかし、経営判断は真逆の拡大均衡に向かったのです。判断を誤った経営陣への指名責任、執行責任、監査責任を問わずしてこの痛みを受け入れることは、日産社員もステークホルダーも容易でないことでしょう。

 25年前、瀕死の日産を再生させた剛腕ゴーンは、自らの挑戦を「日産リバイバル(復活)プラン」と表現し、見事に復活させました。

 原発巣を発見できないなかで実施する今回の構造改革は、単なる延命措置にしか見えません。今後「日産サバイバル(延命)プラン」とでも呼ばれるのでしょうか。

トヨタのEV戦争

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