環境にやさしく、ガソリン車などと比べてランニングコストも安いとされるEV=電気自動車。いいことずくめに思えるものの、それが自分に合っているかはまた別の話。今、EVを買ってもOKな人、逆に、ちょい待ちにしたほうがいい人とは?

文/井澤利昭、写真/スバル、日産、三菱、Tesla, Inc.、写真AC

■今後も着実に普及が進んでいくEV

 近頃は街中で見かけることも珍しくなく、その普及率もここ数年、着実に増えてきているEV。

 日本自動車販売協会連合会が発表している乗用車の新車販売シェアを見ても、2020年には全体の0.59%(約1万5000台)であったEVの普及率が、2023年には1.66%(約4万4000台)と3倍近くに達しているという。

 環境に害を与える排ガスを出すことなく、自宅でも充電できるEVならではのメリットに加え、かつてはデメリットとされた走行距離の短さや充電インフラの心配といった面も急速に改善が進んできているのがその理由だろう。

 また、低価格な車種の登場や、購入時の補助金・税制面での優遇など、経済的な視点からもEVは魅力的であることは間違いなく、「どうせクルマを買うなら次はEVで……」と考える人もけっこう多いのではないだろうか?

 では、これからクルマを購入しようとしているすべての人がEVを選択することで幸せになれるかといえば、そうとも言い切れないのだ。

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■勝手気ままな長旅の足としてはEVは不向き!?

充電設備を備えるコンビニが増えているが、地方ではまだまだといったところ。事前に充電可能なスポットを調べておかないと不安というのは、アドリブ旅派にはかなり面倒

 まず、EVに向いていないのは、毎週末クルマで長距離を移動する、ロングドライブを楽しんでいる人だ。

 EVの航続距離は、バッテリーの容量拡大をはじめとする技術の向上により、登場した当初と比較して格段に延びた。

 1回の充電で走ることができる距離は、輸入車と比較して航続距離が短いとされる国産EVでも、日産 アリア(B9)の640kmやレクサス RZ RZ300e version Lの599Km、トヨタ bZ4X(G・FWD)とスバル ソルテラ ET-SS(FWD)の567kmと、500kmを超えるものも出てきており、長距離ドライブにも十分に対応できるようになってきている。

 とはいえ、この航続距離は、あくまでカタログ上の数値だ。

 運転の仕方やエアコンなど車内での電力消費量に加え、気象条件や道路の状態などさまざまな外的要因により、EVの航続距離は大きく変化し、カタログ数値より短くなってしまうのが一般的。

 実際の航続距離は、一説によるとカタログ数値の7割程度ともいわれており、こうなると出先での充電を考えなくてはならなくなる。

 EVの充電インフラの整備は着実に進んではいるものの、地方の山間部などはまだまだ十分とはいえないのが現状。仮に設置されていたとしても、休日の観光地などでは充電待ちとなる可能性も十分ありうる。

 こうなると目的地やそこまでのルート上に充電施設があるかを前もって調べておく必要があり、“気の向くまま”クルマを走らせるというわけにもいかなくなってしまう。

 経済産業省が示す指針では、現状で2万口ほどといわれるEV向けの充電施設の数を、2030年までに30万口にまで増やすとしてしているだけに、その施策が予定通り進めば、EVでの長距離ドライブもより安心できるものになる。

 行き先を決めないアドリブ旅が趣味という人は、EV購入をもう少し待ったほうがいいかもしれない。

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■10年、20年と長く乗るには、不透明な部分があるEVの寿命

EVを購入する際にやはり心配になるのがバッテリーの寿命。とはいえ、ここ最近のモデルでは、初期のEVにあった数年でバッテリーはダメになるということはほとんどなく、多くのメーカーで8年または16万kmといったバッテリーの保証サービスも用意されている(画像は日産サクラのバッテリー)

 クルマを趣味としている人にとっては、愛車はただの道具以上の愛すべき存在であり、できるだけ長く乗りたいと思うもの。

 ガソリン車であれば、昭和の時代から何十年も走り続けているであろう懐かしいクルマを今なお街中で目にすることがあるが、EVの場合はそうはいかないようだ。

 EVの寿命において、一番のウイークポイントとなるのが駆動用のバッテリーであることは誰もが知るところ。

 とはいえ初期のEVに見られた急激なバッテリーの劣化などは、一部の不良を除いてほぼ見られなくなり、ここ最近のモデルなら新車から3~5年程度であれば、その性能にはまったく問題はないとされている。

 これを裏づけるように、メーカーによるバッテリーの保証も充実しており、例えば日産では8年または16万Km、レクサスやトヨタでは10年または20万Km(メーカー保証:8年16万km + BEVバッテリーサポートプラス:2年4万km)と、8年から10年程度は安心して乗ることができるわけだ。

 いっぽうで、誕生してからまだ十数年ほどの歴史しかないEVでは、その本当の寿命がはっきりしないのも事実。

 とはいえ15年、20年と乗り続けるとなればバッテリーの劣化は免れず、ガソリン車のように長く乗り続けるのは難しいだろう。

 また、日進月歩で進化するEVだけに、その高性能化はガソリン車を上回るペースで進むことは間違いない。

 リセールバリューが落ちない短いスパンで、という割り切った乗り方ができないクルマ好きには、EVはやはり向いていないといえるだろう。

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■経済的に余裕のない人にはちょっと厳しいかも!?

 軽自動車やコンパクトカーといった、比較的低価格で購入できるモデルの登場により、より身近になった感のEVではあるものの、ガソリン車と比較するとまだまだ高価なのは確か。

 EVとガソリン車では同じメーカーであっても仕様やグレードが異なるため単純な比較はできないものの、似たような条件の車種であれば、EVのほうが1.5~2倍程度車両価格が高く設定されている。

 加えて自宅での充電設備をEVの購入と合わせて整えるとなれば、それなりの出費を考慮する必要もある。

 購入時の補助金や税制面での優遇、燃料費である電気代といったランニングコストの安さを考えればそれほどの差はないという意見はあるものの、それを回収するまでにはそれなりの時間や走行距離が必要なのも事実だ。

 また、低価格を売りにしているEVの多くは1回の充電で走ることができる距離が短いため、毎日の通勤や買い物といった近場を短時間で行き来するには向いているものの、先ほども触れたとおり長距離の移動には不向き。

 長距離を移動するためのクルマが別にあり、あくまでセカンドカーとして使うという2台持ちや3台持ちができる環境にある人にはこうした低価格EVいいかもしれないが、1台だけですべてをまかないたいという場合には少々厳しいといわざるを得ない。

 これがガソリン車であれば、仮に価格が安い軽自動車であっても、乗り心地の悪さやパワー不足に目をつむれば、1台で近距離から長距離まで、ある程度の用途をまかなうことができる。

 以前に比べれば身近になったEVではあるが、経済的な余裕のない庶民にまで手に届くものになるには、もう少し時間がかかりそうだ。

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■ガソリン車にまだまだ愛着があるなら、乗り続けるべし

 そしてなんといっても、ガソリン車ならではの排気音や振動、ニオイなどがたまらないという昔からのクルマ好きの人にとっては、EVは必要のないものだろう。

 家族がEVを推してくる! という人もいるかもしれないが、その圧に負け、毎日を自分の好みとは違うクルマと過ごすことになるのは、やはり空しいものだ。

 いっぽうで、経済産業省では、国内で新車販売される乗用車を2035年までに、ハイブリットEV(HEV)やFCEVを含めて100%EV化を実現するという目標を掲げ、東京都ではそれに先んじた2030年に脱ガソリン車を目指していることもあり、今後もEV化の流れが進んでいくことは間違いない。

 国内でのガソリン車の利用を含む廃止を掲げる「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、2050年に自動車の生産、利用、廃棄を通じた CO2ゼロを目指すとしており、現状ではこのタイミングでガソリン車の利用自体も禁止されると考えられる。

 とはいえ、裏を返せばまだ四半世紀はガソリン車に乗ることができるとも考えられるわけで、この目標に現実味があるのはまだまだ不透明であることも間違いない。

 事実、2024年の1~9月における普通乗用車の販売シェアは1.32%と、ここまでは前年を下回っており、国内でのEVの普及も順調とは言い難く、脱ガソリンを大々的に掲げてきた欧米諸国も、ここ最近はトーンダウンし、目標を修正する可能性も出てきているからだ。

 EVを取り巻く状況は、その高性能化や技術革新によって大きく変わってくる。

 ガソリン車に未練があるのであれば、無理に流行を追わず、自分に合ったEVの「買い時」をもう少し待つのも賢い選択といえるだろう。

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