トヨタの人気ミドルクラスミニバンといえば、「ノア」そして「ヴォクシー」だが、先代には「エスクァイア」というモデルも存在した。ノアやヴォクシーよりも煌びやかなエクステリアが与えられていたエスクァイアは、「プチ・アルファード」ともいわれていたが、残念ながらたった一世代で生産終了に。なぜエスクァイアは、生産終了となってしまったのだろうか。

文:吉川賢一/写真:トヨタ

「高級路線」がウリだったエスクァイア

 先代のノア/ヴォクシーが登場したのは、2014年1月のこと。エスクァイアはその9か月後となる2014年10月に登場した。正統派ミニバンの王道を狙ったノアと、チョイ悪お父さん好みの厳つさを狙ったヴォクシーに対し、エスクァイアは大人っぽく高級な存在感を狙ったモデルとして登場した。

 ガソリン車とハイブリッド車があることや、ちょうどよいボディサイズ、使い勝手のよいインテリアなどは、3兄弟で全く同じ。しかしながら、そのエクステリアから受ける印象は全く異なり、ノア/ヴォクには存在したエアロ仕様は設定がなかったものの、エスクァイアは、メッキ面積が広めのフロントフェイスによって、ワンランク上の高級ミニバンを上手く表現していた。そのギラギラな雰囲気から、「プチ・アルファード」ともいわれていた。

2017年9月に後期モデルにマイナーチェンジしたエスクァイア(80系)。写真はエスクァイア後期型「Giプレミアムパッケージ」
エスクァイアのインテリア。内装のデザインはノアヴォクと共通。ブラウンの本革シートは高級感があって大人の雰囲気にあふれていた
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高級感でもコスパでも、アルファードに敵わなかった

 しかしながら、2022年1月にノア/ヴォクシーがモデルチェンジとなった一方で、エスクァイアはモデルチェンジとならず、生産が終了に。2020年5月にトヨタの販売店が統合されたことで、車種統一を図った当時の事情もあったが、先々代のころから根強いファンがいたノア/ヴォクに対し、エスクァイアの人気がさほどでもなかったことが影響したようだ。

 大人の高級ミニバンを狙うならば、よりゴージャスなアルファード/ヴェルファイアがある。しかもアルファード/ヴェルファイアは4~5年乗っても査定価格が落ちにくいなど、残価率が高いために高額車でありながらコスパに優れる。むしろエスクァイアに乗るよりもアルファードのほうがコスパがいいくらいだ。個性であるはずの高級感でも、コスパでもアルファードに敵わなかったことで、エスクァイアを選ぶ理由が乏しく、そうしたこともモデル廃止となった要因となったのだろう。

使い勝手のよいインテリアは、素材にもこだわってつくられていた

しかしながら、いま中古車市場ではエスクァイアが大人気

 しかしながら、エスクァイアはいま、中古車市場でひっぱりだこ状態。某中古車サイトの相場をチェックすると、12月初旬時点で、ガソリン車の2019年式は215~337万円、2020年式は190~336万円、2021年式は269~340万円。ハイブリッド車は、2019年式は243~373万円、2020年式は243~383万円、2021年式は311~385万円。販売終了から5年が経つのに300万円超えを記録しているのだ。

 実はエスクァイアはいま、南アジアのバングラデシュで爆発的人気となっており、中古車輸出に詳しい自動車買い取り専門店の担当者によると、エスクァイアの煌びやかなフロントマスクが派手なクルマを好むバングラデシュの人の間で非常に人気となっているとのこと。なかでもハイブリッド車の需要が高く、中古車業者向けオークションで落札されたエスクァイアハイブリッドのほとんどが、バングラデシュへと輸出されているという。

 バングラデシュには、「製造5年落ちまで」という中古車輸入に関する規制があるが、エスクァイアの製造は2021年までなので、このバングラデシュの規制にかかるまであと2年。この「限定品」ぶりも、バングラデシュでのエスクァイア人気に拍車をかけているようだ。

エスクァイアのモデリスタからエアロ仕様。この手のエアロパーツ付きカスタムカーは、さらに高値で落札されている。こうした珍しい仕様は、海外から強い需要があるという

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 「プチ・アルファード」と言われながらも、兄弟車が華々しくフルモデルチェンジをした一方で、ひっそりと姿を消したエスクァイア。モデル廃止とならずに、ノア/ヴォク同様にフルモデルチェンジをしていたら、残価率の高さから、3兄弟でもっとも人気のあるモデルに成長していたかもしれない。

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