今や国内の新車販売数の約99%がAT車(オートマチックトランスミッション)と言われ、世界一のAT車大国となった日本。AT搭載の愛車をトラブルなく維持するために「やってはいけないこと」を解説する。

文/山口卓也、写真/トヨタ、写真AC

■国内での日常の使い勝手はAT車に軍配!

トヨタ初のAT「トヨグライド」を搭載したトヨペット・マスター。初代「クラウン(RS型)」と同時に発売したタクシー向けモデルだった

 1957年、日本初のトルクコンバーター(流体変速機)を採用したオートマチックトランスミッション搭載の“ミカサ”が登場。その翌年にはトヨタがトルコン付き2速セミオートマ「トヨグライド」を搭載したトヨペット・マスターラインを発表。

 1960年代に入ると日本国内でもAT車の普及が一気に進み、1985年に約50%、今では新車販売数の約99%がAT車となった。

 登場から60年以上の間にAT車はさらに進化を遂げ、“自動変速”を意味するAT式ではトルクコンバーター+ギヤ式多段変速のステップAT(一般的にAT車と言われる)が登場。

 加えて、ギヤを使わず一般的には金属ベルト+プーリーを使った無段変速のCVT(コンティニューアスリーバリアブルトランスミッション)も登場。

 さらにDCT(デュアルクラッチトランスミッション)やAMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)、RMT(ロボタイズマニュアルトランスミッション)などもあり、今やMT車(マニュアルトランスミッション)よりも燃費が良く速いAT車も多くなった。

 日本におけるAT車比率が世界一となった背景には、日本ならではの道路事情があるだろう。

 特に都心部では渋滞が日常茶飯事で、交差点も信号機だらけ。「運転が楽しい!」と言われる手動変速のMT車では苦痛だらけで、自動変速のAT車のほうが圧倒的に使い勝手がいいのも確かだ。

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■NG1 クルマが完全に止まっていない時のD→RやR→Dは壊れる!?

 国内での使い勝手の良いAT車、「クルマが完全に止まっていない時にD→RやR→Dにシフトすると壊れる!」と昔から言われている。果たして今もそうなのか?

 さすがにかなりの速度でD→RやR→Dにシフトする人はいないと思うが、結論から言うと、“完全に”止まってない状態でシフトしても簡単に壊れたりはしない。

 近年のAT車はそんなにヤワな作りではないし、ある一定以上の速度ではシフトしないように設計されているのであまり神経質にならなくていい。

 そりゃそうだ、メーカーだってそんな“せっかちユーザー”がいることなんて十分把握している。

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●すべてのAT車が「少し動いていても大丈夫!」とは言い切れない

 ただし、我が家にあるクラッチ操作のいらない5速のAT車“5AGS(オートギヤシフト)”のようなクルマの場合は異なる。

 完全に止まっていないのにD→Rとシフトすると「ギャギャギャッ!」といったギヤがうまく噛み合っていない恐ろしい異音がするので、音からも「こりゃNGだな」とわかる。

 オートギヤシフトとは、スズキが開発した自動車用の有段自動変速機のこと。5速MTをベースにしたトランスミッションで、MTの進化型として注目されたシステムだ。

 よって、AT車のなかでもAGSなどの場合は“完全に停止してからシフト”が大前提。

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■NG2 駐車時はパーキングブレーキ+Pレンジシフトが必須!

パーキングブレーキの併用は必須。特に、クルマから離れるような時はPレンジのみというのは絶対にNG。坂道などに停車する時にパーキングブレーキを使用しないと危険なだけではなく、ギヤに負担をかけて故障の原因になることもある

 駐車時は「フットブレーキをかけてクルマを停止させる→パーキングブレーキを操作→Pレンジにシフト→エンジン停止させる」のが正しい操作。

 でもなかには、フットブレーキ→Pレンジにシフト→パーキングブレーキと操作する人もいるが、これは間違い。愛車の取り扱い説明書をよ〜く読んでいただきたい。

 さらに、Pレンジへのシフトのみでクルマを離れる人もいるがこれは絶対NG。

 Pレンジはトランスミッションの歯車にツメ状の“パーキングロックポール”というパーツを引っ掛けて歯車が動かないようにしているだけ。そのため、強い衝撃や急勾配などではこのロックが外れてクルマが動き出す可能性もある。

 だから、駐車時はパーキングブレーキ+Pレンジは必須。

●ブレーキを使わないと違法となる可能性が

 道路交通法 第71条には、運転者がクルマを離れる時の義務として「車両等を離れる時は、その原動機を止め、完全にブレーキをかける等当該車両等が停止の状態を保つため必要な措置を講ずること」とあり、これに違反して人を死傷させると7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金となる。

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■NG3 下り坂でのNシフトはダメ!

 ニュートラルを意味するNレンジだが、「AT車もMT車も下り坂ではニュートラルのほうが燃費がいい」という人がいる。

 しかし、AT車もMT車も下り坂でギヤをシフトした状態でアクセルオフにすると燃料を噴射しない状態となる。燃料を使っていない状態だ。

 対してNレンジではアイドリング回転数を維持するため、アイドリング回転数を維持するための燃料は消費してしまう。

 なによりも、エンジンブレーキが使えずフットブレーキで減速しないといけないので、フェード現象やベーパーロック現象による事故のリスクが飛躍的に高まるので絶対NG!

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■NG4 ギヤが入る前にアクセルオン!

 これは、急発進につながる行為だからNGとしたが、同じ“急発進”でも例えばDレンジに入れて左足ブレーキで停止+右足アクセルでアクセルペダルを踏み……→ブレーキペダルから左足を急に離すことで急発進する行為は、公道上では危険が伴う行為のためNGとしてほしいが、競技では行う行為。

 しかし、例えば信号待ちでNレンジにシフトしている人がとっさに発進する時、Nレンジにシフトしていることを忘れてしまい、アクセルオンで回転数が上がっているのにシフトレバーを動かしてDレンジにシフト→急発進……なんてことも十分考えられる。

 Nレンジに入れて止まっているクルマのエンジン回転を上げ、発進時にギヤを強引にDにシフト……なんていう急発進の仕方は危険なうえにミッションに大きなダメージを与えてしまう行為。

 電子制御の介入する現代のクルマではできないものもあるが、ひと昔前のAT車では可能な行為でもある。よって、このNG行為と合わせて“信号待ちではDレンジ”も守りたい。

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