シートを広げ、それぞれが持ち寄った春酒や弁当をおもむろに披露する。どれもお酒がすすむ一品ばかりだ

京都・祇園から、あふれる人波に押し出され、鴨川沿いを歩く。橋のたもとにある柳には柔らかな新緑が芽生え、生暖かい春風に気持ちよさげに揺れている。いよいよ桜の蕾(つぼみ)もほころび、日当たりの良い枝先から、弾けるように花をつけ始めていた。

この日、夕刻から友人らと花見の約束をしていた。例年よりも開花は遅いようだが、すでにあちこちで早咲きの桜が見頃を迎えている。昼下がりを迎えて、京都御苑で待ち合わせることになった。

すでに苑内は観光客や花見客で大賑わい。きっと人々のお目当ては、近衛邸跡の枝垂れ桜に違いない。私もさっそく御苑の北側へと向かう。

着いた先は、すでに春爛漫の花園であった。色の濃淡も様々な品種の枝垂れ桜が咲き、あたりを明るく照らすように見頃を迎えていた。

下から見上げると、空から降り注いでくるような花々。目前に迫る花を写真に納めようと、人々が列をなしている。私はベンチに腰掛け、人々が思い思いに花を愛でる様子を眺めていた。

間もなく友人らと合流し、ひとしきり花を堪能した後、場所を賀茂川へと移すことになった。少し歩いて出町橋のたもとへ。少し蕾をほころばせている枝垂れ桜を見つけ、その下に落ち着いた。

シートを広げ、それぞれが持ち寄った春酒や弁当をおもむろに披露する。華やかな桜ラベルの日本酒がそろい、ようやく乾杯となった。

手毬寿司にいなり寿司、だし巻きに菜の花。手作りの料理から銘店の品まで、どれもお酒がすすむ一品ばかり。さすが酒好きな精鋭たちだ。奈良・吉野帰りの友人は、奈良漬をまるまる一本と、吉野の山椒の実の醤油煮をパック一杯に持参してきた。それが大いに酒の肴(さかな)にも重宝した。

気づけば夜の帷(とばり)がおり、手持ちのランタンが灯された。まだ見ぬ花の盛りに、思いはつのる。今年はあと何度、花見酒を楽しめるかしら-。

松浦すみれさん

まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター。昭和58年京都生まれ。京都の〝お酒の神様〟をまつる神社で巫女として奉職した経験から日本酒の魅力にはまる。著書に「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(コトコト刊)。移住先の滋賀と京都を行き来しながら活動している。

私たちのお花見の季節は、まだ始まったばかりなのである。

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