高病原性の鳥インフルエンザにかかって収容されたが、治療とリハビリが実って野生復帰されるオジロワシ=釧路町で2024年5月14日午後3時42分、本間浩昭撮影

 高病原性の鳥インフルエンザにかかり、猛禽(もうきん)類医学研究所で治療を受け、リハビリを行っていたオジロワシ1羽が14日、北海道釧路町の郊外で放鳥された。鳥インフルエンザにかかったオジロワシが野生復帰するのは2例目。人間用の抗ウイルス薬を経口投与する世界的にも類を見ない治療で、希少鳥類への効き目が実証された。同研究所、環境省、北大大学院獣医学研究院微生物学教室、塩野義製薬、国立環境研究所などの共同研究。

 放鳥されたのは、2022年に生まれた亜成鳥(性別不明)で、全長80センチ、翼開長194センチ、体重3800グラム。オジロワシの餌となるエゾアカガエルが大合唱する絶好の放鳥環境。キャリーケースのファスナーが開けられてもなかなか出ようとしなかったが、研究所の齊藤慶輔代表に促されると、大きく翼を広げ、青空の下、力強く急上昇した。近くの木に止まった後、しばらくして山の方へと消えていった。

 このオジロワシは今年1月6日、釧路市内の民家で衰弱して動けなくなっているとの通報を受けた環境省釧路自然環境事務所が、研究所に治療を依頼。収容時は翼を広げたまま、腹ばいになっていたという。

 PCR検査の結果、A型インフルエンザ陽性が確認されたため、陰圧隔離室に収容、人間用の抗ウイルス薬を経口投与した。北大の検査でH5N1亜型の高病原性と判明したものの、抗ウイルス薬が効いて13日目までにウイルスの排せつが止まった。歩き、自力で餌をとることもできるようになったことから屋外ケージや飛行訓練用ケージに移し、野生復帰に向けたトレーニングを積んでいた。

 オジロワシは最新式の衛星送信機と足環(あしわ)が装着されている。回復が不十分と判断された場合、再回収してリハビリなどを続ける。衛星送信機はソーラーパネルがバッテリーになっており、半永久的に追跡可能という。ただし、鳥への負担を軽減するため、体に背負ったリボンは長くても7年間しかもたないようになっている。

 衛星送信機による追跡によって、移動経路や渡りの高度などが把握できるほか、放鳥後にどのような場所でどのように暮らしているのか、列車や車にはねられるような危険な場所で暮らしていないかなどさまざまなデータを読み取ることも可能だ。今後の事故予防策などにも活用できる貴重なデータのフィードバックが期待されるという。

 このオジロワシが受けたのは、人間用の抗ウイルス薬を経口投与するという画期的な治療。研究所によると、過去3年間で計13羽に投薬が行われ、うち9羽の治療に成功した。現在も数羽を治療中だがこのうち何羽が野生復帰できるかは分からないという。後遺症に悩まされている個体もおり、特に脳に症状のある個体の野生復帰は難しいかもしれない。

 齊藤代表は「人間用の抗ウイルス薬が希少種・オジロワシの治療にも役立つことが分かった。治療しなければ死んでしまう希少種をぶっつけ本番で治療、野生復帰までもってこられた。幸い致命的な副作用もなさそうだ」と手応えを感じた様子。そして、「これから半年間、生きていれば、自活できるようになったと判断する」と自信をのぞかせた。

 2月に放鳥された1羽目(成鳥)は現在、北見からサロマ湖にかけての地域で自力で生き永らえている。齊藤代表は「今回もこのまま自然界に戻ってほしい」とエールを送っている。【本間浩昭】

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