ハーバード大学比較動物学博物館にあるチャバネゴキブリの標本=研究チームのQian Tang氏提供・AP

 世界中で嫌われるあの茶色い虫はどこから来てどのように広がったのか。シンガポール国立大などの国際研究グループは20日、謎に包まれていたチャバネゴキブリの起源に迫る論文を学術誌「米科学アカデミー紀要」に発表した。

 世界には約4600種のゴキブリが生息している。日本にもいるチャバネゴキブリは「世界で最も一般的な室内害虫」で、論文によれば屋外の自然環境にはほとんど生息していない。歴史記録では「分類学の父」と呼ばれるスウェーデンの生物学者リンネによる1776年の報告が残っており、英語ではジャーマン・コックローチ(ドイツのゴキブリ)と呼ばれる。だが、その起源は欧州ではなかった。

 研究チームは、世界17カ国から集めた281匹のチャバネゴキブリのゲノム(全遺伝情報)を分析した。その結果、約2100年前に現在のインドかミャンマーあたりでアジア原産のゴキブリから進化した可能性が示唆されたという。

 解析からは、チャバネゴキブリが時代を挟んで世界に拡散する西回りと東回りの二つの主要ルートも浮かび上がった。最初の波は1200年ほど前で、研究チームはイスラム王朝の商人や兵士と共に陸路で西方に広がった可能性を指摘する。第2波は大航海時代にオランダや英国の東インド会社などの貿易ルートで東方に渡ったと考えられるという。

 約250年前には欧州に侵入し、19世紀後半から20世紀初頭にかけて輸送手段の発達により急速に世界中に拡散したようだ。室内暖房などゴキブリにとっての「すみかの快適性」も向上し、「産業の進歩が種の繁栄に必要な条件を作り出したと考えられる」とした。

 研究チームはゴキブリのゲノム分析を続けることで、駆除対策などに生かせる知見が得られる可能性があるとしている。【ニューヨーク八田浩輔】

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