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<目の前の仕事で手一杯なところに容赦なく飛び込んでくるミスやトラブルの対応業務。でもその頑張りは、中間管理職の職責に応じたものではないかもしれない>
「中間管理職」「管理職」といったワードを検索しようとすると、予測変換には「板挟み」「疲れた」「つらい」「なりたくない」「ストレス」といったネガティブワードがズラリと並ぶ。本来喜ばしいはずの昇進の知らせは、いつからか忌避されるようになった。
中間管理職者はまるで「無理ゲー」というロールプレイングゲームに果敢に挑む勇者のようだ。
パーティメンバー、すなわち部下たちは言うことを聞かないし、嫌になったらすぐに抜ける。社長や役員らゲームマスターは無理難題をふっかける。そして業績悪化というラスボスはかなり手強い。
しかし、数字と管理に追われるこのゲームにも、必ず「攻略法」はある。
ドトールコーヒーやアサヒビール、USEN、B-Rサーティワン アイスクリームなど各業界のリーディングカンパニーがこぞって指名するオペレーション分析の第一人者、トリノ・ガーデンの代表取締役、中谷一郎氏 は、あらゆる業界の中間管理職者の働きを分析。
著書『中間管理職無理ゲー完全攻略法』(CCCメディアハウス)に無理ゲー攻略のための実践的なノウハウをまとめた。
40項目から成る そのノウハウの一部を本書から抜粋し、3回にわたって紹介する。本記事は第1回。
◇ ◇ ◇無理ゲー:ステップアップしていかない
眼前の業務に毎日全力で取り組んでいるのに、待遇や業務内容が変わらない
日々やるべきことが山積し、その業務をさばくだけで1日の大半が終わる。月に200時間はコミットしているのに、相応の評価も賞与も得られない。次々と現れる敵を倒し続けてHPばかりが減り続けているのに、ステージも変わらなければレベルも上がらないような状況。
攻略法
▶️まずは、自分が見ている景色と見るべき景色を認識する
会社があなたに求めている頑張りどころと、あなたが日々取り組んでいる業務が、ズレている。それが、あなたが頑張ってもなかなか評価されない原因かもしれません。そのズレに気づくために、まずは自分の見ている景色、見るべき景色を認識しましょう。
▶️責任の大きさによって、見るべき景色が異なる
あなたが現場のオペレーターや一般社員であれば、目の前の仕事をやっつけることがあなたの任務です。しかし、あなたが部下を持つ立場なら、目の前の仕事をこなすだけではいけません。先々を見据えた対策をとることこそが、あなたの本当の任務です。
解説
頑張っているのに、自分の待遇が一向に上向かない。それはもしかしたら、その頑張りが、職責に応じたものでないからかもしれません。
マネージャーが評価を得るには、緊急度が低く重要度の高い業務(本書では「第Ⅱ領域」と呼ぶ)、すなわち先を見越した仕事に時間を費やすことがポイントになります。
何にどれだけの時間を費やすか、この配分を間違えてはいけません。
『中間管理職無理ゲー完全攻略法』33ページより責任の大きい立場の人、たとえば役員クラスであれば、半年後ではなくさらに先、1年後、2年後のことを考えておかなければなりません。経営者なら、3~5年後の中期経営計画を考える必要があります。役職に応じて、見据えるべき先々の距離が違ってくるのです。
小さな現場単位で見たら、「とにかく目の前のことを頑張ろう」となるでしょう。しかし、上掲の図のように、責任が重くなるほど高い視座に立つことになるわけですから、より遠くを見通せるはず。ロングスパンで今後の見通しを立てなければなりません。
遠くを見通すというのは、「第Ⅱ領域(緊急度が低く重要度の高い業務)に手をつける」ということです。
我々の独自調査によると、部門責任者が第Ⅱ領域の業務に割く時間が全体の25%以上を占めている場合、その部門の生産性は会社内でトップ2%という非常に優秀な成績を収めることがわかっています。この部門では、責任者が現場を離れていても、継続的にスタッフが育ちます。
一方、第Ⅱ領域に割く時間が15~20%の場合、生産性は上位20%と高いものの、責任者への依存度が高くなります。そして、第Ⅱ領域に割く時間が5~15%になるとスタッフによって生産性にばらつきが生じ、5%以下ではミスやエラーが頻発するようになります。
『中間管理職無理ゲー完全攻略法』34ページより25%というと、トップレベルの管理職人材であれば1日8時間働くうち2時間もの時間を先々を見据えた仕事に費やしているということ。責任者が第Ⅱ領域にどれだけ時間を割いたかが、生産性にダイレクトに影響を与えるのです。
しかし、「緊急度が低くて重要度の高い第Ⅱ領域の仕事」と言われても、あまりピンとこないかもしれません。ここは時間軸で考えるとイメージがつきやすいでしょう。
一般社員であれば、とにかく今月頑張る。係長クラスであれば、3ヵ月後の仕事を視野に入れる。そして課長であれば、半年後ぐらいまでは考えておきたいところです。
もちろん、業種や事業形態によって、どこまで見通すのかが変わってきます。また、職種によっても異なるでしょう。
とはいえ、部長職に就いている組織を統括する立場の人が「今月こんなトラブルがあって、参ったよ」で終わらせているようではいけません。部長の仕事は、2年後、3年後を見通すこと。そのトラブルは次回も起こり得るのか、今回起きたトラブルは何が原因となって発生したのか、次にまた同じ状況になった時はどのようにすればよいのか、検討することが大切です。
トラブルが起こったということは、見方を変えれば改善のチャンスが訪れたということです。今回は場当たり的な対応でその場をしのいだかもしれませんが、この機会に対応策を用意し、次からはマニュアルを見ればいい状態にしておきましょう。
トラブル対応における一つひとつの積み重ねが、2年後、3年後のトラブルシューティングに活かされます。先を見据えて対策することで、何年か先に同じトラブルに見舞われた従業員が「部長、大変です!」と駆け込んでくることを予防できるのです。
今目の前で起きている問題を叩くのではなく、先々に起こり得るものを、あらかじめ見通して対策しておきます。
もし、トラブルが起きた要因が判明したのであれば、二度と起こらないような業務フローを作るのも、解決策の一つです。「今のバタバタが落ち着いたら」「いつか時間ができた時に」と思っていたら、まずやりません。移動時間や待ち合わせなどの隙間時間を使って、コツコツ積み上げていきましょう。
自分の立ち位置に見合った、先を見据えた行動をとっていれば、あなたの評価は自ずと高まっていくはずです。
中谷一郎
大学卒業後、ベンチャー・リンク社を経て2010年にトリノ・ガーデンを設立。サービス業を中心に、建設、小売、メーカーなど幅広い業界における大企業の収益・生産性改善を、「オペレーション分析」を通じて実現してきた。その手法の特徴は、徹底的に現場の様子を「可視化し計測し記録する」こと。近著に『オペレーション科学』(柴田書店)がある。
『中間管理職無理ゲー完全攻略法』
中谷一郎[著]
CCCメディアハウス[刊]
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