日本中学校体育連盟(中体連)は、全国中学校体育大会(全中)の規模を縮小し、現在の20競技から水泳や体操、相撲など9競技を2027年度以降、取りやめると発表した。全中は活躍すれば強豪校への進学の道が開ける夢の舞台でもあるが、なぜ規模の縮小が必要だったのか。
『ブラック部活動』などの著書がある名古屋大学の内田良教授に聞いた。
教員の負担と子どものけが
ーー中体連の発表をどう思う?
非常に大きな決断をしたと思います。部活動は数十年の間でかなり加熱してきていて、教員の長時間労働の原因になっています。また、子供のけがを生み出す背景にもなっていることから全国大会の在り方を考える議論がされてきました。
その中で、特に教員の負担という面から全国大会にメスが入ったというのは非常に大きな動きで、英断だと思います。
ーー教員にとってはどのような負担があった?
全国大会があることによって、それに向けた「地方大会」あるいは「ブロック大会」といった予選、そして「練習試合」などさまざまな試合が組まれます。そうすると教員は土日も引率をすることになります。さらに自分のチームが負けたとしても“審判”として参加しなくてはいけない場合があります。
教員の手当は非常に少なく、あるいは、残業代なしで参加しているケースも非常に多いです。全国大会があることによって教員の負担が一気に増え、ほぼ“ただ働き”のような状況にあることから、大会に教員がどう関わるかの点から見直しが迫られてきました。
“ただ働き”の長時間労働
現在、全中は陸上やバスケットボール、サッカーなど20競技が実施されているが、中体連はこの規模を縮小し、水泳や体操、相撲など9競技を2027年度以降、取りやめると発表した。
その理由として、『部活動の設置率が20%未満の競技を原則として消滅の対象にした』と説明しているが、背景には急速に進む少子化や教員の負担を減らす狙いがあるという。
ーーこの決断に向けた環境整備は進んでいた?
今回は非常に思い切った決断だったと思います。これまでも全国大会のあり方を変えない限りは、教員の働き方や部活動のあり方は変わらないと多くの人は考えてきました。しかし全国大会にはほとんど手が加えられていませんでした。
そういった意味で大きな一歩を踏み出したと思います。部活に関わったことがある人ならば、大会があることによって一気に教員の負担が増えることはよくわかっています。一方で、大会で“勝つ喜び”があることも当然わかっています。
そうした中で大会そのものをなくしてしまっては、「部活の運営は可能なのか?」という疑問がありました。大会こそが教員の負担の大きな要因になっている一方で、なかなか変えられないといった現状が続く中、今回一気に9競技が離脱することは激震のような動きだと思います。
ーー内田教授は『ブラック部活動』といった著書があるが?
教員の長時間労働の大きな要因は「部活動」であることはずっと言われています。土日も出勤、平日も夜まで活動しなければいけない。しかも、ほとんど残業代がつかない状況でやっています。“ただ働き”の長時間労働ですから、教員の間では「ブラック部活」と言われているわけです。
部活動のあり方を急いで見直さないと教員の長時間労働は解消しないし、改革のためには大会の見直しが必要だとずっと指摘されてきました。
部活動とクラブチームの棲み分け
今回の決定については、「競技として存続の危機」「経緯が乱暴」などと反対の声があるが、全国大会の在り方を見直さない限り、教員の働き方や部活動改革は不可能だと内田教授は指摘する。
その上で、全国大会に代わる“負荷が小さい”形での地域大会などを検討し、部活動が持続可能になる方法を模索していく必要があると強調する。
ーー子どもたちへの影響は?
大会は当然盛り上がるし、そこに向かって頑張るので魅力はたくさんあります。そのため全国大会をなくした場合、どういう形で子どもたちが試合に参加できるかを別途模索する必要があります。
部活動は大会やコンクールがあるから盛り上がる側面があるので、地方大会を年一回やったり、リーグ戦を開催するなどさまざまな形を検討する必要があります。みんなの負荷が小さい形でどう運営できるかを考えなければいけません。
全国大会があると、ブロック大会、地方大会、練習試合と一気に仕事が増えるわけですが、そうではなくて、もっと小規模な形でやれば教員の負担は加熱しないことが考えれます。全国大会を止めた後、どういった試合形式だったら子どもたちが楽しくやっていけるのかを議論する必要があります。
ーー顧問の外部委託は?
大きな改革として部活動を学校から切り離すという動きがあります。これは「地域移行」と呼ばれていますが、学校の管轄ではなくて地域社会の中で部活を回していこうというものです。学校の教員以外の人に指導してもらう「外部化」という形もあり、教員の長時間労働対策として模索されています。
部活を今のまま教員に任せていては、部活そのものが衰退しかねないわけです。だからこそ、いかに部活を持続可能にしていくかという観点からもゼロベースで考え直していくことが必要だと思います。
これまでの部活動は、全国大会を頂点にした大きなピラミッドにみんなが巻き込まれてきました。大会があるから練習を減らせない、隣の学校も頑張っているから自分も頑張らざるを得ないといった流れがありました。
そうではなくて、トップアスリートを育てたい場合は民間のクラブチームで頑張ってもらい、学校や地域社会で担う部活動は、ほどほどのものにするといった棲み分けをして運営していくべきだと考えます。今回の中体連の決断により、ようやく大きな一歩を踏み出せたと思います。
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