長崎県の離島・対馬にだけ生息する国の天然記念物「ツシマヤマネコ」の保護活動に尽力してきた、NPO法人「ツシマヤマネコを守る会」の会長、山村辰美さんが5日、悪性リンパ腫のため80歳で亡くなった。昨年秋、取材で会った山村さんは「絶滅を防ぐ」一心で入院直前にもかかわらず山林を精力的に動き回っていた。【吉田航太】
山村さんは1944年対馬市生まれ。地元で県職員として働く傍ら、自宅がある島北西部佐護地区に多く生息していたツシマヤマネコの写真を撮り始め、野生で見られるその姿を守りたいと保護活動に乗り出した。
その後、ツシマヤマネコは71年に国天然記念物、94年には種の保存法により国内希少野生動植物種に指定された。守る会は93年設立で、山村さんらは、植林されたまま放置されていた山林を開墾し、ヤマネコの餌となるネズミや昆虫が捕れるようにソバ畑を整備する活動を続けてきた。
「ヤマネコが安心して育つ環境をどうにか整えてあげたい。絶滅してからでは遅い」。昨秋、取材に応じた山村さんの目は真剣だった。保護区へつながる山林は悪路続きだったが軽自動車のハンドルを自ら握り、急な斜面を歩いて新たな用地の開墾準備を取材撮影させてくれた。
その後、福岡市内の病院に入院。入退院を繰り返し、4月に記者が再度対馬に渡った時も入院中だった。守る会によると、長年続けてきた保護活動の中で現地に出向いて活動する山村さんの姿を捉えた写真は、昨秋が最後となった。
かつて山村さんが撮影した、野生のツシマヤマネコの姿はどれも貴重な写真となり、2000年5月17日の毎日新聞朝刊全国版の1面では、愛くるしい2匹の子猫の姿が大きく掲載された。
ヤマネコの魅力に引かれて山村さんの元に東京から通い詰め、7年前に移住して二人三脚で保護活動をしてきた守る会理事の羽根佳雄さん(62)は「山村会長の存在は大きかった。遺志を受け継ぐのは大変だが、次の世代へつなげてゆくのが私の役目。しっかりやりたい」と語る。
島内に生息するツシマヤマネコは100匹ほど。環境省を中心に事故や錯誤捕獲にあったヤマネコの保護収容が続けられている。将来的には動物園で繁殖した個体の野生復帰が目標だが、道のりは遠く、島内にすむ個体の保護や生息環境の整備が絶滅回避の一手だ。
対馬で生まれ育ち、ヤマネコがすむ対馬の自然を愛していた山村さん。山村さんの思いが実り、絶滅とはほど遠いたくさんのヤマネコが、対馬で人と共存する日が来ることを願ってやまない。
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