特集は、究極の「ステーキナイフ」です。長野県内の打刃物職人、家具職人、漆塗り職人の技を結集させたもので、発注した御代田町のホテルは「カトラリーでも信州を感じてほしい」としています。


■ホテルで使われる特注ナイフ

6月28日、御代田町―。

彩り豊かな前菜。ここは。県産の食材にこだわったフランス料理が自慢のホテルです。

メインのステーキを食べる客の手には、ひときわ目立つナイフがー。

東京から:
「日本の短刀をイメージさせるような、一直線の日本美を感じる美しいフォルム」


実は、こちら「特注品」です。

THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田・柳原章央料理長:
「職人に作ってもらったオリジナルのナイフ。長野の伝統工芸もこのレストランでは使用して、お客さんに提供したい」

特別なステーキナイフ。手掛けたのは3人の職人です。


■「刃」はこの道55年の職人が製造

真っ赤に焼けた鋼を打つ信濃町の畑山充吉さん(78)。この道55年の「打刃物職人」です。

打刃物職人・畑山充吉さん(78):
「(炉の中は何度?)1500℃くらいだな。火加減がめんどうなんだ」

信濃町は「打刃物の里」。川中島の合戦の際に武具の製造や修理で刀鍛冶が移り住んでから根付いたとされ、包丁や鎌の製造に受け継がれてきました。


しかし、近年は高齢化などで職人が減少。40年ほど前は60人以上いましたが、今は畑山さんを含め7人です。

今回、畑山さんはステーキナイフの「刃」60本を任されました。手掛けるのはこれが初めて。

打刃物職人・畑山充吉さん:
「最初というのは、何やったって大変。いいものを作ろうって気構えでいないと」


■挑戦は「日常」死ぬまで勉強  

「刃」は硬度の高い鋼とステンレスの3層構造。コークスと呼ばれる炭を燃やした炉で熱します。

打刃物職人・畑山充吉さん:
「場所によってはすごい温度差があるから、そこを見極めて絶えず気を配っていないと、焼きすぎれば鋼が死んでしまう。いくら焼入れて研いでも切れ味が出ない」


ある程度形ができると、グラインダーで整えます。

打刃物職人・畑山充吉さん:
「刃を研いで、ひげ剃れるくらいまでいい刃を付けて、(次の)木工屋さんの所へ行く」

巡ってきた新たな挑戦。でも、畑山さんにとって挑戦は「日常」でもあります。

打刃物職人・畑山充吉さん:
「明日になれば、また新しいチャレンジだよ、おれには。満足してねえ、いつになったってこれで良しということはない。死ぬまで勉強だ」


■「柄」を作るのは家具職人

畑山さんが鍛えた「刃」は飯綱町の家具店「ウッドファクター」へ。

店主の大川直男さん(49)。家具づくりは20年以上になります。「柄」の製作と取り付けを任されました。

家具職人・大川直男さん:
「手打ちの刃物で、厚みとか幅とか、1本1本違うものを60本合わせないといけない。大変だけどやりがいもある」


刃を埋め込む「溝」。彫るのはこの春、修業先から戻った息子の翼さん(26)です。

溝に刃を合わせるもー

家具職人・大川直男さん:
「ちょっと合わない」

大川直男さん:
「これ広げなきゃだめだ」


大川さんが削り直して微調整―。

大川直男さん:
「いいはまり具合になった。紙1枚とか紙2枚くらいの違いなんですけどね。きつすぎず、緩すぎず」

刃と柄を留める「リベット」を打ち、面取りなどを経て大川さんの作業は終了です。

家具職人・大川直男さん:
「1本1本違って、職人さん(畑山さん)が心を込めた手作りなんだなと感じながら、自分も負けない仕事をしようと触らせてもらいました」

■漆塗り職人が仕上げ

ステーキナイフのバトンは木曽へ。仕上げの漆塗りを任されたのは、職人歴16年の岩原裕右さん(45)。

漆塗り職人・岩原裕右さん(45):
「ここまで両職人さんともしっかりと仕上げてくれたので、私で何かミスがあってはいけないので、かなりプレッシャーも感じています」

この日は、柳原料理長が見学に。

THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田・柳原章央料理長:
「長野の伝統工芸をお客さんに提供したい。それを説明できないと使っている意味もないと思ったので」


岩原さんは60本のナイフを10種類の異なる色や柄に仕上げることにしました。

そのうち2種類には木の年輪に似た模様が現れる、「堆朱(ついしゅ)塗り」という技法を用いることにしました。


まずは「型置き」。タンポという道具で、模様をつけていきます。

漆塗り職人・岩原裕右さん:
「楽しみは楽しみですけど、一番ドキドキする工程です」

そのあと温度と湿度が管理された「室(むろ)」で乾燥させながら漆を塗り重ねていきます。

THE HIRAMATSU軽井沢 御代田・柳原章央料理長:
「自分の子どもが育っていくような、過程を見ながら完成品ができるのを想像して、楽しみに待っています」

約1カ月半後ー。

この日の作業は「荒砥ぎ」。12層、塗り重ねた漆を紙やすりで削っていくとー年輪のような模様が浮き出てきました。

漆塗り職人・岩原裕右さん:
「きれいに柄も出ているのでほっとしました」

この後、艶出しなどをすれば、完成です。


■完成したナイフの使用感は?

6月28日ー。

構想が浮上してから1年余り。

完成したステーキナイフがレストランに届きました。

THE HIRAMATSU軽井沢 御代田・柳原章央料理長:
「素晴らしいですね。お客さんも見たことないものになっていると思うので、反応が楽しみ」


スタッフ:
「皆さま、お好きなナイフをお取りいただいて」

一番初めにナイフを使ってもらおうとこの日、3人の職人と関係者がレストランに招かれました。

「信州プレミアム牛」を薪で焼き上げたステーキ。

自分たちが作ったナイフで味わいます。


家具職人・大川さん:
「畑山さん、よく切れますね」

打刃物職人・畑山さん:
「(出来上がったナイフを見て)まあまあかな。人様から切れたって言われるのが刃物作ってるものにしたら冥利だな、大事に使ってもらえれば、また冥利かな」

家具職人・大川さん:
「ものすごくきれい。一流の職人たちが関わったものだからすごいものになった」

漆塗り職人・岩原さん:
「切れ味、持った感覚といい素晴らしいもので、なかなかこんな貴重な経験はできない」


さて、いよいよ客に使ってもらう時がやってきました。

スタッフ説明:
「信州の伝統工芸品が3つ重なったナイフです」

東京から訪れた夫婦。好みの1本を選びます。

夫(東京から):
「信州でこういう打ち刃物があるって存じ上げなかった。ぜひこれでお肉を食べてみたい」

妻(東京から):
「重さもいい感じがして、漆が手にしっくりくる。すごくいい」

メインディッシュのステーキ。

妻(東京から):
「おお、切れ味いいわ、すっと切れちゃう」
「すって切れるので、お肉のおいしさも引き立つんじゃないかと思う」

夫(東京から):
「本当に切れ味がいい、日本の匠の技ってすごい」


職人の技を結集したステーキナイフ。

普段はテーブルの脇役ですが、こちらのレストランでは「主役級」です。

THE HIRAMATSU軽井沢 御代田・柳原章央料理長:
「食材だけではなくてカトラリーも、すべてホテル、レストランのスペシャリティ(自慢の一品)として捉えていただければ。カトラリーも長野県産ということで、今後もずっと長野に来てよかったなって思えるような時間を提供できれば」

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