年齢を重ねると、アルコールの代謝能力が低下し、血中アルコール濃度が若い頃よりも速く上昇するようになるが、お酒に弱くなる理由はそれだけではない。(PHOTOGRAPH BY CHIARA GOIA, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

最近、若い頃よりもお酒に弱くなったと思ったら、あなたの気のせいではない。男性も女性も、年を取るとアルコールにより敏感になり、飲める量が減ることを、多くの人は理解していない。

「加齢による生理学的な変化のせいで、血中アルコール濃度がより上がりやすくなり、行動や認知機能により大きな影響を与えることは、あまり認識されていません」と、米国立アルコール乱用・依存症研究所の所長で神経科学者のジョージ・クーブ氏は話す。

平均寿命が延びるとともに高齢者の人口も急速に増えているなか、これは注目すべき問題だ。

飲める量が減るのはなぜか

年を取ると、体重が変わらなくても、体脂肪が占める割合は増える傾向にあり、体内の水分量も減る。

2023年5月に医学誌「Kidney Research and Clinical Practice」に発表された研究によると、体重が正常範囲内の場合、3〜10歳の体内で水分は体重の62%を占めているが、その後は減っていくという。11〜60歳の間に、男性は変化がないものの、女性は55%に減少する。そして、61歳以降は男性で57%、女性で50%にまで落ち込む。

アルコール(エタノール)は水に溶けるため、体内の水分量が減れば飲酒にも影響を与えると、米カリフォルニア大学サンディエゴ校スタイン老化研究所・健康老化センター所長のアリソン・ムーア氏は指摘する。

「80歳が30歳のときと同じ量のアルコールを摂取すれば、血中アルコール濃度はずっと高くなります」。年を取ってから飲む1杯の影響は若い頃よりはるかに大きく、酔いが回るのも若い頃よりずっと速くなる。

さらに、女性の場合は何歳であっても男性より体内の水分量が少ないため、アルコールの影響を受けやすい。アルコールの代謝を助ける酵素も、女性の方が少ない。その結果、同じ体重の男性と女性が同じ量のアルコールを摂取しても、血中アルコール濃度は女性の方が高くなる。

一方、年を取るとアルコールの代謝能力も変化する。アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、チトクロームP450 2E1という、アルコールを分解する酵素の活動が加齢とともに衰えるためだと、米ハーバード大学医学部の精神医学助教で、マクレーン病院のアルコール・薬物・依存症外来プログラムの医療ディレクターを務めるオリベラ・ボグノビック氏は説明する。

その結果、「アルコールの影響がより速く蓄積し、より長く続きます」と、米エール大学医学部准教授で依存症医学が専門のスティーブン・ホルト氏は言う。

さらにムーア氏は、加齢とともに脳もアルコールに敏感になると指摘する。「体の動きやバランスの調整が難しくなり」、転倒しやすくなる。また、判断能力や反応時間にも影響が出る。

これらの生理学的変化は急に起こるのではなく、40〜50代から始まって、60代、70代、80代と年齢が上がるにつれて顕著になると、ムーア氏は言う。

健康問題のリスクを増やす

見過ごされがちなのは、高齢者の方が若い人よりも薬を頻繁に、多く服用しているという点だ。しかも、多くの処方薬(一部の抗凝固薬、鎮静薬、糖尿病の薬など)や市販薬(鎮痛薬や睡眠改善薬など)は、アルコールとの相性が悪い。

特に、肝臓で代謝される薬はリスクが高くなると、ホルト氏は指摘する。「アルコールが薬の代謝を遅らせたり、薬がアルコールの代謝を損なったりすることがあります」

こうした相互作用が、薬の効き目を弱めたり、逆に強めたりしてしまう場合がある。または、強い眠気や消化管出血のリスクが増えるなどの副作用を引き起こすこともあると、ムーア氏は言う。そのため、薬を服用していて酒を飲みたい人は、説明書をよく読むか、医師に相談することが大切だ。

かつては、適度の飲酒は健康に良いと考えられていたが、今では、習慣的なアルコールの摂取が健康に様々な害をもたらすことを、専門家たちは認めている。「うつ病の悪化、血圧上昇、そして不整脈を引き起こす恐れもあります」とクーブ氏は指摘する。

さらに、アルコールは睡眠も妨げる。よく眠れるように寝酒をするという人もいるが、「実際には睡眠の構造が乱され、深い眠りの時間が短くなったり、睡眠が断片化したりしても気づいていないのです」と、ボグノビック氏は指摘する。ただでさえ、年齢とともに不眠やその他の睡眠障害に悩まされることが多くなるため、アルコールはさらに問題を大きくするかもしれない。

一方、様々な慢性疾患を抱える見込みも年齢を重ねるごとに高くなり、アルコールの摂取がリスクをさらに増やすことがある。習慣的な飲酒は、肝臓病や頭頸部がんのリスクを高める大きな要因となる。アルコール使用障害(依存症や乱用、多量飲酒など)は、加齢に関わる認知機能の衰えや脳の萎縮を加速させる。

さらに2024年6月13日付けで学術誌「Journal of Women's Health」に発表された研究では、1日1杯の飲酒だけでも女性の乳がんのリスクが高まることが示されている。

安全にお酒を楽しむために

結局のところ、飲酒のリスクと楽しみのバランスをどうとるかは、自分の現在の健康状態や使っている薬などの要因に基づいて、それぞれが検討することだと、専門家は言う。「アルコールが悪だとは決して思いませんが、年を取れば取るほどリスクは増します。ですから、より注意を払う必要があるのです」とムーア氏は話す。

そして、「1杯のお酒がどれくらいかを知っておくことです」とクーブ氏は言う。飲む場所や、誰が酒を注いでいるかによって、アルコール飲料の見え方は違うかもしれないが、米国の場合、標準的な「1杯」の基準はビールなら約350ミリリットル、ワインなら約150ミリリットル、そしてウオッカ、ジン、テキーラなどの蒸留酒なら44ミリリットルとされており、いずれも純アルコールが14グラム含まれている。

現在の米農務省のガイドラインは、1日の適量を男性は2杯まで、女性は1杯までと推奨している。しかし、65歳以上の場合1日1杯までとするよう基準を変えるべきだという専門家もいる。

日本の厚生労働省は1日あたり平均20グラムの純アルコールを「節度ある適度な飲酒」としている。ビールなら中瓶1本(500ミリリットル)、日本酒なら1合(180ミリリットル)弱、ウイスキーならダブル(60ミリリットル)に相当する。また、「65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が適当である」としている。

酒を飲む際には、何か一緒に食べるとアルコールの吸収を遅らせる効果があると、米テキサス大学ヒューストン健康科学センター依存症神経行動研究センターの医療ディレクター、マイケル・ウィーバー氏はアドバイスする。また、水やノンアルコール飲料を酒と交互に飲むなどして、十分に水分を補給することも大切だ。

ホルト氏は言う。「年を取るにつれ、友人や家族と一緒に過ごす時間は重要になっていきます。ただし、家族や友人でも若者と一緒になって飲みすぎないよう注意しましょう」

文=Stacey Colino/訳=荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年7月7日公開)

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