特集は「瓶牛乳」です。長野県内では学校給食で提供される牛乳の9割が瓶ですが、大北地域の給食で長く愛されてきた瓶牛乳の製造・販売が、この程惜しまれながら終了しました。メーカーは紙パックでも変わらぬ味を届けたいとしています。瓶から紙パックへ。メーカーの決断と切り替えの背景を取材しました。
■給食に最後の「瓶牛乳」 児童「かなしい」
7月22日、大町市の大町北小学校。
児童:
「いただきます」
夏休み前最後の給食です。児童たちがおいしそうに飲んでいる牛乳。「特別な1本」となりました。
1年生:
「かなしい!」
「かなしい。瓶がなくなるから」
大北地域の20校余りの給食で提供されてきた瓶牛乳はこの日で最後。休み明けから紙パックに変わるのです。
■創業102年・老舗メーカーの決断
瓶牛乳を製造してきたのは地元の松田乳業。
松田乳業・松田邦正社長:
「確かに寂しいことは寂しいんですけど、われわれとしても、(紙パック化は)非常に大きな投資。私もこの人生最後の投資かなと思ってやるんです」
松田社長はやむを得ない決断だったと振り返ります。
松田乳業は1922年・大正11年の創業。松田社長の祖父・正人さんが、数頭の牛を飼って牛乳を売るようになったのが始まりです。
■「富より健康」「まつだくん」 親しまれた瓶牛乳
2代目・正一さんの時代に、給食の脱脂粉乳が牛乳に切り替わり、以来、給食用を一手に引き受けてきました。瓶牛乳の歴史は80年以上。
当初、瓶には何も書かれていませんでしたが、65年程前から印字された瓶になりました。「富より健康」のキャッチフレーズと、男の子のキャラクター「まつだくん」は地域住民にはおなじみのデザイン。「まつだくん」のモデルは子どものころの松田社長です。
松田乳業・松田邦正社長(2022年取材):
「私はこんなに当時、太ってなかったので、健康をイメージしてキャラクターを作ったんでしょうね」
■状況に変化…瓶の値上がり、機械の老朽化
長く親しまれてきましたが、2023年、状況が変わりました。
松田乳業・松田邦正社長:
「弊社の場合、35円で使っていた瓶が75円になりまして、それが非常に理由として大きいなということ、製造ラインの老朽化、これがもう…」
少子化などで牛乳の需要が減る中、瓶の製造業者も減少。一部の業者に注文が集中し、2023年、倍以上に値上がりしたのです。
さらにー
再利用するため、瓶を洗う「洗瓶機」。老朽化で維持費がかさんでいます。
松田乳業・松田邦正社長:
「3年に一度くらいは大掛かりな修理をしなければ。400、500万円すぐかかってしまう」
製造ラインを修理できる業者も既に廃業していて、壊れたら再開は容易ではありません。そこで紙パックの牛乳に切り替えることにしたのです。
松田乳業・松田邦正社長:
「意外とね、あまり感じないですよ。これで楽になるかなと。あそこ壊れた、ここ壊れたとかね、そういう苦労がなくなるかなって」
■県内の学校給食は9割が瓶牛乳だが
農林水産省の調査によりますと、県内の学校給食で「瓶牛乳」を提供している割合はおよそ92%。
一方、他の都道府県は逆でほとんどが紙容器です。
県乳業協会の会長でもある松田社長によりますと、県内は瓶の「再利用」に意義が見出されてきましたが、近年は安全のため瓶の入れ替えが頻繁で、洗剤や燃料を考えると一概に「エコ」とは言えないということです。
■「瓶」終了 反響大きく
しかし、1カ月前、SNSで「瓶」の終了を伝えるとー。
(SNSの反響)
「瓶じゃなくなるなんて寂しすぎます(涙)」
「ビックリして大声出してしまいました。これも時代の流れなのでしょうか」
■児童も教頭先生も「さみしい」
大町北小学校でもー
1年生:
「もっともっと『びん』飲みたい」
地元出身・坂井一夫教頭:
「このイメージで何十年もいますので、ちょっと寂しい気はします」
給食を終え、児童が牛乳瓶を洗い始めました。
児童:
「おうちにもって帰ります、ママたちに見せるから」
「また牛乳入れて飲む!」
「大人になるまでとっておく」
工場でもー
スタッフ:
「遠くからわざわざ、ありがとうございます」
瓶牛乳26本を購入―。
神奈川から旅行中:
「泊ってたホテルですごく牛乳がおいしかったので」
「きのう伺って、瓶が最後と聞いたので」
「昭和っぽくてかわいいなって感じたので洗って何かに使おうかな」
■最終製造日 社長は機械を労う
最後の給食から4日後、ついに最終製造日を迎えました。
気苦労がなくなると話していた松田社長ですがー。
松田乳業・松田邦正社長:
「ようやくきょう、この機械も無事つとめあげてくれて卒業を迎えた。非常に感慨深いものがありますね」
勤続25年の倉科八寿子さん。製造ラインの切り替えを機に退職することになりました。
退職する・倉科八寿子さん(69):
「さみしいっていう気持ちですよね。もう機械も限界で、きょうまでどうか持ってくれと。無事終わってやれやれ」
準備を進めてきた、娘で社員の愛さんはー
松田乳業・松田愛さん:
「まつだくん流れてるの見てたらジーンときました。心を込めて掃除してくれるので、きょうのきょうまで動いてくれて、工場の方にも感謝です」
そして、ついにー
退職する・倉科八寿子さん(69):
「終わりました」
松田邦正社長:
「おつかれさまでした!」
「最後に、お神酒の代わりに」
フル稼働してきた機械を牛乳で清めます。
機械に声かけ:
「長い間、おつかれさま。長い間、よく動いでくれたね」
瓶の製造ラインはこの日のうちに撤去されました。
■紙パック化スタート
3日後の7月29日―。
新たな機械が入り紙パック牛乳の製造が始まりました。
新たなパッケージはこちら。
「まつだくん」は大きくなり、太陽などの背景もプラスされました。反対側は、これまで登場機会が少なかったガールフレンド「モモちゃん」です。
松田邦正社長:
「『まつだくん』を思いっきり目立つように。お子さん受けするような、スーパーの棚に並んでたら、あれが欲しいって言ってもらえるようなパッケージを狙って」
85度の低温で時間をかけて殺菌していることや、まろやかな口当たりになっていることをパッケージでもPR。
エコに配慮して、ストローレスにし、直接飲める飲み口にしました。
人気のコーヒー牛乳は「おいしいかふぇおれ」という名に改め、こちらもポップなパッケージになりました。
■無事、製造も「ミス」発覚
紙パック牛乳が無事、製造できることを確認。しかし、痛恨のミスが…。
松田邦正社長:
「残念なことに、『まつだんくん』が裏面にきちゃったの」
正面に印字されるはずの「消費期限」が「まつだくん」側ではなく、「モモちゃん」側に。
修正までの間、「モモちゃん」側を正面にして店頭に並べられそうです。
■「紙パックになっても変わらぬ味を」
102年目の今年、新たな一歩を踏み出した松田乳業。紙パックになっても変わらぬ味を提供していきます。
松田乳業・松田邦正社長:
「瓶の時は売る場所が限られていたんですけど、いろんなイベントとかそういうところにも提供していきたい。親しみやすいパッケージになっているので、家庭でも親しんでいただけるかな。期待といえば期待ですね」
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