「マアジ」とアジ科の希少魚「カイワリ」を掛け合わせたハイブリッド魚の養殖が、千葉県南房総市で行われている。館山市に本社を置くベンチャー企業「さかなドリーム」(細谷俊一郎社長)が開発した新品種。上品な味わいで知られるカイワリの品種改良でもあるため、試食したすし職人らの評価は高かったという。同社は1年後の出荷開始を目指している。
同社は2023年7月、商社出身の細谷社長と東京海洋大学学術研究院海洋生物資源学部門の吉崎悟朗教授らが共同で創業。農畜産物に比べて歴史の浅い水産物の品種改良に取り組み、オリジナルで「世界一うまい養殖魚」の生産を目指している。独創的で成長性などが見込まれるビジネスプランを持つスタートアップ企業として2023年度、県の「ちば起業家大賞」を受賞している。
新品種は吉崎教授が開発した生殖幹細胞操作技術を使い、館山市坂田の東京海洋大水圏生物生産工学研究所でマアジの雌と、大型のものは高級魚としても扱われるカイワリの雄を掛け合わせた。
岩井富浦漁業協同組合(南房総市富浦町多田良)に養殖を委託。同漁協がある大房岬の約300メートル沖合に設けられた8メートル四方のいけすで3000~4000尾を飼育している。1尾200~300グラムに成長させ、来春から夏にかけて出荷を目指すという。
今年4月にすし職人やベテラン漁師、東京・豊洲市場の仲卸業者らに試食してもらったところ、「すぐにでも扱いたい」「外国人に好まれるはず」「養殖臭がまったくない」などと好評だったという。
新品種は交配しないため天然魚との交雑が避けられることも特徴。また、魚は性成熟によって身がやせて味が落ちるとされるが、新品種は自ら次世代を作ることができないので常に旬の味を楽しめるという。
価格は1キロあたり3000円程度を見込んでおり、天然のアジ(1キロあたり800~1200円)などと比べてかなり高いが、細谷社長は「味のよさをアピールし、マーケティングをしていく」としている。出荷先は豊洲市場のほか、地元のリゾートホテルや旅館、飲食店などを視野に入れているという。
今後は養殖場のツアーなどを行い、食育や漁業の担い手育成につながる活動なども目指すという。細谷社長は「安房発のブランド養殖魚として地域の名産となることを目指し、地元漁協と共に新事業のモデルケースを築きたい」と話した。【岩崎信道】
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