「こち亀」両さんが考案？　ラーメンパン、局地的熱々

考案した燕三条背脂ラーメンぐるぐるパンを手にする田村かおりさん（新潟県燕市の「マールさんの石窯パン工房　銀の麦」）

焼きそばパンはあるのに、なぜラーメンパンは見かけないのか――。2024年の春、そんな疑問が記者の頭をよぎった。ラーメンは国民食だが、一杯で完結しているせいか、奇をてらった関連グルメをあまり見かけない。でもパンと組み合わせたら意外と流行るのでは……。未来のトレンドになると期待を込めて4カ月間動向を追った。

手始めに「ラーメンパン」と検索すると、レシピ投稿サイトがヒットした。その一つ「バズる気がする!ラーメントースト!!」は、トーストにゆでたインスタントラーメンととろけるチーズを乗せたもの。しかし投稿から4年近くたっても、レシピを参考にしたユーザーからのリポートは0件。全くバズっていない。

大手の動きはどうだろう。2500種以上の商品を出してきた山崎製パンのランチパック。さすがと言おうか、人気キャラクターのちいかわとコラボした「とんこつしょうゆラーメン風」を4月に期間限定で発売した。にんにくをきかせ麺も入ったフィリングは若者たちの関心を引いた。

「汁物なのでパンが水分を吸って食感がベチャベチャになってしまう。今回はパスタで代用しましたが、それでも難しかった」（開発担当者）。新たに商品化する予定は今のところないという。

同じ頃、新潟県燕市の「マールさんの石窯パン工房　銀の麦」から「燕三条背脂ラーメンぐるぐるパン」（194円）が生まれた。スープが冷めないよう背脂で覆われたご当地ラーメンは出前向きで、金物職人さんたちに重宝されている。「パンにしてみたら？」と友人に軽く言われたが「さすがにラーメンを組み合わせるのは……と。ただ、町おこしにつながるならば、やらない手はないなという思いもありました」（田村かおり代表）

中華麺を入れて伸ばした生地に、しょうゆラーメン味の油脂と背脂を包む。さらに玉ねぎをトッピングしマヨネーズをかける。焼き上がると中華麺がカリっとしたアクセントになる。背脂のジュワっとした口当たりが後を引き、職人さんからも好評で毎日40個前後売れている。

ただ、パンをじっと見つめ、買うか買わないか右往左往する来店客も目立つ。田村さんは購入者からのアンケートを基に味に磨きをかけている。「ラーメンとパンの組み合わせは意外と合う。ご当地パンとしてさらに盛り上げていきたい」

リサーチを続けていると、フランスパンが突き刺さったラーメンの画像が目に入った。天下一品の「こってりチーズパンラーメン」だ。なるほど、パンを具にする発想もあったか。

フランスパンをのせた「天下一品」のラーメン。ヒットはしなかったが、出路常務が「自分が食べたい」と4店で販売を継続中

「スープとご飯の組み合わせは当然おいしい。パンでも絶対おいしいよな、パスタにもパンがつくし、と思ったんです」と、考案した天一食品商事（大津市）の出路正弘常務。パンにはイタリア産粉チーズを乗せてトーストした。超濃厚なスープは天下一品の代名詞。麺を食べる前に、スープをパンですくって食べるのがオススメだという。

16年にテレビ局のイベントで提供し、店でも展開したが大ヒットとまでは至らず、いま扱うのは4店のみ。「私が食べたいという気持ちで残している」（出路常務）。発売当初は「天下一品、とうとうおかしくなったのか」「ネタ切れか」とファンですら困惑したそう。今では追随するかのようにパンをのせたラーメンを販売する店がじわじわと出てきている。

日本ピザハットの「天下一品コラボ　こってり風ラーメンピザ」は1カ月間で約4万食を販売した

24年1月には日本ピザハット（横浜市）が「天下一品コラボ　こってり風ラーメンピザ」（1980円）を発売した。焼き上げてもコシを感じる細麺とネギ、チャーシュー、チーズをトッピング。こってりスープはソースとして再現。開発には半年かけたという。

映えや話題性を狙った「奇想天外シリーズ」のひとつで、「アホっぽくて好き」「ラーメンなのかピザなのかめっちゃ気になる」といった声が寄せられた。完売店舗が相次ぎ、1カ月間で約4万食売れた。「社内からはもう1回売ってみないか、という声も出ています」（開発担当者）

実はラーメンパンに目をつけた人物は昔から存在していた。超長寿漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」（こち亀）の主人公、両津勘吉だ。10年発売の171巻では、麺と具を入れてゼリー状にした特製汁を仕込んでプレスしたラーメンパンをふるまうシーンが描かれている。周囲は頭を抱えるが、食べてみると「ヤキソバパンよりうまい」と大好評だった。