リニア中央新幹線の開業が当初の27年から「34年以降」の見込みとなった。東京・品川―名古屋が40分で結ばれるという「夢」を見つつ、沿線地域の住民が向き合っている「現実」とは。リニア中間駅が建設される現場を歩いた。【高橋昌紀】
「『静岡のせいだ、ふざけんな』。友達と言い合いましたよ」。地元の県立工業高に通っている2年生の男子生徒(16)がいたずらっぽく、にかっと笑った。リニア中央新幹線の開業が遅れることをどう思う――。そんな質問への回答。一緒にいた1年生の女子生徒(16)は淡々としていた。「特に関心はない。東京に行くには便利になるけど、卒業後は県内で働くつもり」
岐阜県中津川市の坂本地区。リニア中間駅と接続するJR中央線の美乃坂本駅には日中、1時間当たり上下2~3本が停車する。県南東部の主要駅である中津川、恵那の両駅まで5分ほど、名古屋駅には1時間ちょっと。駅前を眺めていると、電車の到着に合わせた送迎らしい自家用車が次々と乗り付けた。タクシーも1、2台が待機している。
「土地の価格が安いから、家を持ちたい若い家族には住みやすい。地元の小学校の今年の新入生は123人。小中学校の全児童・生徒数は約1000人です」。坂本まちづくり協議会会長の桃井奈津男さん(73)が胸を張った。協議会は登下校の見守り、夏祭りなどに力を入れ、子供たちを大事にしてきたそうだ。
地区人口は市内では2番目の規模の約1万2000人。とはいえ、さすがに近年は減少傾向もみられる。中津川市は旧中山道の街道筋で、東部には有名な馬籠(まごめ)、落合、中津川の三つの宿場がある。一方で、西部の坂本地区には「特色がない」(桃井さん)。それだけにリニアに対する期待は大きい。
JR東海はここにリニアの駅のほか、車両の編成やオーバーホールなどのための「中部総合車両基地」を設ける。市は観光スポット「リニアが見える公園」を整備。さらに千旦林川の改修、中央道と接続する予定の濃飛横断道の延伸、恵那市とのアクセスを高める東濃東部都市間連絡道の新設も予定されている。
美乃坂本駅の周辺は、工事現場だらけだった。協議会の身近な心配は、リニア開業の延期に伴い各種の工事期間も延びるのではないかということ。工事のためのトラックが走り回り、住民たちの生活環境に影響を与えるかもしれない。
リニアがもたらす未来について、出会った地元の人たちの思いはさまざまだった。
馬籠宿の観光施設で働いている女性(30)は「自然の豊かさが坂本の良いところ。ホテルなどができたら、変わってしまうかもしれない」と、県南東部の名峰、日本百名山の恵那山を不安げに見上げた。
駅前の自動販売機のアイスクリームを弟と買っていた中1の女子生徒(13)は、JR東海の「リニア・鉄道館」(名古屋市)を見学したことがある。「都会に行きたい。好きなミュージシャンのライブを見たい」。リニア開業が楽しみで仕方がない。「都会、都会、都会。都会に行きたい」。目を輝かせ、何回も繰り返した。
リニア中央新幹線
時速500キロ超の超電導磁気浮上方式の車両で東京と大阪を最速67分で結ぶ。東海道新幹線の経年劣化や大規模災害に備えて計画された。総事業費は概算で9兆300億円。事業主体のJR東海が自己負担するが、国の財政投融資(3兆円)を受けている。当初は東京・品川―名古屋間(最速40分)の先行開業を2027年としていたが、JR東海は24年3月に「静岡県工区の工期に10年は必要」と表明し開業は34年以降の見込みとなった。
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