宮内庁が交流サイト(SNS)の「インスタグラム」(インスタ)に開設した公式アカウントのフォロワー数が、4月1日の運用開始から3週間で100万人に到達した。皇室の方々へのバッシングを契機に動き出した情報発信強化の「切り札」ともいえるSNS。滑り出しは順調に見えるが、皇室特有の用語の解説や情報ニーズの把握など、課題も多そうだ。
字幕付きの動画も
《天皇皇后両陛下は、令和6年能登半島地震による被災地お見舞いのため、石川県穴水町及び能登町をご訪問になりました》
今月15日、こんな短い文章とともに、インスタの宮内庁公式アカウントに投稿された10枚の写真。ひざを曲げて被災者と言葉を交わし、黙禱(もくとう)をささげられる両陛下の様子が収められている。
他にも、新たに赴任した外国の駐日大使から、天皇陛下が信任状を受け取られる「信任状捧呈式」の動画などを投稿。英語と日本語の字幕付きで、自然豊かな皇居周辺を優雅に進む馬車列や、式の様子が、まるで映画のように臨場感のある映像で紹介されている。
今月21日までの投稿は31件。フォロワー数は100万人に達し、皇室とゆかりの深いオランダ王室との「相互フォロー」も始まった。同庁広報室は「皇室の方々のご活動をより多くの人に知ってもらうことが目的。たくさんの人が見てくださっているのはうれしい」と受け止める。
バッシング契機に
皇室の情報発信強化の転機となったのは、秋篠宮ご夫妻の長女、小室眞子さんの結婚に際してのバッシングだった。眞子さんが「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と診断されたことなどを受けて、令和3年10月、西村泰彦宮内庁長官は記者会見で「情報発信の在り方を研究していきたい」と言及した。
その情報発信の拠点として、昨年4月に新設されたのが広報室だ。広報に関する助言などを行う「広報推進専門官」や、不適切な出版物などに対応する「渉外専門官」といったポストができ、民間企業など外部の広報経験者も登用された。
広報室では、ホームページ(HP)の全面改修に向けた調査を進める一方、SNS活用についても検討。庁内では当初、悪質な書き込みへの懸念などから慎重な意見もあったが、コメント機能を制限し、HPのフォームで意見や感想を受け付けることにし、発足から1年で公式アカウント開設にこぎつけた。
数時間後に投稿
一方で、SNSの利点である「即時性」と、「分かりやすさ」の両立には課題も残る。
陛下は今月17日午前、昭和天皇から続く恒例行事で、皇居内の苗代に種もみをまく「お手まき」に臨まれた。数時間後、インスタに「天皇陛下は、皇居内生物学研究所脇において、水稲をお手まきになりました」として2枚の写真が投稿された。広報室によると、文章の量を減らすことで推敲(すいこう)などの時間を削減し、タイムリーな発信を実現しているのだという。
近現代の皇室に詳しい龍谷大の瀬畑源准教授(日本現代史)は即時性を重視した発信を評価した上で、「『お手まき』などの用語は、最低限の説明がないと一般の人には分かりにくいのではないか」と指摘する。
また、公式アカウントの「なりすまし」とみられるアカウントもすでに出現しており、宮内庁はHPで注意を呼び掛けるなど警戒を強めている。現在は両陛下のお写真だけだが、秋篠宮ご夫妻をはじめほかの皇族方のご活動をどのように発信していくかも、検討中だ。
広報室では今後、HPのフォームに寄せられた意見を集約し、投稿内容などの改良を進めていくという。
瀬畑准教授は「意見を送る人は限られている。それ以外で、皇室を好意的に見ている大多数の層が何を求めているか、どのようにアプローチするかを分析することも重要ではないか」と話している。(吉沢智美)
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