望まない妊娠に悩む女性のために岡山市の医師が中心になって立ち上げたプロジェクト。薬局で医師のオンライン診察を受ければ、その場で「緊急避妊薬」を入手できる。「躊躇(ちゅうちょ)せずもらいにきてほしい」と医師は語る。

「緊急避妊薬」わらにもすがる思い

避妊の失敗や、性犯罪の被害などによる望まない妊娠を防ぐための薬が「緊急避妊薬」、別名アフターピル。性行為後72時間以内に服用することで、主に排卵を遅らせるなどの作用が働き、高い確率で妊娠を防ぐことができるとされている。

岡山県内の大学に通う平岡詩織さん(仮名)は、高校3年の17歳の時に緊急避妊薬を服用した。

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平岡詩織さん(仮名):
当時付き合っていた彼氏と性行為をした時(避妊具が)私の中に残ってしまって、妊娠しているかはわからないけど、念のため緊急避妊薬を服用した。

平岡さんは「アフターピルがあることは知っていたが、どうやったらもらえるのかわからなかった」と話す。

緊急避妊薬はWHO(世界保健機関)の必須医薬品に指定されていて、海外の多くの国では、すでに薬局での一般販売が行われている。

一方、日本では、医師の診察や処方せんが必要なことに加え、公的医療保険の対象外のため、診療代と薬代、あわせて1万から2万円を自費で支払う必要がある。

平岡詩織さん(仮名):
親にばれたくなかったので、まず通販で申し込みをしようとしたが、18歳以上じゃないとだめで、そもそも高校を卒業しないとだめだった。「そんなの無理じゃん」とパニックに近かった。

「時間がたつにつれて、どうしようと不安や焦りがあった」と当時を振り返る。

平岡さんは、わらにもすがる思いでネットの検索画面に表示されたクリニックに電話をかけたという。

平岡詩織さん(仮名):
泣きそうになりながら電話をかけたら、先生が「いいよ、おいで」と言ってくれた。「大変だったね、これを飲んだら大丈夫だからね」と説明してくれた。

無事に服用することができたのは性行為から60時間後で、緊急避妊薬のリミットとされる72時間ギリギリだった。

この時に平岡さんを救ったのが、「アフターピルプロジェクト」。岡山市北区にあるウィメンズクリニックかみむらの上村茂仁院長が中心となって進めている。

「敷居は低く」できるだけ早く処方

「アフターピルプロジェクト」は上村院長を中心に、医師と県内外の26薬局が連携し、緊急避妊薬を必要とする女性が、薬局で医師のオンライン診察を受ければ、その場で薬を入手できる仕組みだ。

上村院長は「できるだけ早く処方できた方がいい。ネットや通販でも販売しているが発送に時間がかかる。その場でもらえるようにしないといけない」と説明する。

24時間オンラインでの診療に対応していて、プロジェクトを開始してから3年弱で延べ1000人以上の女性に処方してきた。

この日もクリニックでは、加盟薬局を訪れた女性のオンライン診察が行われていた。診察時間は5分ほどで、女性は薬局を訪れてから10分程度で、緊急避妊薬を服用できた。

「敷居はできるだけ低くした方が気楽にもらいやすいと思うし、せっかくオンラインにしているのに根掘り葉掘り聞くと意味がない」と上村院長は語る。薬の説明も、診察を受けた女性が動画を見て確認する。

アフターピルプロジェクトに加盟するあかり薬局は、最前線で緊急避妊薬を処方している。

あかりファーマシー・岩野寛樹代表取締役によると、来局したら速やかに別室で問診票を記入する。そこには避妊に失敗した時間や薬の併用などを書くという。

全ての女性が自分を守るための選択肢

夏休み期間や連休明けは、特にニーズが高まる。
一番多かったのは2024年のゴールデンウィークで、1日に10件対応した薬局があった。あかり薬局でも、休日の多い時は1日に5件対応することがあると岩野代表取締役は話す。

緊急避妊薬の処方が最も多いのは「月曜日」で48.5%を占める

厚生労働省が2021年に全国の産婦人科医を対象に行った調査では、緊急避妊薬の処方が最も多い曜日は休み明けの“月曜日”で、全体の半数を占めている。

また、緊急避妊薬を必要とした理由の多くは「避妊具の脱落・破損」がほとんどだが、「相手が避妊に非協力だった」や、中には「同意のない性交」「性暴力」など犯罪に巻き込まれたケースもある。

ウィメンズクリニックかみむら・上村茂仁院長:
避妊に失敗することはよくあること、コンドームだけの避妊では医学的には確実ではない。躊躇してしまうと妊娠するか・しないかしかない。1%でも妊娠する可能性があれば、躊躇せず緊急避妊薬をもらいに来てくれたら。

「望まない妊娠を少しでも減らし、世代を問わず性被害に悩む全ての女性を救いたい」という一心で、医師と薬局が独自に連携したアフターピルプロジェクト。

緊急避妊薬は全ての女性に与えられた“自分を守るための選択肢”だ。

(岡山放送)

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