2022年秋、直腸がんステージⅢbが見つかり開腹手術をした私(62)。抗がん剤投与やCT(コンピューター断層撮影)、大腸内視鏡検査などで再発に備えながら毎日新聞彦根通信部で働いてきた。今年6月下旬にも半年おきのCT検査に臨んだが、おかげさまで肺や肝臓などへの転移は見つからなかった。経過観察が終わり、完治といえるまであと3年余り。酒量を減らして腹八分目、週2~3回のジョギングにも励んでいる。とはいえ直腸付近を約20センチ切除したためか、便通だけは思わしくない。豊富な野菜類や発酵食品だけでなく、主治医から下剤を処方してもらい、排便を促すことになった。【伊藤信司】
健保を極力活用
滋賀医科大(大津市)などが県内病院で集めた「22年度県がん患者アンケート」を読んでみたところ、「治療費用の情報」を求める患者が約4割に上っていた。先進医療などが広がる一方で、出費への不安も根強いようだ。しかし、私自身は健康保険制度をフル活用し、これまで安上がりだったと思っている。病院の明細書などからデータを拾い、その内容を紹介してみたい。
やはり最大の出費だったのは22年11月、名古屋セントラル病院(名古屋市)での開腹手術と入院(13日間)だ。掛かった医療費は163万1880円。車が1台買える値段だ。ところが「高額療養費制度」の限度額が適用され、9万3749円にまで抑えることができた。その限度額も、定年前の給与水準だったら約18万円になるところだった。ちょうど60歳の賃金ダウンを迎えたばかりでタイミングも良かった。おまけに同病院は「全個室」を看板にしており、差額ベッド代を払わずにプライベート空間で過ごすことができた。
そんな公的支援のおかげで年間の医療費負担は22年分が25万232円(総医療費213万5790円)▽23年分10万326円(同33万7340円)で収まった。一方、交通費なども含めた世帯医療費合計が10万円を超えると、その差額が課税所得から控除される。私も22年分の確定申告でその控除をしたところ、さらに1万数千円の所得税が戻ってきた。
私の人生訓
連載第4回で書いたように、私は5歳の時、父を胃がんで失っている。父が1966年末に倒れて入院すると、祖父は何度もアタッシェケースで札束を運び、院内の医師や看護師らに心付けを配ったそうだ。奇跡の復活を願い、わらをもつかむ思いだったろうが、3カ月後には37歳の若さで逝ってしまった。
そんなエピソードを聞いてから、「お金がかかる物を信じない」が私の人生訓になった。民間のがん保険にも入っていないが、高額療養費制度の恩恵を受け、その気持ちは更に強まっている。病気に立ち向かう体力作りも、スポーツジム入会金を払う前に、近所でのジョギングを極めたいと思っている。
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